10月15日のCSファイナル第1戦。阪神・村上頌樹はピンチを断つごとに感情を爆発させた ほえる、ほえる、またほえる―。そこには普段とは別人のエースが立っていた。それは10月15日のクライマックスシリーズ(CS)・ファイナルステージ第1戦(甲子園)。ピンチを断つごとに感情を爆発させたのは、先発を託された阪神・村上頌樹投手(27)だった。
「一発(勝負)と言えば一発なので、嫌な流れでいってしまうと本当にすぐに終わってしまうような短期決戦。一球一球、一試合一試合を大事に、ということは思いながら投げていました」
一回に安打と四球、味方の失策で2死満塁のピンチを背負ったが、ここで佐藤輝が三塁線の打球を好捕してから一塁へ送球し、無失点で発進。右腕はグラブを何度もたたいて喜びを示した。この日は任された5イニング中、先頭に安打を浴びてから得点圏に走者を進められるピンチを招いたのが実に4度。だが、粘りに粘って肝心のホームは踏ませなかった。
マウンド上で繰り返される、ガッツポーズに次ぐガッツポーズ。普段は抑えても穏やかな表情でベンチへ引き揚げ、感情を示したとしても試合中盤に訪れる1、2度程度。それがこの日は一回からことあるごとに、だった。本人いわく「自然と出た」ものだという。
10月24日の日本シリーズ前日練習。投内連係をする村上頌樹=みずほペイペイドーム「相手がDeNAで、(ファーストステージ第2戦では)サヨナラ勝ちをして、得点力があるというところで、『この1戦目を取られるとキツい流れになってしまうなあ』というところはあった。『絶対に初戦を取れるように』という気持ちを込めていました」
乗り込んでくる相手の勢いがあることは織り込み済みだった。その波状攻撃を封じることも〝開幕投手〟に課せられた使命。そこに屈せば一気に食われると思うくらいに重要であると捉えたからこそ、気合は目に見えるほどの形であらわになった。そして、残した5回無失点。チームは2―0の勝利から一気に3連勝を挙げ、このステージを勝ち上がった。
ポストシーズンは、レギュラーシーズンとはひと味ちがう雰囲気が漂うもの。今季と同じ第1戦のマウンドを踏んだ2023年を振り返ってもらうと「緊張し過ぎて、ほとんど覚えていない」と、2年前は気持ちに余裕がなかったと明かす。
ただ、今回は「ピンチの場面でも落ち着いていましたし、焦ることなく丁寧に丁寧に投げられたと思いますね」と、胸には目の前の勝負を楽しめるだけの心のゆとりがあった。14勝(タイ)、勝率・778、144奪三振で投手3冠に輝くほどに積み重ねた実績と経験が下地になり、ポストシーズンを物差しにして分かる成長。次なるマウンドは、日本一を懸けて戦う日本シリーズだ。
「落ち着いて投げられると思います。自分が投げた試合は勝てるように、ということを意識しながら投げたいですね」
2年前は第1、6戦(ともに京セラ)で山本由伸(現ドジャース)に〝当たって砕けろ精神〟で挑み、開幕戦では投げ勝った。さて、今年は―。1年間の集大成の舞台もまた、進化を感じる貴重なマウンドとなる。(須藤佳裕)