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読書する日々と備忘録

主にライトノベルや小説など読んだ本の紹介まとめや出版関係のことなどについて書いています

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開拓したい!おすすめ文芸単行本・文庫30選

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【BookWalker】春のコイン大還元祭(3/17まで)

今回はBookWalkerで2025年1月7日までに配信された全作品を対象に、1回のお支払い金額1,500円(税込)以上でコイン50%還元中!ということで対象作品の中からおすすめ30作品をセレクトしてみました。 気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。

※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。

 

1.龍女の嫁入り 張家楼怪異譚 

唐の憲宗の時代。成都随一の高級旅館「張家楼」を預かる張家の病弱な末息子・琬圭が、謎めいた売卜者の李俊と知己を得て、彼の美しい娘・小寧を娶る中華ファンタジー。幽鬼、妖魅のたぐいを引き寄せやすい琬圭が、その難を避けるためにもと李俊の提案で娶った、半分龍の血を引くという気が強く美しい娘・小寧。虎に食われたり溺れ死んだり、賊に殺された幽鬼たちの心残り、失踪した細君の真相、死して使役される娘といった問題を2人で一緒に解決してゆくストーリーで、すぐに何かに取り憑かれるお人好しの琬圭に、小言を言いながらも放っておけない小寧の構図が微笑ましくて、それでいて意外と強かな一面を垣間見せる琬圭にも秘密があって、お互い認め合うようになってゆくいい夫婦っぷりでお似合いの2人でした。

2.禁忌の子 

山口 未桜 東京創元社 2024年10月10日頃
救急医・武田の元に搬送されてきた自身と瓜二つの溺死体。彼はなぜ死んだのか、なぜ同じ顔をしているのか。武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める医療ミステリ。身元不明の遺体の謎を調べていくうちに浮かび上がる産婦人科クリニックの存在。しかし鍵を握っていると思われる人物に会おうとした矢先に、その相手が密室内で死体となって発見されてしまう展開で、自分のルーツを探ることにもなる真相の究明が、思わぬところに波及して繋がっていきましたけど、探偵役となる城崎も掴みどころのない少し変わったこだわりを見せるタイプで、何よりそのタイトルの意味を突きつけられる業の深い結末が、鮮烈な印象を残す物語になっていました。

3.小説 

野崎 まど 講談社 2024年11月20日頃
我々はなぜ小説を読むのか。五歳で読んだ『走れメロス』をきっかけに、読書にのめり込んでいった内海集司が、小説の魅力を共有することができる生涯の友・外崎真と出会う物語。最初は父親が喜ぶ姿を見るために背伸びして読んでいた読書。彼にとって孤独なものだった読書が、十二歳の時にふとしたきっかけから外崎と運命の出会いを果たし、小説家が住んでいるモジャ屋敷に一緒に潜り込んで、好きなだけ読書する日々を送っていた集司。けれど外崎の類稀なる文才に気づいてしまい、何者にもなれない自分に葛藤する一方、自分が好きな本を読むだけで生きていくことも難しくて、彼の切なる問い掛けにはなかなか来るものがありましたけど、その熱量のある密度の濃い物語とその結末には凄いものを読んだ感しかなかったです…。

4.藍を継ぐ海 

伊与原 新 新潮社 2024年09月26日頃
人間の生をはるかに超える時の流れを見据えて、今日も日本のどこかで大切な何かを受け継ぐ人がいる。科学だけが気づかせてくれる大切な未来を描いた5つの物語。何とかウミガメの卵を孵化させて、自分一人で育てようとする祖父と二人暮らしの中学生の女の子、年老いた父親のために隕石を拾った場所を偽ろうとする身重の女性、萩焼に絶妙な色味を出すという伝説の土を探し続ける元カメラマンの男、空き家で膨大な量の謎の岩石やガラスを発見した若手公務員、そして山奥でニホンオオカミに出会った女性のウェブデザイナー。どのエピソードも時の流れを感じさせる壮大な物語の中で、それを受け継ぐ覚悟を定めていく姿が印象的な物語でした。

