完了しました

荒涼とした砂漠と丘陵が広がる米国西部ネバダ州のタホ・リノ産業団地。「コヨーテしか見かけない」と
琵琶湖の半分に相当する300平方キロ・メートルの産業団地には、グーグルなど米大手IT企業や新興企業が進出する。開発に携わるクリス・トンプソン氏(67)は「ここは今や米国のAIを支える『奇跡の砂漠』だ」と笑顔で語った。
AIは大量のデータ分析を経て高価値の情報を生み出す。自動車に「石油」が必要なように、AIには「データ」が不可欠なため、データは「21世紀の石油」とも称される。
トランプ米政権はAI需要の急増を見越し、データセンター建設に突き進む。7月発表の「AI行動計画」では「ビルド、ベイビー、ビルド(建てて建てて、建てまくれ)」と全米に号令をかけた。
AIの開発・導入を妨げる規制の撤廃や、環境規制の緩和を進め、米国内では「雨後の竹の子」のように建設が進む。災害リスクの低さや電力の安定供給、コンピューターを冷却する水の確保が重要で、土地代が安い郊外や農村地帯などに集まる。ネバダ州など干ばつが続く地域では、地下水のくみ上げによって環境悪化への懸念の声も上がる。
国家の支援を受けた民間が主導する米国に対し、中国の
南シナ海に面し、「中国のハワイ」と呼ばれる南部海南省の海南島。沖合の海底には直径約3・7メートル、長さ約20メートルの白い円筒状の物体が沈む。新興企業「北京海蘭信数据科技」が2023年3月に世界で初めて商業化に成功した「海底データセンター」だ。
装置の冷却は主に海水が担う。大量の淡水が必要な陸上型と比べ大幅な省エネになる。プロジェクト責任者の蒲定氏(43)は「陸上で生産されたデータ(数据)を海中で処理(計算)する『陸数海算』の新技術だ」と胸を張る。
中国では22年、人口や企業が集まる東部で蓄積されたビッグデータを、土地が広く太陽光などの再生可能エネルギーが豊富な西部の内陸で処理する「東数西算」と呼ばれる国家プロジェクトも始まっている。海抜3600メートルのチベット自治区では今年6月、大規模データセンターの運用が始まった。太陽光発電と寒冷地の気温を利用した「高効率制冷システム」をうたう。
データセンター市場の急激な膨張は確実とみられる。日本の総務省の情報通信白書によれば、24年の市場規模は米国の1232億ドル(18・5兆円)に対し、中国は957億ドル(14・4兆円)で米国が優位だ。ただ、成長率で中国が米国を猛追しているとのデータもある。
データセンターの増設は、自国のデータを自国で管理する「データ主権」を守る競争でもある。外国の規制による不当な介入や利用を防ぐため、国内での大規模なデータの確実な蓄積が重要になる。
米中間で激化するAI覇権争いは、技術を巡る「冷戦」に発展する可能性が高い。各国は米国製か中国製、いずれかのAIシステムを選ばざるを得なくなるとの見通しもある。ジェフリー・ディン米ジョージ・ワシントン大准教授は「米中どちらが勝者になるかは、どちらのAIが世界で広く採用されるかで決まる。データセンターはカギを握る重要な要素だ」と語る。
第4部は、今後の世界秩序を決定づける「AI覇権」を巡る国家間の競争を追う。