グリコもユニ・チャームも苦渋、トラブル相次ぐERP導入に潜む大きな理解不足
ERP(統合基幹業務システム)の導入に失敗した挙げ句、ビジネスが止まる――。ERPにまつわるシステム障害が相次ぎ発生している。江崎グリコは独SAPのERP「S/4HANA」を使って構築した基幹系システムの障害で、プッチンプリンなどチルド品の出荷停止に追い込まれた。ユニ・チャームもS/4HANAと物流システムの連係を巡る障害で、製品の出荷に遅延が生じた。
なぜERPの導入はうまくいかないのだろうか。イチからシステムを構築するわけではなく、形のあるパッケージソフトを導入するにもかかわらず、だ。
SAPや米Oracle(オラクル)など大企業向けのERPパッケージを中心に、導入に失敗することは今に始まった話ではない。日経コンピュータのコラム「動かないコンピュータ」では2000年代前半から繰り返し、ERP導入の失敗事例を取り上げてきた。中には訴訟に至った事例もある。
筆者自身、これまでERP導入の失敗事例を取材する機会が複数回あった。ERP導入を巡った裁判の記録を閲覧したこともある。様々な取材を通じて思い至ったのは、関係者による「ERPに対する誤解」が導入失敗の最大の原因ではないかということだ。以下では大企業・中堅企業向けを前提に、ERP導入失敗の原因を考えてみた。
現場の生産性を犠牲にしても、経営を最適化するのがERP
ERP導入を巡る最大の誤解は、「パッケージソフトの合わない部分は、アドオン(追加開発)ソフトを開発し、自社の業務に合わせればいい」という考えを多くの人が持っている点だ。
ERPは経営の最適化を目的としたソフトウエアである。極端な話、現場の生産性が多少落ちたとしてもERPの持つ標準的な業務プロセスに合わせることで、企業固有の無駄な業務を削減し、経営判断に役立つデータを集めようというのがERPの基本的な思想だ。
そもそもエンドユーザーの業務を効率化するためのソフトウエアではないのだ。そのため、「合わない部分」は発生しない。「合わせる」のが当たり前だからだ。「ERPを導入した結果、実際にERPにデータを入力する経理担当者の業務負担が増した」と言って、導入を推進しているIT部門と現場部門がもめるケースはよくあるが、ERPの持つ業務プロセスや業務処理方法に合わせるのだから、負担が増すこともあるだろう。
そのため「合わない部分はソフトウエアを修整して合わせる」というのは本末転倒だ。世界中の企業の標準的な業務プロセスを提供しているERPパッケージの目的を損ねてしまう。
無理やり自社の業務に合わせるために、アドオンソフトやカスタマイズをした結果、ERPが標準で持つ業務プロセスやデータと整合性が採れなくなり、稼働後にシステム障害が発生する。
今からERPの導入を検討しようとしている企業の場合、「ERPの業務プロセスが合わない部分は、アドオンソフトの開発で乗り切りましょう」と提案してくるITベンダーがあったら要注意だ。そのベンダーはERPを理解していないので、依頼するのをやめたほうがいいかもしれない。
もし自社の業務プロセスにERPがどうしても合わないと評価するのであれば、そのERPを利用しないのが得策だ。自社開発に切り替えたり、自社に合う別のパッケージソフトを探したりするのが肝要だろう。合わないのに「世界中の企業が使っているから」「競合が使っているから」といった理由でERPを導入すると、アドオンの本数が膨大になり、開発の収拾がつかなくなる。その結果、「動かないERP」になってしまう。
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