財政目標の変更「不適切」54% 経済学者、金利上昇・円安を警戒
エコノミクスパネル
日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者を対象とした「エコノミクスパネル」で、政府の財政健全化目標について聞いた。2025年度から26年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を黒字にするという現在の目標を柔軟化することは「適切でない」とする見方が54%に上った。目標の変更が財政規律を緩め、さらなる金利上昇や円安につながるとの指摘が目立った。
Q. 基礎的財政収支(PB)の目標を現在の単年度から柔軟化することは、経済財政運営として適切である

PBは国債の利払い費などを除いた財政収支で、主な歳出を税収などでどれだけ賄えるかを示す。政府は国と地方のPBを黒字化する目標を掲げてきたが、先延ばしを繰り返してきた。高市早苗首相は単年度の黒字化目標を取り下げる考えで、「数年単位でバランスを確認する方向に見直す」としている。成長投資などのために積極的に財政支出をめざすためとみられる。
PB目標の単年度からの柔軟化が適切か50人の経済学者に尋ねたところ、「全くそう思わない」(8%)、「そう思わない」(46%)の割合が計54%と過半数に達した。「そう思う」は18%、「どちらともいえない」が26%だった。
「そう思わない」と答えた京都大の長谷川誠准教授(公共経済学)は「目標柔軟化の名のもとに財源の裏付けのない財政拡張が正当化されやすくなり、財政規律が緩むことを懸念する」と述べた。
PB目標は柔軟化すべきか(経済学者の主な回答)



金融市場をはじめ経済全体への悪影響に言及する意見も多かった。東京大の渡辺安虎教授(実証ミクロ経済学)は「すでに財政の持続可能性に対するリスクから長期金利が上昇している中での財政収支目標の見直しは、さらなる信認低下につながる可能性が高い」と指摘した。東大の田中万理准教授(開発経済学)も「円のさらなる下落につながり、消費者物価もさらに高くなるのではないか」と憂慮する。
一方、経済学者の中には「25年度」や「26年度」など単年度の黒字化をめざす手法に違和感をとなえる声も少なくなかった。PB目標の柔軟化に理解を示した仏エコール・ポリテクニークの郡山幸雄教授(ゲーム理論)は「景気変動への対応が可能になり、柔軟な財政政策が組み立てやすくなる」とプラス面に触れた一方、「日本のような高債務国では透明性の確保と説明責任が重要だ」とも付け加えた。
積極的な財政出動に理解を示す意見もあった。東大の大橋弘教授(産業組織論)は「脱炭素化やデジタル化など、経済政策に大規模かつ長期にわたる投資が求められる中、会計年度に合わせた単年度主義に縛られる経済財政運営には問題が多い」と主張した。一橋大の砂川武貴教授(金融政策)も「政府債務の国内総生産(GDP)比が低下傾向にある中で、持続的な成長につながるような政府投資は望ましい」との見解を示した。
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