中学校使用の地図帳及び外務省ホームページにおける台湾の取り扱いに関する質問主意書
現在、義務教育課程における中学生が社会科で使用している地図帳は帝国書院発行の『新編 中学校社会科地図 最新版』と東京書籍発行の『新しい社会科地図』の二冊であるが、この二冊がいずれも台湾の東側(太平洋側)に国境線を引いて、台湾を中華人民共和国(以下、「中国」と略)の領土として取り扱っている。また、この二冊の地図帳で使用されている資料も全て中国の資料であることから、台湾が中国領として取り扱われている。
この地図帳を発行する教科書会社の説明では、国名を含めた領土・領域の記載については、外務省編集協力の『世界の国一覧表』と日本国政府の見解に基づいて取り扱っているとのことである。
確かに『世界の国一覧表』(二〇〇五年版)において、台湾は独立国家として扱われているのではなく、「その他の主な地域」の項に掲載されている。しかし、その「領有ないし保護などの関係にある国」の欄には日中共同声明の一文が記されているだけで、どこにも中華人民共和国が台湾を「領有」や「保護」をしているとは記されていない。
それは、台湾の次に掲載されている「ホンコン(香港)特別行政区」や「マカオ(澳門)特別行政区」における「領有ないし保護などの関係にある国」の記述と比べてみれば一目瞭然である。そこには「『一国二制度』による自治が認められた中国のホンコン特別行政区」「『一国二制度』による自治が認められた中国のマカオ特別行政区」とあり、香港やマカオが中国、即ち中華人民共和国の領土であることを明記している。もし教科書会社が説明するように、台湾が中国の領土だとするならば、『世界の国一覧表』では香港やマカオと同じように記述するのが当然であるのにも拘らず、そのようには記述されていないのである。
また、台湾の領土的地位に関する日本の国際法上の立場は二つあり、一つは昭和二十六年九月八日に署名し翌年四月二十八日に効力が発生したサンフランシスコ講和条約に基づくものであり、一つは昭和四十七年九月二十九日に署名した日中共同声明に基づく立場であると理解している。
まずサンフランシスコ講和条約においては、その第二条b項において「日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」と謳われており、これを以て日本は台湾及び澎湖諸島を放棄した。
また、日中共同声明においては、その三項で台湾に触れ、中国政府が「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」としたものの、日本国政府は「この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重する」として、台湾を中国の領土とは承認していない。
日本が中国の主張を承認していないことは、当時、日中共同声明に署名して帰国した大平正芳外相が、自民党両院議員総会において、「台湾の領土の帰属の問題で、中国側は中国の領土の不可分の一部と主張し、日本側はそれに対して『理解し、尊重する』とし、承認する立場をとらなかった。つまり従来の自民党政府の態度をそのまま書き込んだわけで、日中両国が永久に一致できない立場をここに表した」と明言していることからも明らかであると理解している。
即ち、日本は領土に関して「カイロ宣言の条項は、履行せらるべく、又日本国の主権は、本州、北海道、九州及四国並に吾等の決定する諸小島に局限せらるべし」とするポツダム宣言を受諾するも、サンフランシスコ講和条約の締結によって台湾に対する権利や権原を放棄した。つまり、サンフランシスコ講和条約の当事国としての日本が台湾の領土的地位に関して独自の認定を行うことは条約の効果を自ら否定することにもつながるので、日中共同声明においても「承認できない立場にある」というのが日本の立場であったと考える。その結果、台湾の法的地位を未決定とし、台湾を帰属先未定とする日本政府の立場は現在まで続いていると解釈できる。
一方、現在、外務省のホームページ「各国・地域の情勢」における「アジア」の「各国情勢」で中国をクリックすると、中華人民共和国とともに台湾が同じ色で表示される。つまり、この地図では台湾が明らかに中国の領土の一部として取り扱われているのである。ところが、同ホームページでは台湾は北朝鮮、香港、マカオと共に「地域情勢」でも取り扱われており、外務省が台湾についてどのように取り扱おうとしているのか、見るものをして混乱を生じさせているのである。
従って、次の事項について質問する。
右質問する。