天井崩落の茨城空港が選んだ「張らない復旧」
開港1周年の当日に東日本大震災で被災した茨城空港ターミナルビル。記念行事を取材するテレビカメラの目前で、出発ロビーの天井パネルが落下した。「負傷者は出なかったが、危険性はよく分かった。低価格で良質なサービスの提供を旨とするLCC(格安航空会社)向け空港のデザインとしても、再び天井を張る必要はない」。同ビルを管理・運営する茨城県開発公社の坂入健理事長は、こう判断し、天井を張らずに復旧する道を選んだ。

東日本大震災の震度6弱の揺れで約8.3mの高さから落ちた天井パネルの大きさは3m×11m。厚み9.5mmの石こうボードに、厚み15mmの岩綿吸音板を張り、軽量鉄骨製の下地に取り付けていた。現地を調査した東京大学生産技術研究所の川口健一教授らの推計によると、仮に人に直撃していた場合、頭部にかかる衝撃荷重は約5100Nに及んだ恐れがある。この値は、頭頂骨の崩壊荷重である2450Nを優に超える値だ。
施設の設計を担当した梓設計の原口修執行役員は「法的に問題がない補強を施していた。設計ミスや施工ミスではないと考えている」と話す。落下の原因については次のように分析している。
「落下した天井パネルと全く同じ補強を施した別のパネルは落ちなかった。違いは両端の壁の状況だ。落下したパネルは片側が立ち上がり壁で、落下しなかったパネルは両側が屋根で固定された防煙区画壁だった。強度の異なる壁に挟まれていたパネルでは揺れが収まらず、補強材が耐え切れなくなって落下したと思われる」


■補強のバランスは悪かった
しかし、本質的な問題は別のところにありそうだ。被災後に現地を調査した建築研究所は「天井下地の配置が不均等であったり、入り組んだりしているのを確認した」と報告している。
例えば、落下した天井パネルの西側には空調ダクトが走っていたため、吊りボルトが設置できなかった。また、吊りボルトは折板屋根の山形部に取り付けていたが、パネルの南側では位置が合わず、こちらも設置できなかった。さらに、片持ちになった部分を支えるため、偏った位置にブレースや水平部材を入れていた。
補強のバランスが悪くなったことは、屋根裏の納まりと密接に関係している。これは、茨城空港に特有の問題ではない。天井落下事故に詳しい東京大学大学院新領域創成科学研究科の清家剛准教授は「安全性を高める上で、構造や設備と天井との関係を、整理する必要があるのではないか」と、生産システムの観点から指摘する。

県開発公社の坂入理事長は建設段階で「天井は要らないのではないか」と梓設計に伝えていたという。見た目や防音・吸音効果を考えて設置された天井パネルだが、張らずに復旧した後に問題は上がっていない。安全性を犠牲にし、パネルを取り付けた意味とは何だったのか──。天井の存在意義が問われている。
(日経アーキテクチュア 木村駿)
[ケンプラッツ2011年6月27日掲載]
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