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セミヨン・ビシュコフ指揮のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団…過度な造形なく「懐かしさ」感じさせる旋律

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(c)PetraHajska
(c)PetraHajska

 どこか懐かしい気持ちがした。セミヨン・ビシュコフ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団によるチャイコフスキー「交響曲第5番」。もちろん旧東欧だからとか、男性団員が多いから、ではない。

 昨今のオーケストラの演奏に特徴的な、一種「神経質」な造形がみられないのだ。音楽が高揚するとぐいぐいと音量を増してゆくし、フレーズの区切りでは自然に遅くなる。だから、テンポや強弱の増減は頻繁でも、ちっとも人工的ではない。舞台上に位置する80人弱の団員がコブシを効かせるようにして旋律を歌いあげるのを聴いていると、「俗」という言葉さえ脳裏に浮かんでくる。

 しかしこれは好ましい俗だ。例えば第2楽章後半、主部が戻るところであらわれる弦楽器群のピツィカート。ぶろろん、というバラけた音がなんともヒューマンで人懐こい。終楽章冒頭、「運命の動機」が長調になってあらわれるところでは、弦楽器群が全員、胸を張るようにして弓を使っている。

 管楽器も強者そろい。第2楽章のホルン独奏は完璧だったし、終楽章のクライマックスではなんと弦楽器の主旋律を押さえて、トランペットの副旋律が朗々と響き渡った。解釈の独自性とか、完璧な精度とかいったものとはちがった、ゆったりとした感覚。アンコールも「スラブ舞曲 ホ短調」とベタなのが微笑ほほえましい。

 前半はアナスタシア・コベキナを迎えてのドヴォルザーク「チェロ協奏曲」。ちょっと面白い表情の音楽を奏でるチェリストだ。旋律を歌うのではなく、むしろしゃべるようなイントネーションでこちらの感情を刺激してくる。独奏のアンコールで、「私の大好きな作曲家です」と前置きしながら、父ウラディミールの小曲を披露するあたりも、実にチャーミングだった。

(音楽評論家・沼野雄司)

 ――10月23日、赤坂・サントリーホール。

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