5.婚活マエストロ 

宮島 未奈 文藝春秋 2024年10月25日頃
婚活事業の紹介記事を引き受けた、40歳の三文ライター猪名川健人が、婚活マエストロ鏡原奈緒子に出会う婚活小説。長らく住むマンションの大家に紹介されて参加した手作り感あふれる地味なパーティーで、鏡原の見事な仕切りっぷりに感銘を受けた猪名川。最初はあまりいいい印象を持たれなかった彼が、なし崩し的に実際に参加したりイベントを手伝うようになっていく展開で、応募してくる様々な個性的な参加者たちとの印象的な出会いを重ねてだんだんと心境が変化していく様子が印象的でしたね。距離感が少しずつ近づく中で、秘密や背景も明らかになっていった鏡原との関係もなかなか良かったですし、気になる2人のその後をまた読んでみたくなりました。

6.サーペントの凱旋 となりのナースエイド 

星嶺医大附属病院の伝説的外科医・火神の命までも奪った奇病シムネス。澪と大河が再びタッグを組み、シムネスの驚くべき秘密に迫る医療ミステリ。火神の死から三年後。ナースエイドと外科医の二刀流で働き、新時代がん治療装置であるオームスのテストオペレーターとして、ハイレベルな手術を一手に引き受けていた桜庭澪。その実用化に向けた重要な手術を控えたある日、医師免許を剥奪され海外に渡っていた竜崎大河が突然姿を現す展開で、その相変わらずな性格には苦笑いでしたけど、大河の外科手術に対する姿勢はどこまでも真摯で、シムネスを巡る何とも皮肉な真相と絶望的な状況にも諦めず、2人で協力して窮地を切り抜ける熱い展開には心揺さぶられるものがありました。

7.恋とか愛とかやさしさなら 

恋人の啓久と交際5年目のカメラマン新夏。東京駅の前でプロポーズしてくれた翌日、啓久が通勤中に女子高生を盗撮したことで、2人の関係が一変する恋愛小説。彼は事実を認めて示談が成立して起訴こそされず、彼の母や友人は大したことではないと言うけれど、二度としないと誓う啓久とやり直せるか葛藤する新夏。一方の啓久側も一度の過ちがいつまでもついて回る状況を突きつけられる様子が描かれていて、縁あって再会した被害者の心情も綴られていましたが、挽回しようと頑張ってるつもりでも、周囲からはそれがどう見えているのか。いつか本当の意味で許されたと思える日が来るわけでもなくて、もう一生抱えて活きていくしかないんですよね…。

8.こぼれ落ちる欠片のために 

マンションの一室で発生した殺人事件の現場に向かった県警捜査一課の和泉。上の命令で第一印象が最悪だった女性警官・瀬良とタッグを組み殺人事件を捜査する警察ミステリ。コミュニケーション能力が壊滅的ながら、その卓越した観察眼で事件解決に至る重要なきっかけに気づく瀬良。そんな彼女とコンビを組んで挑む中で明らかにされてゆく、殺人事件に隠された覚悟、事件に関する証言を頑なに拒み続ける謎、時間が迫る中で解決の糸口が見えない誘拐事件の意外な真相。その捜査に思い込みがないか、思い描いたストーリーとは違った物証が出てきた時、真相にどう向き合うのか。正しい刑罰の難しさが問われる中でその真意も受け止めながら、落とし所を見出してゆくそれぞれの結末が印象的な物語になっていました。

9.夜更けより静かな場所 

夏休みのある日、伯父・遠藤茂が営む古書店を訪れた大学三年生の吉乃。おすすめされた本をきっかけに不思議な読書会に参加する連作短編集。おすすめされた本に思いの外のめり込んで、感想を交換する場がないことを茂に話して提案された深夜の読書会。茂に吉乃、吉乃のゼミ仲間、非正規雇用の司書、グラフィックデザイナー、古書店のアルバイトと年齢と職業もバラバラな6人構成から始まった、読書会だけで終わらない交流があって、描かれる登場人物たちのエピソードも描かれ、背景も掘り下げられていく中で、突然の急展開からの結末には切なくなりましたけど、本を読む楽しさを共有するだけでなく、それぞれが抱える問題に向き合って乗り越えていく姿も印象に残りました。

