p.115 / 第3章 「見える化」された心と消えない孤独 -- 心理学との対話 / 東畑開人 x 與那覇潤 / 治療の「見える化」を突きつめて反転した心理学 / 與那覇 / 面白いのは東畑さんがよく書かれるように、同じく90年代の末から心理学でもクライエントのライフヒストリー(過去の物語)を重視するカウンセリングのブームが退潮し、むしろ認知行動療法が注目を集めてゆきますね。 / 東畑 / 実は認知療法を考案したアーロン・ベックはもともと精神分析に取り組んでいた人で、フロイトの夢分析を「科学的」に実験して検証しようとした人です。その上で実証できなかったところから、精神分析から離れていったんです。やはり、精神分析は主観的な解釈を排除できないから、科学の土俵に乗るのが難しいんですね。 / 彼は心の「深層」といった不可視の領域からは撤退し、訓練すればクライエント自身が知覚可能な心の動き、行動として目に見える部分に働き掛ける認知行動療法への道を切り拓いたわけです。もう一つ重要なのは、ベックが治療結果をしっかり目に見えるものとして測定しようとしたことです。可視化することでカウンセリングというものの説明責任を果たそうとしたんですね。(Japanese)