消費税減税は「不適切」85%、インフレ止められず 経済学者調査
日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者を対象とした「エコノミクスパネル」の第5回調査で、一時的な消費税減税の是非について聞いた。財政状況が悪化することなどを理由に減税が「適切でない」と答えた割合は85%となった。一時的な減税が恒久化する懸念や、物価高対策としての有効性を疑問視する意見も目立った。
Q.日本経済の現状を踏まえると、一時的な消費税減税を行うのは適切である

夏の参院選を見据え、与野党が経済対策を競っている。物価高や米国の高関税を受け、野党は期限つきの消費税減税を訴えている。与党も減税や給付を盛り込んだ経済対策を検討している。
一時的な消費税減税に踏み切るのは適切なのか。5月16〜20日に経済学者47人に尋ねたところ、「全くそう思わない」(28%)「そう思わない」(57%)の割合が計85%だった。
経済学者の多くは短期的な景気の底上げより長期的な財政規律を重視する立場だ。プリンストン大の清滝信宏教授(マクロ経済学)は「消費税を減税すると、元の水準に戻すのが難しくなり財政再建が遠のく」と述べた。
時限的な減税が恒久化するとの懸念は強い。一橋大の佐藤主光教授(財政学)は「政治的にはいったん減税すると増税に相当のエネルギーが必要になる」との見方を示した。大阪大の赤井伸郎教授(公共経済学)も「これまでの消費税率の引き上げの歴史を見ても、消費税率を減税後に元に戻すことは困難」と懸念を示した。
一時的な消費税減税は適切か(主な意見)



欧州では過去に、消費税にあたる付加価値税(VAT)を一時的に引き下げた例がある。京都大の長谷川誠准教授(公共経済学)は欧州の減税に関する研究を踏まえ、「物価高対策としての消費減税の効果は限定的で、税収の損失に見合わない」との見方だった。
的を絞った減税であれば認める意見もあった。中国・長江商学院の森田穂高教授(産業組織論)は「物価上昇に所得増加が見合っていない低所得層にターゲットを絞った減税が適切」とした上で「食料品の時限的消費税率引き下げは一案だ」と述べた。
Q.日本経済の現状を踏まえると、減税や財政出動などの経済対策を行うのが適切である

調査では、そもそも現在の日本経済が巨額の減税や給付を必要としているかも聞いた。「減税や財政出動などの経済対策を行うのは適切か」との問いには、「そう思わない」(55%)「全くそう思わない」(6%)との回答が計61%に達した。
2025年1〜3月期の実質国内総生産(GDP)は1年ぶりのマイナス成長となった。物価上昇率は日銀が目標とする2%を上回る状況が続き、物価高対策として与野党は減税や給付の必要性を訴えている。
多くの経済学者が経済対策に否定的なのはなぜか。まず目立ったのは、減税や財政出動がむしろインフレを助長してしまうとの意見だ。明治学院大の岡崎哲二教授(日本経済史)は「財政出動はインフレを加速させる懸念がある」と答え、東京大の岩本康志教授(公共経済学)も「さらに需要を追加する政策は物価の問題をより悪化させる」との見方を示した。
経済対策を行うのは適切か(主な意見)



慎重な景気判断を求める声もある。中央大の塩路悦朗教授(マクロ経済学)は「米関税をめぐる状況は日々変化しており、国内のどこにどのような被害が及ぶか、まだ読めない」とした。このため現時点の最大の経済対策は「機動力を確保するために予備費を分厚く積み増しておくこと」との持論を展開した。
広範囲に巨額の経済対策を実施する効果を疑問視する学者も多かった。政策研究大学院大の北尾早霧教授(マクロ経済学)は「支援を必要としない高所得層を含めた全国民に減税する必要はない」と断言。慶応大の井深陽子教授(医療経済学)は「減税や給付が時限的なら、将来への備えとして貯蓄に回る可能性が高い」として、消費喚起の効果に疑念を呈した。
経済対策をめぐる専門家の意見と世論との乖離(かいり)は大きい。日本経済新聞社とテレビ東京が実施した世論調査(4月19〜21日)では、消費税減税について「効果あり」と答えた人が59%にのぼった。
京都大の諸富徹教授(財政学)は「消費税減税の要求が高まる背景には、インフレによる実質所得の減少に苦しむ人々の存在がある」と分析する。「一定水準以下の所得層への直接給付など、直接届く政策を実行すべきだ」と提案した。
低所得者対策として「給付つき税額控除」の導入を求める意見もあがった。税金から一定額を控除する減税策で、課税額より控除額が大きいときはその分を現金で給付する。低所得者や子育て世帯への支援策としてカナダや英国で導入されており、日本では立憲民主党が導入を求めている。大阪大の恩地一樹教授(税制)は「低所得者をターゲットとした対策として望ましい」と述べた。
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日本経済新聞社と日本経済研究センターは約50人の経済学者に政策への評価を問う「エコノミクスパネル」を始めました。専門家の意見分布をグラフで確認し、経済や政策に関するコメントも閲覧できます。
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