10.この恋だけは推理らない

【東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞受賞作】

ネタ切れでスランプに悩む女子高生恋愛小説家・小井塚咲那が、2年2組教室で『恋愛の神様』と呼ばれる岩永朝司と出会う、恋と推理とちょっとの不思議が織りなす学園ミステリ。ネタになりそうな恋バナを教えて貰う代わりに恋愛相談の助手として手伝うことになった咲那。2人が解決する人気者すぎるイケメンの苦悩、付き合うと不幸になる男子生徒、引きこもっている朝司の義妹・木葉、そして朝司自身が抱える悩み。途中で青天の霹靂ともいうべき展開が待っていましたが、コミュ障だけれどお人好しな咲那が、複雑な思いを抱えながら朝司の問題解決に協力して、その過程で浮かび上がってくる問題の真相に迫って謎を解き明かしながら、想いを自覚していったままならない恋の結末がなかなか魅力的な物語でした。

11.僕たちの青春はちょっとだけ特別

【東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞受賞作】

両親と相談して高等支援学校に入学した15歳の青崎架月。初めてできた友人たちと学校生活の中で出合った三つの謎に挑む連作学園ミステリ。中学まではクラスのお客様扱いでぼんやりと過ごしてきた架月が、たびたび難しい状況に直面しながら、当事者として向き合っていく先輩が巻き込まれたゴミ散乱事件、ロッカーの中身移動事件、生徒失踪事件。著者さん自身が実際に向き合ってきたからこそ描くことができた物語だと感じましたけど、生徒たちの繊細な心情を丁寧に描きながら、見守る先生たちもどうするのが最善なのか温かく寄り添う中で、生徒たちが中心になって彼らなりに向き合って懸命に考えて、答えを見出してゆく姿に確かな成長を感じさせてくれる物語でした。

12.その噓を、なかったことには 

物語のラストでこれまでの景色が一変する切れ味鋭い「どんでん返し」の短編が5つ収録されたミステリ短編集。帰宅してリビングで死んでいた男と妻の関係を探る夫が陥った結末。人気ロックバンドの新曲MVに出演したことで、嫌な方向に向いていく日常。卒業式で誰かが仕返しをするという噂が流れ、調べ始めた担任教師。妊娠中の妻に代わって義母の遺品整理に立ち会った夫が発見した恐ろしい手紙。そしてキャンプ場で映画を撮影していた大学生たちの1人が亡くなったのは、事件なのか事故なのか。そういう作品だと分かっていてもそうきたかと驚かせてくれる、その巧みな構成は流石でした。

13.ナチュラルボーンチキン 

ルーティンを愛する45歳事務職と、ホスクラ通いの20代パリピ編集者。同じ職場の真逆のタイプの女から導かれて出会い、忘れかけていた本当の自分を思い出していくミラクルストーリー。毎日同じ時間に出勤退勤しルーティン人生を送る、出版社労務課勤務・浜野文乃45歳。そんな彼女が上司の命令で捻挫で三週間の在宅勤務を続ける編集者・平木直理の自宅に様子を見に行った結果、思いの外懐かれて、その影響を受けて少しずつ変わってゆくこれまで体験したこともなかった日々は新鮮で、その中で文乃が代わり映えしない日々を送るようになった過去の原因も明らかになりましたけど、考えずに済む毎日から新たな一歩を踏み出した文乃の勇気や、変わりつつある彼女が触れた人々の温かい優しさがなかなか良かったですね。

