東京都足立区で盗難車が暴走した事故は発生から3週間が経過し、当時の詳細な状況が明らかになってきた。死亡した被害者らは横断歩道や歩道にいて巻き込まれ、体を激しく打ち付けるなどしており、運転の危険性と悪質性が際立っている。
現場の歩道に花束、飲み物
「優しく、良い友達だった。今もただ悲しい」。死亡したテスタド・グラディス・グレイス・ロタキオさん(28)のルームシェア仲間の男性(25)は事故後、産経新聞の取材に悲痛な胸の内を語った。現場の歩道には花束や飲み物が供えられ、事故の凄惨(せいさん)さを物語っていた。
警視庁によると、横尾優祐容疑者(37)は事故当日の11月24日午前10時20分ごろ自動車販売店を訪れ、店員に声をかけずに駐車場に止まっていたトヨタの「クラウン」に乗り、店を出発。
この際、車のドアに鍵はかかっておらず、車内にスマートキーが置かれていた。「クラウンに乗りたい気持ちが抑え切れなかった」。容疑者は車を盗んだ動機についてこう供述。運転免許証は1年前に紛失し、再交付を受けていなかった。
捜査では容疑者が7月以降、この店に複数回訪れていたことも判明。試乗を希望したり、購入を申し出たりしておきながら、実際に支払いに来ることはなかったという。
時速約70キロで突入
横尾容疑者は車を盗んだ後、埼玉県内のガソリンスタンドや薬局の駐車場に立ち寄るなどし、午後0時半ごろ、パトカーに発見された。追跡を受け、容疑者は車の間を縫うように走行。赤信号を2回無視し、3回目で歩行者ら10人ほどがいた横断歩道に加速して時速約70キロで突入した。付近の車のドライブレコーダーには、テスタドさんが15メートルほどはね飛ばされ、他の車にたたきつけられる様子が写っていた。
容疑者はさらに、歩道に進入し、時速60キロほどで約100メートル走行。自転車にまたがって信号待ちをしていた無職男性(81)や、商業施設の警備員らを次々にはねて再び車道に出ると、玉突き事故を起こして徒歩で逃走した。
男性は脳損傷で死亡、テスタドさんは搬送先の病院で意識不明の状態が続いていたが、翌日に死亡した。警備員の男性も歩道から15メートルほどはね飛ばされ、車道の車に衝突。両足や骨盤を骨折して現在も入院中だ。
警視庁は、横尾容疑者が追跡を逃れるため、前方の車を追い越そうとして歩道に入ったとみて捜査。捜査幹部は「盗難車で引き起こした、過去に類を見ない極めて悪質な事件だ」と話す。(橋本愛)






