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 徳島市が撤退した新町西地区再開発事業を巡り、地権者でつくる再開発組合に市が支払った和解金など約4億6千万円の賠償を前市長の遠藤彰良氏に請求したことについて、内藤佐和子市長は13日の定例会見で「撤退に伴い、事業の代替案や補償を示さなかったのが問題だ」との認識を示した上で、「遠藤前市長が事業から撤退することしか考えていなかった行為で市が不法行為で損害賠償を支払うことになったため、市に生じた損害を遠藤氏に請求するという考えに至った」と主張した。

 記者から「地方公共団体としての行為について、遠藤氏のみの責任とする理由は何か」と問われ、市側が論拠として挙げたのは「最終判断は遠藤氏によるもの」「組合との協議の場などで『市長である私の判断』『市長の裁量』などと繰り返し述べた」という点。記者からは「納得しかねる」という声も聞かれた。

 遠藤氏が受け取った「損害賠償等の請求について」という文書には「期限(8月30日)までに納付いただけない場合には、法的手続きをとらせていただくことになりますので、御承知おきください」とある。遠藤氏は7月6日の会見で「市として合法的に行ったことが個人の責任になるのはおかしい。支払わない」と述べており、記者から「訴訟するのか」と問われた市長は「確定していない」と答えた。

➩ 【会見要旨】遠藤氏「内藤市長は常識では考えられないことをやっている。そう思いませんか」 4・6億円徳島市に支払い求められ

 

 なぜ、遠藤氏に対して損害賠償請求をするのか。内藤市長による説明の要旨は次の通り。 

 7月2日、遠藤前市長に対し、徳島市に生じた損害を請求した。7月6日に遠藤前市長が記者会見を開き、見解を述べていた。それについて、誤解や違和感が二つあるのでポイントを説明する。

 一つ目は、事業を撤退したことへの損害賠償ではないということだ。遠藤前市長は「市に損害賠償請求をされたものを私に支払わせるのはおかしい。私が払うべきものではない。払えても払わない。払うつもりはない」と、市への支払いを公の場で否定していた。また、新町西再開発事業から撤退したことについて、「最高裁で市長の裁量権の範囲内だとのお墨付きがある。正式な手続きを踏み、議会に説明しながら進めてきたことが個人の賠償につながるのが理解できない」と話していた。

 徳島市としては、市長の裁量権の範囲で行った行為を否定するものではない。昭和56年1月27日の最高裁判決では「補償等の措置を講ずることなく、地方公共団体が定めた、一定内容の継続的な施策を変更した地方公共団体は、それがやむを得ない客観的事情によるものでない限り、不法行為責任を免れない」とあり、地方公共団体が関与する継続的事業の地方公共団体についての責任についての先例となっている。

 地方公共団体が、継続的な事業から撤退する際には具体的な代替案や補償を提示せねばならないことになっている。不認可処分取り消しを求めた訴訟の判決文には「政策により、関係当事者で形成された信頼関係が不当に破壊された場合、地方公共団体が何らかの損害賠償を負うことがある」と記載されている。

 以上のことから、今回の損害賠償については、補償を提示しなかったことによる損害賠償だと言える。補償をしていれば、話し合いが進み、再開発組合から損害賠償請求は提起されていなかったものと思われる。

 次のポイントは、代替案と補償を示さなければならなかったということだ。

 (遠藤前市長は)代替案については「二つの私案を議会に諮り、公表していた。出したし、いくらでもあったが、再開発の代替案は出せなかった」。補償については「私たちは払うつもりだった。法的責任があるものは払う。裁判所に決めていただければ払うという認識だった」などと話していた。

 では、遠藤前市長は代替案や補償について再開発組合と話したことはあったのか。代替案については、組合と4回面談をしたが、「案は持っているが言えない」「白紙撤回するという公約と、次にどうするかという話は一緒に議論すべきでない」「白紙撤回の交換条件的案は出せない」などと述べており、代替案があると明言したにもかかわらず、一方的に事業から撤退することのみを終始繰り返していた。

 平成28年度の二つの私案は具体性、実行可能性がある代替案とは言えず、再開発組合と裁判中であるとの理由で組合に提案していない。組合が知ったのは市のHPだと聞いている。