14.あの日の風を描く 

愛野 史香 角川春樹事務所 2024年10月15日頃
京都の美大油画科を休学中の稲葉真が、従兄の声がけで狩野探幽の血縁であり、父が狩野派を破門された清原雪信の娘・平野雪香が描いた襖絵の復元模写制作を手伝う物語。修士で年上の土師俊介や蔡麗華とともにチームを組んで復元模写に挑む、十二面の花鳥図だが現存するのは九面と切り貼りされた一部のみの襖絵。過去の挫折で自信を喪失していて、最初は距離感を掴みかねたり、劣等感で自信を失ったりしながら、徐々にお互いのことを知って信頼関係を築いていく中で、良いところを認めて刺激し合えるような関係が育まれていって、真の立ち位置から思わぬ妨害がありましたけど、積み重ねた実力でしっかりと認めさせて、力を合わせて最後まで見事やりきってみせたその結末には心揺さぶられるものがありました。

15.音のない理髪店 

一色 さゆり 講談社 2024年10月23日頃
作家デビュー後、次の作品を書けずに前に進めなかった五森つばめ。彼女が聾者だった祖父の半生を描くことを決意して、関係者への取材を勧めていく中で時を超えて思いが繋がっていく物語。日本で最初のろう理容師だったとされるつばめの祖父・正一。聾者にとって今よりもはるかに偏見も多く、厳しかった時代になぜ信念を持って生きることができたのか。疎遠になっていた父や伯母、そしてどこか苦手意識を抱いていた祖母に再会して向き合い、つばめの祖父に関する取材を進める中で、音のない世界を知り、過酷な環境を生きた祖父と周囲の人々の姿が浮き彫りになりましたけど、取材した人々が抱えてきた秘密にもひとつひとつ解きほぐすようにしっかりと向き合って、三代にわたる希望を繋いでゆく姿がとても印象的な物語でした。 

16.崑崙奴 (星海社FICTIONS) 

古泉 迦十 星海社 2024年11月27日頃
大唐帝国の帝都・長安で生じた奇怪な連続殺人。友人の崔静の家に仕える崑崙奴から相談を受けた落第続きの進士・裴景が事件解決に挑む中華ミステリ。屍体は腹を十文字に切り裂かれて臓腑が抜き去られており、犯人は屍体の心肝を啖っているのではとの懸念も生まれる中、突厥人の兜とともに事件を追ううちに、怪しげな道士や商胡の全滅事件に繋がり話としても広がっていって、途中から解説が増えたたことでどうしても重くなった感はありましたが、安禄山の乱直後の雑然とした時代の雰囲気を感じさせつつキャラもよく動いていて、奴隷で家から出られない崑崙奴が人を動かして安楽椅子探偵のごとく事件解決していく展開もなかなか良かったですね。

17.マリアを運べ

【第14回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作】

17歳の運び屋の風子に持ち込まれた、新種のバイオ医薬品を運ぶ依頼。ヤクザや新興宗教、某国のスパイまでもが荷物を狙うなか、依頼完遂を目指すカーチェイスアクション。医薬品を勤務先から奪った志麻自身と盗み出した薬とデータを、或る時間までに東京から長野の諏訪まで運ぶ依頼を引き受けた風子。一度走った道をすべて記憶していることが特技の彼女が、持ち前の運転技術を活かして長野県の諏訪を目指す展開で、道中現れる様々な障害をどう掻い潜っていくのか、その中で各方面から狙われる運んでいるものの中身も明らかになっていって、やや描写があっさりめで荒削りな部分もありましたが、魅力的なキャラとテンポよく進むストーリーが魅力の作品でした。

18.同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA) 

独ソ戦が激化する1942年、急襲したドイツ軍によって母や村人たちが惨殺され、赤軍の女性兵士イリーナに救われたセラフィマが復讐のために狙撃手を目指す物語。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵を目指すセラフィマ。成長した彼女がスターリングラードの前線へと向かう展開で、彼女が多くの仲間を喪いながら、何とか生き延びたあまりにも理不尽で過酷な戦争は、果たして何が正しく間違っているのかなかなか難しいものでしたけど、時折垣間見える彼女の危うさにハラハラさせられながら、過去の因縁はしっかりと決着をつけてみせた彼女の生き様が印象的な物語でした。

