1社応札・親密企業疑惑・音声漏洩、オリパラアプリ調達で検証すべき3つの疑念
- 日経クロステック/日経コンピュータ
IT
5 min read
有料会員限定記事
東京オリンピック大会の開幕が2021年7月23日に迫る中、政府が「オリパラアプリ」調達プロセスの検証に乗り出す。平井卓也デジタル改革相は2021年7月6日の会見で、外部の有識者を招いてオリパラアプリを専門に調査・検証する組織を同日に発足させると発表した。
平井大臣はその理由を、週刊誌など一連の報道に加えて、「法的には問題がなくても調達手続きが適切だったのか検証すべき点がある」と説明する。デジタル庁設置に先行して政府が発足させる予定のコンプライアンス委員会に調査結果を報告し、デジタル庁での徹底した透明・公正なIT調達改革につなげるという。
オリパラアプリの正式名称は「統合型入国者健康情報等管理システム(OCHA)」。同アプリを巡っては、発注費の減額交渉に関する内部会議の音声データが外部に流出したほか、一部の週刊誌は平井大臣や担当する職員らに対する疑惑も報じた。何より、一般競争入札を行いながら選定プロセスの期間が極めて短く、競争がない1社応札でベンダーが決まった点が疑念を招いている。
平井大臣はデジタル庁ではベンダー選定の公正さやコストの適正さなどで国民の疑いを招かないよう、政府IT調達のプロセスを徹底して透明にすると断言している。オリパラアプリの過程がどう検証されるかは、デジタル庁における政府IT調達改革の本気度を占う事案になる。
「アプリ開発は知らされていなかった」と平井大臣
第一に検証すべき疑念は、一連のベンダー選定プロセスにおける平井大臣の関与の仕方だ。オリパラアプリは平井大臣が所管する内閣官房IT(情報通信技術)総合戦略室が発注を担当した。一般競争入札を実施したものの、入札公告から応札までが10日あまりと極めて短かったこともあり、NTTコミュニケーションズが代表幹事を務める5社の企業連合だけが応札し、2021年1月14日に発注先として選ばれた。
週刊文春は平井大臣と内閣官房IT総合戦略室の幹部職員がNTTと会食した事実をもって、平井大臣が接待相手であるNTT子会社のNTTコミュニケーションズの選定に関わった疑いを報じている。実際に平井大臣がアプリの調達でNTTコムの選定に関与したかどうかは検証されるべきだといえる。大臣も調査組織は自らの会食や関与も含めて検証するとしている。
この点に関する平井大臣のこれまでの主張は一貫している。疑惑が報じられる前の2021年1月末の国会で、オリパラアプリ開発についてIT室の職員から報告を受けたのはベンダー選定より後の2021年1月中旬以降だったと答弁している。週刊文春がNTTとの会食を報じた幹部職員である向井治紀IT室長代理も、本人を含めて複数の関係者が日経クロステックの取材に対して、向井氏はアプリ調達の担当外だったと証言している。
平井大臣は疑惑報道の前から発注方法に疑問を投げかける趣旨の発言をしていた。週刊文春がNTTと平井大臣が最後に会食したとする2020年12月4日はちょうどアプリの開発方針が決まった直後だが、2021年1月末の国会答弁をみる限り、「(この時点で)アプリ開発の事実を知りようがなかった」という平井大臣の主張に明らかな矛盾はないように見える。
IT室でアプリ調達業務を率いたのは、慶応義塾大学環境情報学部教授で、IT室の業務も兼務する神成淳司IT室長代理だった。担当職員も含めた複数の職員の証言によると、神成教授をリーダーとする10人弱のチームがアプリ調達を担当している。
流出した音声データで、アプリ発注金額の減額交渉に関して、平井大臣が叱責した職員の1人が神成教授だった。音声データを公開した際に、「何の役にも立たないものを作ったら、お前の判断も悪いから。そんな仕事、受けるな。あんたの責任になる」との大臣発言の相手が神成氏だったことをIT室が明らかにしている。
調査組織は音声データが一部マスコミに流出した経緯も検証する見通しだ。
検証すべき第二の疑念は、入札公告から応札期限が10日あまりと極めて短期だった一般競争入札は適切だったのか。加えて発注ベンダーとの関係では、アプリ調達を担当した神成教授ら職員と企業連合に参加するITベンダーと関係も検証テーマに浮上する可能性がある。これが第三の疑念だ。
次のページ
神成教授開発の技術を採用、「短期開発に最適」この記事は有料会員限定です
今日の必読
Today's Picks
9 min read

