愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡る署名偽造事件は、地方自治への住民参加の重要な手段であるリコール制度への信頼を損なった。事件とは性質が異なるが、中日新聞の双方向報道「Your Scoop~みんなの取材班」には河村たかし名古屋市長が主導した11年前の名古屋市議会リコールでの問題点を指摘する声も届いた。関係者への取材を進めると、制度上の課題が改めて浮き彫りになった。
「名古屋市議会リコールで署名はしていないが、運動終了後、(河村市長が代表の)減税日本の選挙はがきが届くようになった」。名古屋市の60代の会社役員からは、こんな声が寄せられた。理由が分からず、今回の署名偽造事件を受けて「(11年前に)自分の名前も勝手に使われ、その後も流用されているのでは」と不安が膨らむ。
河村市長は大村知事のリコール運動の「応援団」を自称し、活動団体に市議会リコールの際の受任者3万4千人分の名簿を提供したことを明らかにしている。現状はこうした名簿の流用は法的に問題ないが、事件を契機に、異なる運動間で名前がやりとりされることへの批判が強まった。
取材班が市議会リコールの署名簿の一部コピーを入手し調べてみたが、男性の名前は確認できなかった。
だが、その過程で住所や氏名の筆跡が似通った署名が散見された。そっくりの字で6人分の名前があった家族を探し当て、40代の女性に話を聞くと「当時、職場の同僚に頼まれて(家族の分も)署名した。私学助成や保育園の関連だと思っていた。リコールだと言われなかったのかもしれない。今は簡単に署名しちゃいけないと思うようになった」と振り返った。
70代の女性は「回覧で組長が持ってきた時に書いた覚えがある」という。一方で「押してある印鑑は絶対に自分のものではない。誰が押したのか」と不思議がった。
当時の選管関係者によると、同一筆跡が疑われる署名は1人目をカウントして、2人目以降は無効にしていたという。受任者が対面で集めなければならない署名の書類が「喫茶店に置かれていた」といった情報も寄せられていた、と話す。
しかし、名古屋市のように署名数が数十万に及ぶ大都市の場合「一件一件鑑定することは不可能」だと指摘。「当時は市議会の在り方に疑問を持つ市民の声も強く、(大きな問題がなければ)認める方向で有効と判断していた」と打ち明けた。 (中日新聞)
河村たかし名古屋市長の話 名古屋市議会リコールの当時、喫茶店のおやじが客の名前を署名簿に書いてしまったとか、家族分をまとめて書いたというケースは耳にした。制度が市民に理解されておらず、家族の名前ぐらい…という感覚があったのではないか。市選管への提出段階でチェックして、同一筆跡と判断できる署名ははじいた。審査で無効とされたのは責任者名の記載漏れなど形式的なものばかりで、異議申し立ての結果、多くが有効と認められた。愛知県知事リコールの事件とは全く性質が異なる。
名古屋市議会解散請求(リコール) 2009年に当選した河村たかし名古屋市長が市民税減税や議会改革などの公約を実現するため、反対姿勢の市議会解散のリコール運動を主導。市長の支援団体が10年8月から1カ月間で、46万5602人分の署名を集め、市選管に提出。選管の審査で11万人分が無効と判定され、法定数(36万5795人分)に届かなかった。その後、異議申し立てによって1万5千人分が無効から有効に覆り、法定数を上回る結果に。11年2月に住民投票が行われ、賛成多数で市議会は即日解散した。
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