デフは駆動輪が1輪でもスリップしてしまうと、駆動力がかからなくなると書きました。それを改善するのがLSDです。LSDには、いくつかの種類がありますが、ここでは湿式多板式(クラッチプレート式)とビスカスカップリング式を解説します。前者は、デフ内部に摩擦によって圧着するクラッチプレート式を使用しています。駆動力がかかったときにこれが効くことによって左右のタイヤを直結に近い状態にすることができます。
駆動力はファイナルギヤからデフに伝わります。
このタイプのLSDにはピニオンシャフトによって押し広げられるプレッシャーリングというパーツが備えられています。駆動をかけるとピニオンシャフトがプレッシャーリングを押し広げ、その力がクラッチプレート(フリクションプレートとフリクションディスク)に伝わるという流れになります。
ただ、このままでは1輪が空転していると結局駆動力が逃げてしまうというデフの欠点はそのままで、ノーマルデフと同じです。そのため、コンプレッションスプリングをデフケース内部に設けて、あらかじめ少しだけクラッチプレートを接触させておきます。この力をイニシャルトルクといいます。
このタイプのLSDは大きく走行性能に影響します。コーナリング中でもトラクションが大きくなるのでスポーツ走行では必需ともいえます。サスペンションセッティングとLSDの効かせ方で操縦性が決まってきます。車種によっては純正やオプションで用意されることもあります。
ビスカスカップリング式LSDはシリコンオイルの粘性を利用したものです。左右のタイヤに回転速度差が発生したときに差動制限をするため、回転差感応式と呼ばれています。内部にはシリコンオイルの他、アウタープレートとインナープレートが装着され、タイヤの回転差が生じるとシリコンオイルがかき回され膨張しプレートを押し付けます。
湿式多板式がしっかり効くのに比べると、粘性を利用しているた効き方はマイルドな方向になります。ただ、一般的に使用する分には十分な能力を発揮しますし、4WD車のセンターデフに併せて用いると、前輪と後輪の回転差を吸収しつつ差動制限も行なうために欠かせないパーツとなっています。
ライター、編集者です。主にクルマ系の単行本を執筆しています。主な著書:「モータリゼーションと自動車雑誌の研究(グランプリ出版)」、「スバルサンバー 人々の生活を支え続ける軽自動車の半世紀(三樹書房)」、「きちんと知りたい! 自動車エンジンの基礎知識(日刊工業新聞社)」など多数。
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