台湾有事で中国による武力攻撃があった場合、日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に当たる可能性があると高市早苗首相が国会で答弁したことが波紋を広げている。台湾周辺で中国と米国の武力衝突が発生すれば、台湾に近接し、日米安保条約で米国と同盟関係にある日本の存立が脅かされる事態といえる。一方、野党の一部からは首相の答弁を批判する声もある。
米軍艦艇が攻撃を受けるケース
存立危機事態は、平成27年に安倍晋三政権下で成立した安全保障関連法で新設された。日本が直接攻撃を受けていない状況でも、密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる事態と判断された場合に認定される。
首相は7日の衆院予算委員会で、「戦艦を使って、武力の行使も伴えば存立危機事態になりうる」と述べた。台湾に対する海上封鎖が行われ、これを防ぐために行動する米軍の艦艇が武力攻撃を受けるケースを具体例に挙げた。米軍の艦艇への攻撃は「密接な関係にある他国」への攻撃とみなすことができ、その後の日本への影響も懸念される。さらに在日米軍基地への攻撃に発展すれば、日本の領土への攻撃となり「武力攻撃事態」の認定対称となる。
そもそも、日本の最西端に位置する与那国島と台湾は約110キロしか離れていない。台湾が海上封鎖される事態になれば、日本の領空に戦闘機が侵入し、中国軍が台湾周辺に敷設した機雷が領海内に流れてくることも想定される。
「海上封鎖されて深刻化すれば」
こうした事態が想定されるため、安全保障関連法の制定に携わった兼原信克元官房副長官補は「どの段階でいえるかは状況によって異なるが、海上封鎖されて深刻化すれば存立危機事態に当たるだろう」と話す。首相の答弁についても「間違っていない。中国の(軍事的)圧力が強まっている現状があり、踏み込みすぎでもない」と評価した。
一方、立憲民主党の大串博志氏は10日の衆院予算委員会で、存立危機事態に当たる可能性があるとした首相の答弁が「日本が戦争に進むかどうかの大きな論点」として厳しく追及した。
大串氏は「踏み込んだ発言で、他国の反応も懸念される」と撤回を求めた。さらに、撤回しないのであれば、首相の答弁を政府の統一見解とするようにも迫ったが、首相はいずれにも応じなかった。(楠城泰介)






