日銀は24日まで開いた金融政策決定会合で政策金利を0.5%程度に引き上げる追加の利上げを決定しました。追加の利上げは去年7月の会合以来で、政策金利は2008年10月以来、17年ぶりの高い水準となります。

日銀の植田総裁は会見で、この先も経済・物価の改善が続く見通しであればさらなる利上げを検討する考えを明らかにしました。ただ、利上げのペースや時期については予断を持たず、そのときの経済・物価情勢を慎重に見て判断する姿勢を強調しました。

<<植田総裁 会見での発言詳細>>

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追加利上げの理由「見通し実現の確度は高まってきている」

植田総裁は追加の利上げに踏み切った理由について「わが国の経済・物価は、これまで『展望レポート』で示してきた見通しにおおむね沿って推移しており、先行き、見通しが実現していく確度は高まってきている。経済は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。賃金面では企業収益が改善傾向を続け、人手不足感が高まるもと、ことしの春闘において、去年に続きしっかりとした賃上げを実施するといった声が多く聞かれている」と述べました。

「2%の『物価安定の目標』に向け 徐々に高まっている」

植田総裁は「物価面をみると、賃金の上昇が続くもとで、人件費や物流費などの上昇を販売価格に反映する動きが広がってきており、基調的な物価上昇率は、2%の『物価安定の目標』に向けて徐々に高まってきている。こうした状況を踏まえ、金融緩和の度合いを調整することが適切であると判断した」と述べました。

「経済・物価の見通し実現すれば引き続き金利を引き上げ」

植田総裁は今後の金融政策運営について「先行きの経済・物価・金融情勢次第だが、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、今回の『展望レポート』で示した経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」と述べました。

さらなる利上げは「予断は持たず 適切に政策を判断」

植田総裁は今後のさらなる利上げの方針について「調整のペースやタイミングについては今後の経済や物価、金融情勢次第であり予断は持っていない。毎回の決定会合においてその時点で利用可能なデータや情報から、適切に政策を判断していきたい」と述べました。

物価上昇率「緩やかに上昇しているという範囲」

植田総裁は物価の見通しについて「消費者物価の見通しは25年度にかけて少し大幅に上方修正になっているが、ことしの半ばくらいまでの上方修正でそのあとは落ちつくとみている」と述べました。

そのうえで、物価の上昇に対して政策対応が後手にまわるビハインド・ザ・カーブとなる可能性を問われたのに対し「基調的な物価上昇率は見通しに沿って緩やかに上昇をしているという範囲にとどまっていると見ている。深刻なビハインド・ザ・カーブ現象、政策金利がそうした水準にあるとはみていない」と述べました。

「利上げ効果を確かめつつ段階的に利上げすることが適切」

植田総裁は今後の利上げの進め方について「利上げした影響は必ずしも事前にはっきりとわからない部分がある。利上げをしたことの効果を確かめつつ段階的に利上げすることが適切かと思う」と述べました。

中立金利「0.5%になったとしても相応の距離」

植田総裁は、緩和的でもなく引き締め的でもない中立金利とされる金利の水準をどう考えているのかについて「中立金利についての私どもの見方についてはこの間、変更していない。以前よりかなりの幅があるとしていて、幅についても同じようにみている。幅全体をみると、中立金利に対して、現在の政策金利が0.5%になったとしても相応の距離があるとみている」と述べました。

そのうえで、「利上げで中立金利に近づいたのは確かだ。いずれにせよ金利が引上げられたあとは常にその影響について注意深く、見ていくということになる」と述べました。

トランプ政権 関税政策や世界経済への影響「最大の注目点の1つ」

植田総裁は、アメリカのトランプ政権の政策などで注目している点について、具体的にコメントするのは適切ではないとした上で「関税政策の具体的な姿や世界経済への影響がどうなるかは最大の注目点の1つだ」と述べました。

その上で「どんな政策が出てくるかわからないという不確実性は残る」と述べました。

“利上げについて議論”発言は「基本線を改めてリマインドした」

植田総裁は、今回の会合を前に先週、自身や氷見野副総裁が利上げについて議論すると発言したことについて「物価・経済の見通しや政策の基本的な考え方を丁寧に説明することに努めている。そういう中で今月の講演ではデータをきちんと見て、それに応じて、金融政策を変更することが適当かどうかということを議論するという基本線を改めてリマインドしたと考えている」と話していました。

政策金利の水準 『壁』として意識していることはない

植田総裁は、次の利上げを行った場合に金融市場で予想されている0.75%の政策金利の水準を『壁』と意識しているか問われたのに対し、「ある水準を『壁』として意識していることはない。ただ、中立金利に近づく、あるいは若干上回ることになれば、投資の減少など何らかの反応が経済で起きると考えている。そうした大きなマイナスの影響が出るのを待つのではなく、影響が出始めた段階をつかんでいきたい」と述べました。

【解説】経済部 大久保智デスク

午後4時のニュース映像です(データ放送ではご覧いただけません)

Q.きょうの会見のポイントは?