 損害賠償請求の一審判決でも「本件政策変更に当たって、再開発組合に対し、具体的代替事業や補償の提示を行っておらず、賠償的措置を講じたとは認めることはできない」とされている。補償について遠藤前市長は「法的責任があるものについては誠意をもって対応したい」とし、不認可処分取り消しを求めた訴訟の判決文にも「被告に責任があるものは補償する意向を示している」と記載してあるが、結局、遠藤前市長は、市の責任の範囲は判決で示されるものとし、補償を損害賠償で支払うことにしていた。

 組合との信頼関係の中、補償について協議し、適切な金額を算定し、議会の承認を得て支払うのと、組合との関係が破壊され、徳島市が「違法な行為」と判決を受けて支払うのでは、支払うのは金額が同じでも、内容としてはまったく違うもので、遠藤市長の言う「誠意を持って対応した」とは言えないものだ。

 以上から、遠藤前市長の単に事業から撤退することしか考えていなかった行為で、徳島市が不法行為で損害賠償を支払うことになったため、徳島市に生じた損害を遠藤氏に請求するという考えに至った。遠藤前市長は撤退表明の後、何ら代替案や補償案を示さなかった。これが問題だと思う。

 以下は記者との主なやりとり。

記者 代替案や補償を提示しないという政策判断の誤りはあったかもしれないが、個人に対し、4・6億円の巨額の請求をするということをどう思うか。

市長 市長として大きな政策判断をする場合、再開発について撤退するかどうか、選挙の大きな争点だったと思う。もし撤退するにしても、街の人も市民であるわけなので、補償の話、代替案の話は継続的にすべきだと思う。結局、そこをしなかったのが問題になっている。徳島の街づくりにおいて、今も尾を引く根深い問題になっていると認識している。

 そごうの閉店にしても、街づくりのビジョンが見えないなどといったことも閉店の理由になったと言われる。そうしたことも含めて、そこはすべきだったと考え、今回の請求に至った。

記者 監査請求の結果が出てから請求までスピーディーな判断になった経緯は。

職員 今回、監査請求を受けるにあたり、われわれの考える主張をした。その内容について、監査報告では、市の検証する姿勢を評価していただいたし、われわれの主張に矛盾にないということで、理解をいただいたという認識があった。改めて精査をするということになったが、われわれの主張、監査結果の報告内容を合わせると「われわれが前に進めるという判断でいい」という結論が出た。時間をかけず、速やかに行った。

記者 一審判決は地方公共団体の徳島市が訴えられおり、徳島市の不法行為について判決が出ている。監査請求を受け、市が遠藤氏に請求しているが、求償権があるという判断の根拠となるこれまでの判決や考えがあるなら教えてほしい。

職員 公務員が第三者に対し違法行為によって損害を与え、それが故意もしくは重過失の場合、求償権を有するということになっている。今回の損害賠償請求では、代替案と補償の提示を組合にせず、「違法」と判断された。「違法」ということについては昭和56年の最高裁判決で「単に政策変更するだけで、それに対する賠償的措置をしなければ不法行為責任を免れない」という判決も出ている。そんな判決が出ているにもかかわらず、代替案の提示、補償をしなかった。ということで求償権を有するという判断をした。

記者 徳島市が代替案や補償を提示しなかった。それは遠藤氏に帰することだと判断したということか。市として行わなかったわけだが、それは遠藤さんが公約を掲げて当選したからではあるが、遠藤氏の説明によると、市の職員とともに議会にも説明した上で政策変更したとのこと。判決は住民訴訟ではなく、民事裁判なので、判決は「地方公共団体は」となっている。それを遠藤氏に請求できる根拠はどこにあるのか。

職員 政策変更する際に「徳島市長である私の判断」と地元の方に説明している。今回、代替案の提示、補償をしなかったということについて、判断をしたのは自治体の最高責任者である前市長だ。

