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名鉄名古屋駅周辺の再開発計画が動きだす。総事業費が少なくとも5000億円を超える巨大計画は、東海地方の玄関口である名古屋駅前の風景を一変させるインパクトを持つ。一方、建築資材の高騰や共同事業者との交渉次第では計画の遅れも懸念され、行政との連携などがカギを握りそうだ。(杉本要、本文記事社会面)
■構造大幅変更

新たな再開発ビルは床面積が40万平方メートル以上(駅などを除く)と、東海地方の開発プロジェクトとして空前の規模になる。今年3月に閉館した「名鉄レジャック」のビルなど、六つのビルを取り壊し、ホテル、オフィス、商業施設などの用途に再開発する。
名鉄が2017年3月に公表した完成予想図では高さ約180メートル、南北約400メートルの巨大な建物を想定していた。「壁ビル」と受け取られたが、公表後にデザイン性やオフィス需要などを考慮し、構造を大幅に変更した。名鉄幹部は「当初から高層ビル3棟を整備するつもりではあった」と明かす。再開発ビルの事業費は3500億円を超えるとみられる。
地上部分の再開発計画と並行し、鉄道駅の拡張も進める。現在の名鉄名古屋駅は三つのホームで2本の線路を挟む「3面2線」と呼ばれる構造で、異なる行き先の列車がほぼ2分ごとに来る過密なダイヤになっている。上下それぞれ2線ずつにして計4線に増やし、余裕を持った乗り降りができる環境を整える方針。中部国際空港方面への列車の乗り入れを同じ番線に統一するなど、訪日外国人客(インバウンド)向けに分かりやすい構造にするよう検討する。鉄道駅の拡張費用は2000億円前後を見込む。
■計画を延期
名鉄は10年代前半から名古屋駅周辺の再開発を検討してきた。JR東海のリニア中央新幹線の開業を予定していた27年に照準を定め、22年度に着工する予定だった。
しかし、コロナ禍で鉄道利用者が減少するなど再開発の環境が整わなかったこともあり、20年11月に計画の延期を公表。当時の安藤隆司社長は記者会見で「グループの業績回復にはある程度の期間を要する」と述べ、再開発計画の方向性を24年度に決める考えを示した。21年3月期には最終赤字に転落した。
もっとも、計画の延期後も水面下では検討が続けられていた。21年6月には、名駅再開発を担当してきた不動産部門出身の高崎裕樹氏が社長に就任。近鉄グループホールディングスなどの共同事業者や、国土交通省、愛知県、名古屋市などと交渉を重ねており、ビルの用途決めや駅の拡張、再開発への支援体制などを調整してきた。
■今後の課題
今後は現時点で5500億円超の膨大な事業費をいかに抑えるかが課題だ。足元で高騰する建築資材や労務費が、収支計画に重荷となる。名鉄は国や自治体などの補助金活用も視野に入れる。
着工時期も焦点となる。再開発の区域内には、名鉄百貨店などの商業施設や名鉄グランドホテルなどがひしめく。工事期間中は営業が制限されるため、名鉄などの収支に悪影響を与える。
今年3月には再開発を見据え、区域内にある商業施設「名鉄レジャック」を閉めた。隣接する日本生命のビルも、既に大半が空室となっている。
名鉄は今後、本社を名駅近くのオフィスビルに移転する。名古屋駅の南東地区のまちづくりにも参画する方針で、再開発をにらんだ動きが本格化する。