「生きる希望与えてくれた」北新地放火 犠牲の院長にささげる元患者の追悼ショパンの調べ
26人が犠牲となった令和3年12月の大阪・北新地のクリニック放火殺人事件は17日で発生から丸4年。これを前に催された追悼コンサートで、クリニックの元患者の女性が亡くなった西澤弘太郎院長=当時(49)=をしのびピアノを演奏した。曲はショパンの「英雄ポロネーズ」。親身に寄り添い、再び生きる道を切り開いてくれた「英雄」である西澤院長への思いを鍵盤に込めた。
「西澤先生は私にとって生きる希望を与えてくれた英雄でした。今日は言葉にならない思いを演奏に込めて先生に届けたい」。14日に大阪市内で行われた追悼コンサートで、ピアニストの小池美貴子さん(50)はこう言葉を絞り出し、演奏を始めた。
コンサートは西澤院長の妹、伸子さん(48)が2年前から「音楽を通して事件に関わる多くの人が思いを通わせ、寂しさやつらさを癒やす時間にしたい」と開催。小池さんは昨年、観客として会場を訪れて伸子さんと知り合い、今年は初めて演奏者となった。
元ダンサーだが、無理がたたって、心と体を壊した。以前から感じていた生きづらさを的確に受け止めてくれる医師がなかなか見つからず、転々とすること7年。ようやく見つけたのが西澤院長のクリニックだった。
西澤院長は先入観を持たずに一人一人に寄り添った対応をしてくれた。自分のことを理解してくれる医師に「やっと出会えた」。発達障害の一つ、自閉スペクトラム症(ASD)との診断も初めて受けた。それまで障害による影響を理解されずに苦しむことも多かったが、「再び前向きに生きよう」と思えた。
だが、別れは思いもしない形で訪れた。発生当時は通院していなかったが、惨状をニュースで知り、言葉を失った瞬間は今も忘れられない。事件からまもなく4年。「どう生きるか考え、自立のために必死に生きた4年だった」と振り返る。
「英雄ポロネーズ」には深い思い入れがある。生きることをつらく感じ始めた中学生時代。がむしゃらに弾くことで全てを忘れ、自然と気持ちが奮い立った。
西澤院長は、あのころの自分を勇気づけてくれたこの曲と同じように小池さんの「救い」だ。「人に希望を与えられる存在」との英雄像も西澤院長と一致する。「先生がいたから今の自分がある」と話す。
生きる希望を与えてくれた「英雄」にささげる一曲。約5分間の演奏を終えると、会場は暖かい拍手に包まれた。「先生がふわっとサポートしてくれたような感じがした」という小池さん。西澤院長からは「生きる切符」を受け取ったと考えている。その「切符」を手に、今度は「私が人に希望を与えられる存在になりたい」と前を向く。(木下倫太朗)
大阪・北新地ビル放火殺人事件 令和3年12月17日午前10時15分ごろ、大阪市北区の繁華街・北新地にあるビル4階の「西梅田こころとからだのクリニック」が放火され、西澤院長らスタッフと患者計26人が犠牲になった。大阪府警は殺人容疑などで、現場から搬送後に死亡した谷本盛雄容疑者=同(61)=を書類送検。容疑者死亡で不起訴となった。クリニックでは休職した患者らを対象にした治療「リワークプログラム」が手厚く行われていた。