市長 組合との話し合いや議会で「市長の裁量において」「市長の判断で」という言葉を何度も使われていることもあると思う。

記者 遠藤前市長は会見で「支払えない」「支払わない」と言っている。その場合、市の対応は。訴訟するのか。

市長 確定していない。

職員 今後の対応は改めて検討し、適切に対応したい。

記者 遠藤前市長が会見した(徳島市から受け取った)請求書には「支払わない場合、訴訟の手続きをする」といった旨の文言が入っていた。

職員 当然、訴訟も視野に入れているが、今回の「支払わない」というコメントを受け、今すぐ何かをするということは想定していない。

記者 現実問題として、4億数千万もの巨額のお金を個人が支払えるのか。遠藤前市長も会見で「財産がない」と言っていた。現実問題として支払えない額だと思う。法的根拠は理解するが、果たして市民が今の状況を見て、どう思うのかということがある。個人に巨額の賠償責任をする。それを市民がどう思うと市長は考えるか。

市長 いろんな考えを持つ人がいる。昨日も再開発組合の高木理事長が話していた。求償した方がいいと言う人もいると思うし、「高すぎるんじゃないか」という意見もあると思う。ただ、何度も説明しているが、補償と代替案はセットだと思っており、首長である限りは、今回のようなことについては一緒になって話をしないと街づくりが停滞する。選挙のときに(再開発計画の総事業費が)「50数億円上がるから、撤退しない、ホールを買い取らない」という話だったと思う。そして、遠藤さんが当選した。再開発組合のところに行った。そこで、後の街づくりをどうするか、そこで切っていい話ではない。徳島市の街づくりに尾を引く話で、中心市街地の空洞化が引き起こされると、徳島市の固定資産税の価値も落ちるし、実際アミコビルからそごうが撤退し、新しい商業ビルにするには20億円の貸し付けがいる。いろんなものがずっと連動している。この問題が進まないことによって。きちんと考えるべき問題であったし、市民の方にも関心を持ってもらう必要もある。

 こういうことがあったと知らない方が多い。新町西の状況を知らない人も多い。再開発の話が30年間、どんな紆余(うよ)曲折を経てきたのか。今の都市計画決定の話も知らない方が多い。徳島市の街づくりがこれだけ進まなかった原因を含め、きちんと追究していかなければいけない。

記者 今回の件をきっかけに、街づくり全体を市民に知ってもらうきっかけにしたいということか。

市長 そうしたことも含め、その上で未来志向で考えないといけない。新町西地区だけでなく、東新町などもアーケードが老朽化するなどし、建物が駐車場になったり、閉店が多くなったりしている。都市開発に20億円の貸し付けをするという話がある中、ビルを生まれ変わらせるタイミングで中心市街地をどうしていくのか、動線をどうしていくのか、阿波おどり会館までのシンボルロードをどういうものにするのか、阿波踊りを生かした街はどういうものなのか。この前も若い人たちとワークショップをしたが、話を進めていかないといけない。

記者 「現実問題、払えるのか」という話があった。遠藤前市長は一個人。4・6億円払えると考えるか。

市長 市としてそういう求償をしている状況。そこからの判断は遠藤前市長。後の対応は弁護士と協議しながら徳島市は徳島市として考えたい。

記者 いろんなパターンは考えられるが、このまま行けば訴訟、法的措置になるかと思う。最高裁までか、どこまで行くか分からないが、遠藤前市長が破産することも考えられる。 そう至ったとしても「やむを得ない」と市長は考えるのか。

市長 今後の対応はまだ決まっていない。決まってからの話。弁護士らと相談する。もし裁判を提起するなら、議会に通さないといけない案件になる。そうしたことも含め、議論は必要だ。

記者 今回の請求は遠藤前市長に「責任を取ってほしい」という意思表示なのか。意味合いをはかりかねる。白紙撤回の責任を遠藤さん個人に取ってほしいということなのか。

職員 「違法」という判決が一審で出た。自治体は不法行為を行って、自治体に財政的損失をもたらした。それが裁判で明らかになったということを受け、自治体として違法行為によって自治体が損害を被ったことに何もしなくていいのか、となり、どこに原因があるのかを自ら考え、求償権も含め、検討した。その結果、市は代替案、補償ということを真摯(しんし)に対応する時間が十分にあったのに、しなかった。できたにも関わらず、しなかった。そこが違法と書かれている以上、対応をさせていただいたということ。