19.7.5グラムの奇跡 (講談社文庫) 

視能訓練士資格を手にした野宮恭一が、街の小さな眼科医院の人の良い院長に拾われて視機能を守るために働きはじめる連作短編集。国家試験に合格したもののなかなか就職先が決まらなかった野宮。最初は失敗続きだった彼が凄腕の広瀬先輩にフォローされながら向き合ってゆく、女の子の視力が落ちた原因や、カラコンをする女性の目の痛み、緑内障の治療に通う患者たちのこと、薬局の隠居老夫婦、そして原因不明の視力低下に悩む少年。不器用だけどまっすぐな野宮が出会った患者や、周囲の人の一人ひとりとと真摯に向き合い続けていく中で多くの気づきを得て成長して、信頼されるようになってゆくその姿がとても印象的な物語でしたね。

20.捨てられた皇后は暴君を許さない (集英社オレンジ文庫)

懸命に政務をこなしていたのに皇帝に突如弾劾され、山寺で余生を過ごすことになった皇后の姚白瓊。しかしその2ヶ月後、またも皇帝に今度は後宮に戻ってほしいと唐突に懇願される中華風ファンタジー。政務どころか後宮から出もせず、贅沢三昧で色街で馬鹿騒ぎしていた皇帝の豹変。国の滅亡を回避するために皇帝の身体を乗っ取った未来の壮人に協力を依頼されて覚悟を決める展開で、ポイントとなってくる太后の贅沢三昧、白瓊を陥れようとする張貴人、そして白瓊のことを聖女扱いする皇弟の秘密。本来の流れを変えた反動に直面して、中身が別人となった夫に対する複雑な想いにも葛藤しながら、激動の展開を乗り切ってみせたその結末はなかなか良かったですね。

21.旦那の同僚がエルフかもしれません (富士見L文庫) 

竹岡 葉月/コタチユウ KADOKAWA 2024年11月15日頃
祖父が営む弁当屋で働くうちに、常連だった伊吹と恋に落ちて、数年の遠距離恋愛の末に結婚したひばり。団体職員の仕事をする伊吹が時々変わったお客を連れてくる少し不思議なおもてなしファンタジー。出張も多くなかなか帰ってこない仕事が玉に瑕だけれど、真面目で優しい素敵な夫の伊吹。しかし彼が請われて家に時々連れて来るのは、エルフやドワーフの同僚、人狼の上司、見た目は小学生な魔王のワガママ娘といった個性的なメンツたちで、そこから伊吹が抱える事情も明らかになっていきましたけど、ひばりのほがらかな人柄と彼女が振る舞う美味しそうな料理に誰もが魅せられていって、自覚もないまま異世界の危機を救ってみせる一方、2人のかけがえのない関係も掘り下げられてゆくとても素敵な物語でした。

22.完全なる白銀 (小学館文庫) 

北米最高峰デナリの冬季単独行に挑み、下山途中に消息を絶った親友リタ。彼女が登頂した証を求めるべく、写真家の藤谷緑里とシーラがデナリに挑む山岳小説。自らの故郷サウニケの危機を知らしめるために、登山家として活動していたリタ。しかし彼女が「山頂から“完全なる白銀”を見た」という言葉を残して下山途中に行方不明になってしまい、その言動を疑い<詐称の女王>と書き立てたマスコミ。リタの不名誉を晴らすためにデナリに挑む親友二人。極限の地で向き合うブリザードや霧、荷物の遺失、高度障害といった厳しい状況の連続に、二人の信頼関係も揺らぎかける展開でしたけど、様々な葛藤や危機も乗り越えて辿り着いた先に見えた結末がなかなか印象的な物語でした。

23.紫姫の国(上・下) (新潮文庫) 