A.追加の利上げを決めたポイントとして「賃上げ」と「物価上昇」の2点を挙げました。

まず賃上げについては継続して賃上げをする必要があるという認識が幅広い規模の企業に浸透しているとして、賃上げによって経済がしっかりしていると評価したと述べました。

つまり利上げしてもしっかりした賃上げがあれば個人消費や設備投資は底堅く推移し、経済情勢の改善傾向には大きな影響がないと判断したとみられます。

そして物価の上昇。けさ発表された消費者物価指数は3%という高い水準でした。

植田総裁も今後は高い水準がつづくだろうと会見で述べました。

賃金が上がったとしても、物価上昇のペースが上回ってしまえば消費は停滞します。

なんとか物価上昇を抑える必要もあったので、利上げに踏み切ったと説明しました。

ただ、金融市場の関心は今回の判断のポイントよりも、この先どのようなペースでどこまで金利を引き上げるかに早くも移っています。

Q.その今後の金融政策、どうなる?

A.日銀は公表文にも、経済・物価が見通しどおりに改善していくなら、今後も利上げを目指したいと明記しています。

植田総裁も会見で同様の発言をしました。

万が一景気悪化した場合は金利を下げて対応する…。

その余地を確保しておきたい狙いも。

ただ、これ以上の利上げ、例えば0.75%まで上げた場合、30年ぶりとなる。

これまで経済全体が低金利に慣れていただけに予想外のショックとなる可能性も。

次の利上げ、さらにその先の利上げとなるとハードルは高くなる。

また、アメリカのトランプ大統領がダボス会議でFRBの金融政策に触れ、原油価格が下がれば利下げを求めるといった発言をした。

政治が金融政策に介入するという、いわばタブーで、こうしたことが繰り返されればアメリカ経済や為替が不安定になるおそれも。

利上げのペースや、タイミングについては今後の経済物価金融情勢次第であって予断はもっていないと述べましたが、慎重に進めていくことになるとみられます。

日銀 追加利上げ決定でどうなる?

利上げ発表を受けた市場の反応や影響をまとめました

短期の市場金利 0.5%程度に引き上げ

日銀は24日まで開いた金融政策決定会合で政策の変更を決定しました。

現在は短期の市場金利を0.25%程度で推移するよう促していますが、これを0.5%程度に引き上げ、追加の利上げに踏み切ります。

追加の利上げは去年7月の会合以来となり、政策金利は2008年10月以来、17年ぶりの高い水準となります。日銀は追加の利上げを判断する上で、賃上げに向けた動きとアメリカのトランプ政権の影響を見極めるとしていました。

このうち賃上げについては、24日に発表した声明で「企業収益が改善傾向を続け人手不足感が高まるもと、ことしの春闘において去年に続きしっかりとした賃上げを実施するといった声が多く聞かれている」としました。

また、トランプ政権の影響についても、いまのところ金融市場に大きな混乱はなく、当面は経済や物価情勢の改善傾向が続くと判断したとみられます。

一方、先月の生鮮食品を除いた消費者物価指数の上昇率が3.0%まで高まるなか、賃金の上昇を上回るペースで物価の上昇が続くリスクを抑える必要があるという判断もあったとみられます。

その上で日銀は今後の金融政策運営について、声明で「経済・物価の見通しが実現していくとすればそれに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」としました。

政策金利が17年ぶりの高い水準となり、預金の利息は増えることが見込まれる一方、金利の負担が個人消費や企業の投資にどのように影響するかが今後の焦点となります。

9人の政策委員のうち 賛成8反対1

今回の追加の利上げは9人の政策委員のうち賛成8、反対1で決まりました。

反対したのは中村豊明審議委員で、3月に開かれる次の金融政策決定会合で企業の稼ぐ力が高まったことを経済指標などで確認した上で判断すべきだとしました。

【解説】経済部 大久保智デスク

午後1時のニュース映像です(データ放送ではご覧いただけません)

Q.なぜこのタイミング?

A.今なお物価上昇が続いていることが大きい。

けさ発表された消費者物価指数は(生鮮除く)3%。

ガソリン、コメの価格も上がっています。

去年7月に物価上昇を抑えるために利上げをしたが、今なお、物価上昇が続いているので、さらなる利上げに踏み切った形です。

実は日銀は去年12月にも利上げのタイミングをうかがっていました。

ただ利上げは物価の急上昇を抑える反面、金利負担=利払い費が増えることにもなります。

経済情勢が芳しくない中での利上げは景気、特に消費の腰を折ってしまいかねない。

だから賃上げの動きが確かなのかどうか、さらにはトランプ大統領の政策で経済情勢が影響を受けないか、慎重に確かめようとこの時期まで見極めたのだと思います。

Q.金融市場や暮らしへの影響は?

A.金融市場で影響が大きいのは為替。

いままで円安が続いていたが、日本でも徐々に金利が上がってくるという見方から今後は円は買われやすく円高が進む可能性があります。

実際、1ドル=155円に。

円安のときは輸入品の価格が高くなったと感じる方も多かったと思うが円高になれば、そうした傾向はいくぶんおさまるとみられます。

ただ、輸出企業にとっては円高によって業績が押し下げられるリスクもあります。

一方、暮らしへの影響はプラスとマイナスの両面がある。

資産を運用するという面では金利のある世界は追い風になります。

預金の利息は増えるし、個人向け国債、個人年金の利回りは過去の利上げでよくなり、今回の利上げによってさらに上向く可能性があります。

しかし、お金を借りている場合は、金利の負担は増えることになる。

個人も企業もそうです。

食費、光熱費、家賃、企業だと原材料コスト、いろんなモノが上昇する中での金利上昇となる。

それだけに、負担感を打ち消すだけの収入=つまり賃金が持続的に上がるかどうか、また上がったコストを価格にちゃんと転嫁して、それがちゃんと売れるか。

今回の利上げが正しかったかどうかは消費をはじめ経済情勢を見ていく必要がある。