6 min read

3 min read
4 min read
7 min read
5 min read

1/27(火)開講 AI・デジタル技術の活用を進める課長とその候補・PMOの実践力開発講座【第16期】
CIO・CDOを支えデジタル化推進と変革のリーダーとなる、AI・DX推進/IT部門、IT会社の中堅社員を育成
会社に貢献するDX/IT部門をつくる中核的な人材としての課長やPMOとその候補者の 実践力とキャリアをマネジメント力を中心に全3回の講座で開発できます。
DX/ITマネジメントの知識を体系的に学びませんか。詳細はこちら
今後の注目特集
Coming Soon
あなたにおすすめ
Picks for You
日経クロステック Special
PR
お知らせ
ポッドキャスト
Podcasts
ピックアップ
PR
Featured Picks
分野別ランキング
Rankings by Sector
パスキーの使い方、秘密鍵をどの端末に保存するかがポイント
パスワードは必ず漏れる

13.3型モバイルノート「dynabook G8」、新色の800グラム台で拡張性高い
戸田覚のIT辛口研究所

NTTが民営化40年で大勝負、データGの再合流で目指すは「世界」
さらば電信電話、新生NTTの逆襲

Windowsの隠し設定「究極のパフォーマンス」、省電力制御が最小限に
Windows 11の真実と大嘘

AI中心にフルスタックで攻めるNTTデータG、本気の連携なくして勝利なし
さらば電信電話、新生NTTの逆襲

NTTが民営化40年で大勝負、データGの再合流で目指すは「世界」
さらば電信電話、新生NTTの逆襲

2位は「NTTデータは40万円支援 、社内コミュニティーは意外と効果が大きいらしい」30代の注目トップ10
日経クロステック ランキング

アスクルのサイバー攻撃詳細 委託先アカウントで侵入、クラウドも被害
ニュース解説

Windowsの隠し設定「究極のパフォーマンス」、省電力制御が最小限に
Windows 11の真実と大嘘

アスクルへのランサム攻撃、報告書が明らかにした3つのポイント
ニュース解説

楽天で生損保一体型基幹システム頓挫、滋賀銀行は開発中止しベンダー変更
決算調査で判明、大規模システム開発の崖

アスクルのサイバー攻撃詳細 委託先アカウントで侵入、クラウドも被害
ニュース解説

iPadOS 26のUIが大きく変更、サブマシンとして活用しやすく
iPadを最高のサブマシンにする!