酒浸りの父親が逝き、商いの船旅に出て奴隷として売られそうになった青年ソナンと過酷な運命を課された少女ウミ。絶体絶命の二人の運命が交わるファンタジー。騙され奴隷としてて売られそうになったところを海へと飛び込み、親友を亡くしながらも何とか生き延びて、岩棚に投げ出され水も食料もなく死と隣り合わせの地でウミと運命の出会いを果たしたソナン。2人で語り合いかけがえのない時を過ごし、彼女と再び出会うために生き延びることを決意した彼が、1年後に再会したウミから話を効いて素性と事情を知り、協力して何とか試練を乗り越えましたけど、2人がこれからどんな関係になっていくのか、どのような結末を迎えるのかその続きが気になる上巻でした。
三年のうちに女児を産まなければ殺される。再会したウミに課されていた過酷な運命を知り、驚きながらも協力したソナン。彼女をこの手で守るために覚悟を決めていく下巻。彼女と再び会うために、二度目の別れ際に彼女から事細かに出された指示を忠実に守り、素性を隠し顔を灼き、国を横断して都に入ったソナン。ようやくたどり着いた先で待っていた再会からの束の間のやり取りや、そこからの思いもよらぬ指令の先に待っていた結末は何とも切なかったですけど、ただひたすら数奇な運命に振り回されていたかけがえのない大切な人のために生きて、自分がしなければならないことを最後までやりきって、これからの覚悟を定めていくソナンの姿が鮮烈な印象を残す物語でした。

24.草原の花嫁 (集英社オレンジ文庫)

日高 砂羽/憂 集英社 2024年12月19日頃
皇族の生まれながら父親が謀反の冤罪で処刑され奴隷に身を落としていた翠鳳。彼女が皇帝の命で和平の証として遊牧民族の北宣に偽公主として嫁ぐことになる中華ファンタジー。政の安定を図るため、皇太子の実母は死を賜る子貴母死の慣習がある北宣へ嫁ぐことを公主が嫌がったことから、その代わりに送られることになった翠鳳。道中は海賊に襲われ、従者にも嫌われて一人嫁ぐことになった彼女が、文化や価値観の違いによる偏見から、容易には受け入れられず嫌がらせもある中、覚悟を決めて自らの居場所を作るため、国がどうすれば良くなるのか前向きに様々なことに取り組んで、皇太后という権力者と悪習は変えていこうとする皇帝・永昊の対立や思わぬ騒動もありましたけど、そんな中でも永昊を支えて周囲にも認められていく姿が良かったですね。

25.コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎 (創元推理文庫) 

カフェ〈アンブル〉でコージーミステリー談義を楽しむ《コージーボーイズの集い》。参加メンバーが各々の推理を披露していく中で、マスター茶畑が謎を解き明かす連作ミステリ。ミステリ談義の集まりにひとりゲストをお呼びして、毎回カフェでゆるゆると行う推理合戦。次の日には消えてしまった居酒屋の謎、ありえざるアレルギーの謎、コーギー犬とトリカブトの謎、ロボットはなぜ壊されるのか、謎の喪中はがき、見知らぬ10万円の謎、郷土史症候群の7編が収録されていて。鋭いマスターの推理もなかなか良かったですけど、その前段のミステリ好きが集まってあれくれ繰り広げていくやりとりも楽しかったです。毎回掲載されている作家コメントもいい感じに効いていました。

26.神様の次くらいに: 人の死なない謎解きミステリ集 (創元推理文庫) 

小さな謎かもしれないけれど、これを解くのはそれなりに重要。そんな日々の暮らしの中にふと入り込んだ謎とその解明を鮮やかに描いていく、人の死なない謎解き作品集。児童たちの間で起きたカード紛失事件に挑む新米教師、密室だった男子サッカー部の部室から消失したパソコン。憧れの女性と家電量販店の開店前行列に並んだ整理券を巡る謎。サプライズパーティーでプレゼントを用意したのは誰か。サブタイトルにあるように人の死なないミステリのみで構成されていて、それを解いたからといって逮捕されたりはしないけれど、解かないとどこかスッキリしない謎を解き明かしていくスタイルは気軽に読めましたし、いずれのエピソードも悪くない結末で終わっているのはもうひとつのポイントでしたね。

