十二の眼

(135)別の会にも参加していましたよね
そしてその殺人事件の判決は、事件当時の被告人の心神喪失が認められ減刑された。「責任能力の有無」……まさに時代の変化と共に近年増えつづけている減刑の理由だ。法廷で庄子に会釈をしてきた被害者の妻は、憔悴…

(134)坂口誠との出会いは2年前
法定速度を順守しながら、庄子はハンドルを握った。後部座席には坂口がいる。先ほど高輪の廃墟と化した一軒家から、その身を拾った。もちろんその一軒家も、坂口が警察に追われたときのために、庄子が事前に探して…

(133)林檎のことは──頼んだぞ
堂前が、自分のスマートフォンを手繰る。すぐに先ほどこの茂みで坂口に電話をしていた自分の声が聞こえた。仕掛けられた盗聴器で、録音された自分の声。〈──もう、やめよう。これ以上やる必要はないじゃ…

(132)スマホを地面に置いてください
「坂口誠が所持していた拳銃も疑念のひとつでした。いくらネットの時代になったとはいえ、易々と本物の拳銃を手に入れることなどできない。それができる人間は、やくざもんか警察組織の人間です。協力者を飼ってる、…

(131)庄子こそが十二の眼の中心
正直に告白した。庄子も……十二の眼のひとりだった。 堂前が切なさを浮かべた顔で、じっと見つめる。 その視線は、庄子がいつも立つ茂みの奥に向けられた。「そのイヤホン、音楽じゃね…

(130)嫌な予感がしてたんだよ
──一夜明け、六月十二日、水曜日となった。午前四時。 林檎は帳場で、座っていた。 ただひたすらに、坂口誠を捕まえることだけに集中する。が、なにひとつ頭のなかに光はささなかった。庄子は…

(129)捜査員の皆さん、聞こえてます?
その時だった。「すぐに帳場へ戻れ」と廊下の先で捜査員が四方に叫んでいる。三人が急いで大会議室に戻ると、尋常ではない緊張感が部屋を包んでいた。 中央に捜査員たちが集まっている。永井がこちらを向…

(128)自信など刑事は持つ必要はない
林檎はぽつりと呟いた。「このフリージャズは、終わりがあるんですか?」 堂前は優しく微笑み、うなずく。「終わらない旋律はありませんよ」「そうでしょうか……わたし、自信が…

(127)画像には配信する大橋の姿
庄子は最後の力を振り絞るように、呟く。「あの薬物が押収された秘密の店は、多田野公平が裏で経営しているのか?」「……そうかもしれないけど、詳しくはわからない」「坂口麻奈美さんを…

(126)命が惜しければ話せることは話せ
「じゃあいい、こっちだけ答えろ。矢島紗矢と仲が良かったな? 大学時代、おまえの親父が持っていた千葉県の別荘に、矢島と行ったな?」 男はそこまで知られていることに驚愕したように、口を開けては閉じ…

(125)苦労のくの字も浮かんでいない青年
──大橋がライターで火を灯す。 あっという間に、炎が彼を包んだ。 やがて仏のように背を正して座っていた大橋の躰は前方に倒れ、炎は部屋をも燃やしていった。 コメント欄が火事場見…

(124)渡部亨がひたすら憎かった
大橋は淡々とカメラに向かって話しつづける。その表情はこの状況を達観しているかの如く、落ち着き払っているように林檎には見えた。スクリーンのなかの大橋の声が帳場に響く。「自分がしていることは間違…

(123)わたくしも十二の眼のひとりです
スクリーンに、配信サイトが映る。 黒い静止画のなかに、「間もなく、配信開始」と文字が浮かんでいた。 と……画面が切り替わる。 坂口誠ではなかった。そこに映っているのは、もうひ…

(122)警察官が誠の顔を凝視
また警察官はじろじろとバイクに目をやり、「じゃ」と笑顔を浮かべ自転車を引いていった。 誠は、去っていく男を見つめる。 すると、自転車が停まった。 静止していた警察官が、ゆっく…

(121)勝負はもうちょいだ
堂前は苦笑いを浮かべて、歩きつづける。 三人で、十二の眼を捕まえるべく、麻布署へと戻る。「林檎、おまえの家のリンゴ、うまかったよ。お母ちゃんに礼言っといてくれ」「わかりました…

(120)あの人は誰よりも優しい
「彼に、記者の渡部を尾行させていたんです」「ああ」「途中で巻かれてしまった経緯の報告を受けたり……まあ、いろいろです」 堂前は、穏やかに話して、林檎に微笑む。林檎はいい機会だと…

(119)犯人たちに拭えない疑問
「一時間経った。一服してくるわ」 庄子はにやにやと嬉しそうに笑い、いつもの場所へと消えていく。 堂前も、どこかへ行ってしまった。また、車のなかでフリージャズでも聴きに行ったのかもしれな…

(118)ようやく運が警察にむいてきた
「わかりました。早急に調べさせます」 庄子が、微笑んでいた。 林檎は尋ねる。「どうしたんですか、庄子さん」 庄子は、しずかに堂前に視線を送っていた。「堂前さん、…

(117)誰かが隠蔽したかったのか
「……誰かが、なにかを隠蔽したかったのでしょう。だから事件化されなかったんです」「……え」「十二の眼が言うことが本当なら、坂口麻奈美さんは矢島に誘われて、いわゆるスポンサーたちに会って…

(116)山と田んぼしかない土地です
「パソコンのなかに、見られてはまずいものでも入っているのかな? ゆっくり、署で話してくださいね」 表に捜査員たちが到着した音が聞こえる。 男は終わりを悟ったように、目を閉じた。…










