記者 「不法行為」は市によるものだ。それは分かるが、その責任をなぜ、個人である前市長だけが取るのか。地方公共団体としての徳島市の不法行為が問われた。株主代表訴訟であれば、一つの大きな決定に対し、取締役会が責任を問われる。反対した役員がいれば、その人は対象から外れるだろう。社長だけが独走してすべてを決めて、会社の利益に反するような行為をすれば、その人だけが訴訟の対象になるんでしょうが。では市の幹部、判断に対して責任を持っていた人たちは、なぜ対象にならないのかが理解できないので教えてほしい。

職員 代替案の提示や補償をできる時間もあった。組合の方もそれを求めていた。最終的にそれを提示しなかった。その最終決定をしたのは前市長であるし、最高責任者が前市長。ということで前市長に請求した。

記者 責任は最高責任者一人にあり、その周りの事務方は何ら責任を負わないということか。

市長 (2016年)4月18日に就任し、26日に再開発組合に出向いているが、「市長の裁量でこれは止める」「市長の裁量で予算の執行を止める」と当時、明確に言っている。その時点では議会に説明もしていない。「選挙の結果だから、市長の裁量で予算執行を止める」といろんな所で言っている。

記者 それによって、責任の100パーセントが市長にあるとは読めない。周りの責任はゼロで、市長がすべてという構図、そのスタートラインに納得いきかねる。個人の感想だが。

記者 代替案と補償の提示がなかったという話を繰り返している。市による「権利変換計画の不認可」が不当だという訴えが起こされている中で、どんな代替案だと受け入れられたと思うか。

市長 そもそも論として、訴訟が提起される前に、次はどうするかという話し合いが必要だったと思っている。二つの訴訟が提起される前に、次どうするのかを話し合うこともなく、ホールの買い取りを止める、白紙撤回ということを主張するばかり。それだけだと、次の街づくりのステップには何も進めない。

 不認可した後、それからどうするのか、この再開発組合は存続するのかしないのかも組合の判断だと遠藤前市長は言うが、徳島市としてどうして行くのか、組合だけで判断できない部分もある。徳島市として組合とこういう方向でいきたい、という話し合いは継続的にして行く必要があったのではないか。

 (遠藤前市長が)代替案として主張されている案は、ふわっとしたもの。一方で、再開発事業は明確に規定されていた。こんな感じの街づくりかなというアイデアベースのものだけでは厳しかったのかなと思う。時期的な問題もあったかと思う。

記者 遠藤前市長が当選した2016年の市長選では、新町西再開発事業をどうするかが大きな争点だった。事業の白紙撤回について内藤市長は当時、賛成だったのか。今は白紙撤回をどう考えているのか。当時と今の考えについて。

市長 「白紙撤回」という意味が…

記者 再開発事業を止める、ということ。

市長 「再開発事業を止める、止めない」の話の前に、(事業費の増額分である)50億がどうかという話もある。

 私自身は、街の動線を考えると、新町西の再開発はやってよかったんじゃないかと思っている立場だ。街づくりの動線を考えると、あそこに何かが必要だったんじゃないかと考える。徳島市は駅前から歩く街づくりを提唱しているが、動線がないと、そういう部分が実現するのが難しかったんじゃないかと考える。

記者 2016年の市長選で新町西再開発事業が争点になったのは、それより前に県知事が(再開発に伴う)都市計画決定に「同意しない」ということがあったためだ(それにより計画期間が長期化)。県知事が都市計画決定に同意をしなかった。その点についてどう考えるか。

職員 今回、遠藤前市長への請求ということなので…

記者 監査結果は遠藤さんについてだが、市が遠藤さん個人に請求すると判断する際にはもっと大きな視点で判断していると思う。市長の見解を伺いたい。

市長 当時の判断については、知事がどう考えていたのかなど私が分かっていない部分もあるので、それに対しては「どうだ」ということはこの場では言えない。いろんな経緯があり、街づくりができてきていなかったというのがある。今後、中心市街地については県と協力しながらやっていきたい。

 知事の決定もあるかもしれないが、県と市の関係も争点になっている気がする。文化センター跡地の土地の問題などいろんな経緯があり、県と市の仲がこじれたことがあったり、それまでも原市長と知事との関係であったりした。県と市がきちんと話ができるような体制で前を向いて進んでいくべきだと思う。連携体制を取って話し合いを進めていけたらと思う。

記者 監査結果を出した4人の委員をそれぞれ選任した理由は。どういう専門性を期待して選任したのか。

職員 今、資料がない。後で知らせる。

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