一時はベネズエラへの陸上部隊投入まで匂わせたトランプだが Aaron Schwartz/Pool/Sipa USA/REUTERS
2025年1月に2期目をスタートさせたトランプ政権は、誰も予想しなかったような激しい政策を次々に繰り出し、常にニュースのトップを飾ってきました。ですが、4年の任期の1年目がようやく終わろうとしている今、政権の勢いに変調の兆しが漂っています。
例えば、12月18日にトランプ大統領は晩のプライムタイムにホワイトハウスからテレビ演説を行いました。また、4日後の12月22日にはヘグセス国防長官などと海軍に関する重大な発表をするとして会見に臨みました。それぞれに、世界を驚かせるような発表があるのかという事前の予想がされたのですが、結果的には具体的な発表は限られていました。
まず18日のテレビ演説ですが、経済政策への自画自賛が中心で、インフレなど悪いことは全て前政権の責任とする抽象的な演説に終始していました。具体的な発表としては、軍人に対して建国250周年を迎えることを記念して建国の年にちなんだ「1776ドル」のボーナスを支給するとしたぐらいでした。その額の小ささも含めて、この演説への反響はほとんどありませんでした。
一方で、22日の海軍関係の発表ですが、こちらは現代の海軍戦術論ではほとんど否定されている大型の戦艦(バトルシップ)を建造するという内容でした。現在最も新しい駆逐艦「ズムウォルト級」に続くものとして、「トランプ級」というシリーズ名を与えた巨大艦を作るというのです。これはまるで、戦前の日本海軍が重視して敗戦の原因となった「大艦巨砲主義」のようで、専門家の間では不評ですが、仮想敵を同様の軍拡に誘い込むのが目的と考えれば、僅かな合理性はあるのかもしれません。
この2つの演説が内容的に薄かったことで、政権の求心力は更に弱まったようです。その背景には2つの問題が横たわっています。1つ目は対ベネズエラの政策です。トランプ大統領は、ベネズエラのマドゥロ政権を厳しく敵視しています。反米的で内政が破綻しているというのと、麻薬マフィアを野放しにしているというのが理由です。9月以降は麻薬の密輸が疑われる船舶を続々と爆撃していますし、ここ数週間はアメリカを目指したベネズエラ発の石油タンカーを連続して拿捕しています。
大統領の敵意は、まるで戦争を仕掛けるかのような激しいものです。そこで、18日の演説においても22日の海軍関係の発表においても、ベネズエラに対する軍事的圧力について説明するのだという観測がありました。ですが、両日ともに大統領は具体的な言及をしなかったのです。
その背景には、大統領の支持基盤であるMAGA派などの右派勢力が「ベネズエラ介入」に強く反対しているという事情があります。他国のトラブルには距離を置く、まして他国の政権交代などは他国の問題であり、そのためにアメリカはカネを使ったり、兵士の生命を危険にさらしたりする必要はない、そのような孤立主義こそが、トランプ政権を支える保守思想です。大統領の支持者は、そうした思想を軸としてイラク戦争に突っ走ったブッシュ&チェイニー路線にも、コソボやソマリアに介入したビル・クリントンの「リベラル・ホーク」路線にも強く反対してきました。
今回も同様であり、彼らが強く反対する中では、トランプ大統領と言えども、これ以上、対ベネズエラの軍事圧力に踏み込むことは難しいのです。そんな中、2回の演説で具体的な議論に踏み込むことを避けたことで政権の求心力は低下したという見方ができます。
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(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。
最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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