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鷗友学園女子中学高等学校(東京都世田谷区)で昨年10月30日、作家のあさのあつこ氏を招いた講演会&読書会が開催された。同校は、国語授業の一環として、生徒の読書意欲を高めるための、さまざまな工夫を凝らした指導をしており、この日の会もその一環。古典を読むことの意義や「自分の中の負の感情」を大切にすることなど、あさの氏が向けるメッセージに生徒たちは深く共感していた。

この日の講演会&読書会は、2019年までの10年間、中2生に特別授業を行っていた内田剛氏の提案で実現した。内田氏は長年、書店に勤務する中でPOP制作に携わってきた。現在は「全国学校図書館POPコンテスト」のアドバイザーを務めながら、読者と作家をつなぐ活動を行っている。図書館司書の豊泉聡美教諭によると、昨年7月、4年ぶりに内田氏に特別授業をしてもらった際、あさの氏が中高生と触れ合う場を求めているということが話題となり、あさの氏を招いてのイベントを企画することが決まったという。
講演会&読書会当日、同校ホールには中1から高3まで197人の生徒が集まった。豊泉教諭が、あさの氏と内田氏及び、あさの氏の新刊『アーセナルにおいでよ』の出版元「水鈴社」の篠原一朗社長を紹介したあと、あさの氏が登壇。「自分の武器庫(アーセナル)を見つけよう 本好きなあなたに贈るキャリア・アドバイス」と題して講演を始めた。
あさの氏は、自分の中高生時代の話や、『アーセナルにおいでよ』の登場人物や作品づくりに対する姿勢を語り、「私が描く10代の人物は、すべて自分なんです。10代に残してきたことや悔やんでいること、それを生き直すために作品を書いてきたと思う。誰でも楽しいことばかりではなく、人を妬んだり、傷ついたりすることもあります。その感情が、自分を動かす力になることがある。自分の中の負の感情も大切にしてほしいです」などと語りかけた。
さらに、自らの読書体験を振り返って「古典というのは、時を経て残ってきた良い作品。私は昔読んだ『嵐が丘』を大人になって読み返したとき、見え方がとても変わりました。ぜひ古典を読んでください」とメッセージを送った。生徒たちは時にうなずいたり、ざわめいたりしながら真剣に聞き入っていた。
その後、図書館に場所を移し、あさの氏と内田氏、事前に応募した生徒16人で『アーセナルにおいでよ』の読書会が開かれた。あさの氏のファンという生徒が多く、みな緊張した面持ちで、読み終えた感想や登場人物への思いを語り、あさの氏への質問が相次いだ。
読書会に参加した高3の生徒は「言葉すべてに心がこもっていて、大好きな作家さんというだけでなく、大好きな人になりました。私の拙い言葉にも丁寧に向き合ってくださり、うれしかったです」と興奮を隠せない様子。また、中2の生徒は「作品を読んだ他の人の意見を聞き、自分にはなかった視点や感じ方がとても面白かった」とし、一つの作品に対するさまざまな見え方の違いに気付きを得たようだった。
この日は事前に募集していた、『アーセナルにおいでよ』のPOPコンテストの表彰式も行われ、応募のあった12作品から3作品が「あさの賞」「内田賞」「水鈴社賞」に選ばれた。選考にあたったあさの氏は、「どれも心に残る作品ばかりで、選ぶのが大変でした。『あさの賞』には、何だろう?これ面白い!と思った作品を選びました。発想を形に変える力がとても面白いと感じました」と講評した。

同校は、約20年前から生徒が本に親しむための仕組みや環境づくりを積極的に進めてきた。中学、高校でそれぞれ100冊を目標に、読んだ本の感想を記録していく「読書ノート」や、読んだ本についてクラスメートらに手紙を書く「読書郵便」など、多様な読書体験を通して読む力と表現する力を身に付ける独自の読書指導を行っている。あさの氏を招いての講演会&読書会もそうした試みの一つだ。
これらの取り組みの背景について国語科の窪田由紀教諭は、「本校では、入学試験の国語を最初の授業と位置付け、記述式を重視してきました。そのため、もともと読書好きな子が多く集まってきますが、入学後は部活動や行事などに追われて、どうしても読書量が減ってしまうからです」と説明する。

また、中高生向けのライトノベルは読んでも、古典や文豪の名作にはなかなか手が出ないという実情もあるという。そこで、生徒たちが成長できるような本を選び、丁寧に読む機会を増やそうと「丸本」と呼ばれる国語の授業も行っている。
「例えば、中学1~3年では本1冊を丸ごと教本とし、1年かけて読み取りを深めていきます。教材になる本は、中1でアーネスト・ヘミングウェーの『老人と海』、中2では夏目漱石の『こころ』、中3では宮下奈都の『羊と鋼の森』など、文豪の名作や映画の原作といったテーマから選んでいます」
中2の国語授業に取り入れられているPOP作成も、同校の伝統的な授業の一つだ。前期は太宰治の「走れメロス」について読解やディスカッションを行い、一番印象に残った場面についてPOPを作成して紹介する。後期は、各自好きな本を題材にして作成する。優秀作品は東京・新宿の紀伊國屋書店や、小田急線「経堂駅」前の三省堂書店で著書とともに展示してもらっている。

豊泉教諭は、講演会&読書会での生徒たちの様子を振り返り、「普段あまり図書館に来ないような生徒の姿も見られましたね。1時間前からホールで席取りをしていた生徒もいて、みんなすごく楽しみにしていたのだなと感じました。作家さんに限らず、自分の周りにいないような大人の話を聞く機会はとても貴重だと思います」と言う。
あさの氏の講演内容についても、「『古典を読んでほしい』とおっしゃってくれたことが、司書としてはとてもうれしかったですね。あさの先生の一言が、生徒たちに古典や名作を手にとってもらえるきっかけになれば」と期待を寄せる。「本校の生徒は真面目な子が多く、一つのことに真っすぐに取り組むけれど、ちょっとつまずくと『だめかも』と思ってしまう生徒が少なくないんです。『負の自分も大切に』というお話などを聞けたことは生徒たちにとって大きかったのではないでしょうか」
講演を聞いた高3の生徒は、「『負の感情を大切にして』という言葉に胸を打たれました。人の才能に嫉妬したり、自分と比べて落ち込んでしまったりすることが多いので、すっと私の心に染みました」と話した。
窪田教諭は、「多様な本と出会うことで、新しい世界やさまざまな人に出会うことができます。たくさんの本に触れることで、視野を広げてほしい。それが、生徒たちにとっての『アーセナル(武器庫)』になると思います」と言う。「本を読み、鑑賞を深めることは経験になり、社会に出た時に戦えるタフさになります。同時に、本は豊かな心を育ててくれます。本を読んで培った、『タフで愛のある心』を持った生徒たちが、世界を平和にする人になってほしいと心から願っています」
(文:石井りえ 写真:中学受験サポート 一部写真提供:鷗友学園女子中学高等学校)
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