27.いつも駅からだった (祥伝社文庫) 

謎解きはいつも駅から始まった。京王線の下北沢、高尾山口、調布、府中、聖蹟桜ヶ丘の5つの駅から始まる謎解きミステリ。舞台とした盗作疑惑で炎上中のバンド仲間から届いた謎めいたメール。部活も辞めて引きこもってしまった息子の複雑な想い。暗号のような手紙を孫娘に送り姿を消した祖母。自由奔放な次女が堅実な長女に渡した不思議なバースデーメッセージ。そして謎解きにアドバイスしてくれる謎の駅員さんの正体。それぞれの駅を舞台としたひとつひとつのエピソードや、そこに出てくる謎解きもなかなか良かったですけど、何より謎の駅員さんを巡る過去、そして切ないけれどとても温かい結末がまた効いていました。

28.黒雪姫と七人の怪物 最愛の人を殺されたので黒衣の悪女になって復讐を誓います (新潮文庫nex) 

冤罪で処刑された最愛の人のため、悪女と化してでも徹底的な復讐に燃える若き元伯爵夫人アナベルが、故郷を追われた訳あり元従僕シロと出会う復讐劇。次期女王の死を悲しむ陛下を慰めるため、色鮮やかな服を着るよう定められた北の公国で唯一黒衣を身にまとう、美しくもどこか普通ではないアナベルと、優しい気質を持ちながらその特異体質ゆえに居場所を失った元従僕のシロが出会い、彼女のもとで働くようになる過程で少しずつ知ってゆくその背景。彼女が調べていた結社の所業はおぞましいものがあって、アナベルとシロの意意外な繋がりも気になるところですけど、何より外では「聖処女」と褒めそやされる第二皇女が垣間見せるその本性もなかなか衝撃的でした…。

29.チーズ店で謎解きを (光文社キャラクター文庫) 

フレンチより居酒屋、ワインよりも日本酒、というイケオジ好き会社員・園羽純。同期の萩に連れられて堪能したチーズ専門店「フォンテーヌ」が事件を解決してくれる連作ミステリ。同期の萩に連れられてやってきた「フォンテーヌ」で、チーズの美味しさから魅力にうっかりはまってしまい、一見とっつきにくい常連客とも顔なじみになってますますはまってゆく羽純。美味しそうなチーズの蘊蓄もなかなか詳しくて興味深かったですけど、彼女に降りかかるイケオジ上司の不倫疑惑や友人のアレルギー事件、誰かにプレゼントされたチーズ紛失する事件もお店が解決してくれて、けれどてっきりこうなるのかな…と思っていた人間関係は思わぬ顛末を迎えることになってちょっと意外でしたね。

30.ビストロ・べーテヘようこそ 幸せのキッシュロレーヌ (角川文庫) 

現実に少し疲れた人の前に現れる、豪華なビストロとめくるめく料理、そして謎に包まれたシェフ。美味しい一皿と再生を描いた連作短編集。付き合っていた彼は後輩と結婚して仕事もクビになったマチコ。美容サロンを経営して再婚相手を探す雅。検索して好条件につられて興味を持った可憐。婚活アプリ経由で彼女たちをビストロに招待して、美味しい料理でアプローチする一方で、美味しい料理を堪能した彼女たちは見失いかけていた大切なことに気付かされて、シェフに対してはわりと容赦なく指摘するものの、すれ違った彼とお手伝い・すずとの仲直りに協力する彼女たちとのこれからをまた読んでみたくなりました。

 

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ラノベやキャラ文芸、文芸単行本を中心に、ファンタジーや青春/お仕事小説、ミステリなど、面白ければ何でも読む雑食系読書廃人が読んだ本を紹介したり、思いついたことを書いたりまとめたりするためのブログ。

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