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大阪市大正区の住宅街にある4階建てビル。4~10月に読売新聞の記者が何度も訪ねたが、入り口は閉鎖され、人の出入りは見られなかった。近くに住む男性は「何のためのビルなのか、前から不思議に思っている」と首をかしげた。

しかし、読売新聞と阪南大の松村嘉久教授が法人登記簿を分析したところ、築47年のこのビルには9月上旬の時点で113社が本社を置いていた。全社がコロナ禍が落ち着いた2022年以降に登記しており、112社が資本金500万円。在留資格「経営・管理ビザ」の取得要件が今月に厳格化される前に必要とされていた資本金と同額だった。
「特区民泊の運営」。事業の目的にそう掲げる法人が111社に上る。松村教授は「ビザを取得するため、特区民泊の運営法人を設立したのだろう」とみる。
以前の所有者によると、ビルは建設作業員の寄宿舎として使われていた。17年にこのビルを取得した中国人男性に話を聞くと、「特区民泊を経営するため、約50室を30室に改装した」と説明した。しかし、コロナ禍で利用者がいなくなり、22年に中国系法人にビルを1棟ごと貸したという。
現在、部屋数を大幅に上回る法人が入居する形となっているが、この中国人男性は「事業用の賃貸に使うと聞いたことはあるが、実際にどう使われているかは知らない」と話した。
ビルに登記されている複数の法人の代表に取材を試みたが、ビルには不在で、登記簿上の住所地を訪ねても居住確認できなかった。
大阪出入国在留管理局の調査員はこのビルを把握しているとし、「問題だと思う」との認識を示した。
読売新聞と松村教授の共同調査では、こうした中国系法人が集積する物件が大阪市内に広がっている実態が見えてきた。
東成区にある築35年の8階建てマンションには、22年以降に133社が登記され、9月時点では69社が本社を置く。64社はすでに別の場所に移転。空いた部屋には新たな法人が登記されており、物件が使い回されている状況が浮かぶ。
管理会社の男性によると、約50部屋あり、「(住民のいない部屋を)オフィスとして貸していると聞いている」という。1部屋に2~4社の表札が並ぶ部屋もあるが、このマンションの別の部屋に住む人を訪問介護する男性の説明では、部屋はワンルームで、広さは6~7畳ほど。住民男性は「事務所になっている部屋に人の出入りはない。たまに関係者らしき人が来て、ポストの郵便物を回収している」と話した。
中には、住民が退去を迫られているケースもある。
東成区の別の5階建てマンション(53室)には現在、中国系法人とみられる76社が所在する。このマンションに20年以上住む住民に、4月から5回届いた管理会社の通知には「1980年代築で老朽化のため、安心して住める物件ではないと判断し、取り壊しをする」と記され、10月末までの退去を求めている。住民が退去後の空いた部屋に会社を登記する可能性がある。
松村教授は「築年数が長く、通常の賃貸としては収益が上がらず、買い手もつかないような物件が多い」と指摘。「実際に事務所として使うわけではないので、それで十分なのだろう」と話した。
経営・管理ビザで在留する中国人は昨年、過去最多の2万1740人に上り、同ビザで在留する外国人全体(4万1615人)の半数超を占める。
出入国在留管理庁が定める経営・管理ビザの審査要領は、日本国内に事業所を確保する必要があると規定し、事業所の定義には▽一区画を占めている▽サービスの提供が継続的に行われている――ことなどを挙げる。住所や電話番号を借り受け、郵便物を別の場所に転送するなど経営や管理を行う場所が存在しないバーチャルオフィスなどは認めていない。
取材で明らかになった実態の判然としない事業所も、経営・管理ビザの取得の際に使われているとみられる。経営・管理ビザの取得に詳しい複数の行政書士は「厳密に見れば、審査要領に合わない可能性がある」と指摘する。
しかし、実際は書面審査が中心で、現場で確認すれば事業が行われているか疑われるような事業所が、多く見逃されてきた可能性が高い。出入国在留管理庁は今後、実態調査を強化することを検討している。
審査の

外国人経営者向けの在留資格「経営・管理ビザ」の取得要件が16日に厳格化された。背景には経営・管理ビザでの移住がビジネス化している事情が浮かぶ。現場の実態に迫る。