平均残業が月10時間未満はSCSK・NEC・日立・富士通、有給取得率80%超は5社
情報・通信企業15社、業績・給与ランキング2025

サムスン電子が「3つ折り」を発表、折り畳みスマホは日本で盛り上がるのか
日本的スマホ論

ダイヤモンド半導体の実用近づく、佐賀大が最大120GHz動作 「世界最高レベル」
ニュース解説

サムスン電子、イメージセンサーで特許出願多数 Appleとの関係強化
特許で洞察する先端技術の未来

NTT、観測衛星や光衛星通信に勝機 最大30機の自社衛星網構築へ
乗り遅れるな、宇宙ビジネス

産総研、北海道にEUV使う先端半導体拠点 ラピダスなど活用
ニュース解説

パナソニックコネクトCTO「遅すぎる開発」にメス、改革4年テーマ6割減
技術トップに聞く

ダイヤモンド半導体の実用近づく、佐賀大が最大120GHz動作 「世界最高レベル」
ニュース解説

パナソニックコネクトCTO「遅すぎる開発」にメス、改革4年テーマ6割減
技術トップに聞く

ディスコ、大型半導体パッケージ向けダイシングソー 400mm角対応
セミコンジャパン2025レポート

米最大の集光型太陽熱発電、太陽電池に勝てず終了へ
トレンド解説 from メガソーラービジネス

半導体レジストの新星「MOR」、ADEKAが材料 東エレクに米社挑む
ニュース解説

ダイヤモンド半導体の実用近づく、佐賀大が最大120GHz動作 「世界最高レベル」
ニュース解説

米最大の集光型太陽熱発電、太陽電池に勝てず終了へ
トレンド解説 from メガソーラービジネス

核融合、小さな太陽を造る壮大な実験
テクノロジー・スポットライト

半導体レジストの新星「MOR」、ADEKAが材料 東エレクに米社挑む
ニュース解説

中国が「脱NVIDIA」、AI半導体の微細化で独自路線 日本は装置に商機
2026年、世界を変えるテクノロジー5選

トヨタ初の総アルミ車体骨格、砂型で中空実現 GR GTを27年発売
自動車ボディー最前線

大画面に限界、HMI新潮流 中国車は既に1割が「人間中心」
記者の眼

日産ルークスと三菱自デリカミニ、軽スーパーハイトワゴン3強に挑む
ニュース解説

接着剤で留める手法が裏目に
Disassembly Report

トヨタがV8エンジン新開発、27年GR GT量産 排ガス規制「最後まで戦う」
ニュース解説

接着剤で留める手法が裏目に
Disassembly Report

BYD、ホンダ流PHEVを日本発売 エンジン圧縮比15.5の世界最高水準
ニュース解説

トヨタ初の総アルミ車体骨格、砂型で中空実現 GR GTを27年発売
自動車ボディー最前線

トヨタがV8エンジン新開発、27年GR GT量産 排ガス規制「最後まで戦う」
ニュース解説

無人運転、AI主体で縦横無尽 完成車メーカー支配の業界構造が揺らぐ
2026年、世界を変えるテクノロジー5選

赤サビに守られたヘビ
建築巡礼

1級建築士「学科試験」のデジタル化試行、2010人対象に26年3月実施
ニュース解説:建築・住宅

建築家・隈研吾氏が感じた変化、「スポーツ施設」のタイポロジーは消失する
熱狂生むアリーナ最前線

名古屋駅構内の天井パネル落下事故、原因は改修工事 固定状況の確認怠る
ニュース解説:建築・住宅

1万人収容の多目的アリーナを臨港の街づくりの核に
世界水準の次世代アリーナ

1級建築士「学科試験」のデジタル化試行、2010人対象に26年3月実施
ニュース解説:建築・住宅

カヌーを介した友好を艇庫の姿に投影する、島根県美郷町にたたずむ大屋根
美しい屋根2025

赤サビに守られたヘビ
建築巡礼

270日以上回復していない建物も、能登半島地震の設備被害調査で明らかに
ニュース解説:建築・住宅

1万人収容の多目的アリーナを臨港の街づくりの核に
世界水準の次世代アリーナ

Q.霞ケ浦湖畔の「水の科学館」 改修して施設変更、何に生まれ変わった?
ケンチクイズ

赤サビに守られたヘビ
建築巡礼

1級建築士「学科試験」のデジタル化試行、2010人対象に26年3月実施
ニュース解説:建築・住宅

床下断熱材は半数が落下 7割欠落の箇所も、固定不良や戻し忘れに要注意
ココが欠陥!住宅検査簿

鹿島と大成建設は営業最高益
ニュース 時事

1位は「中央道更新工事でトレーラーが床版破壊」
土木のあの日

福岡の道路陥没、雨水管工事の施工不良が原因 削孔した既設管に土砂流入
ニュース解説:土木

豊洲・晴海の歩行者専用橋 築70年の鉄道遺構を転用、レールや枕木残す
土木のチカラ 詳細版

撤去中の道路橋が40mにわたり崩落、和歌山の築111年・元鉄道橋
ニュース解説:土木

ヒト型AIロボットが工事現場へ、川田テクノロジーズが運用試験開始
ニュース i-Construction

福岡の道路陥没、雨水管工事の施工不良が原因 削孔した既設管に土砂流入
ニュース解説:土木

1位は「中央道更新工事でトレーラーが床版破壊」
土木のあの日

豊洲・晴海の歩行者専用橋 築70年の鉄道遺構を転用、レールや枕木残す
土木のチカラ 詳細版

清水建設、夜間工事LED灯の昆虫への影響評価 色温度ごとに費用対効果算出
ニュース解説:土木
撤去中の道路橋が40mにわたり崩落、和歌山の築111年・元鉄道橋
ニュース解説:土木












