IMF主催:「アジアとIMF:協調を通じた強靭性」オープニングセッション大臣ビデオメッセージ(2025年3月5日)
2025年はIMF設立80周年にあたります。歴史の節目となるタイミングでIMFが開催したイベント「アジアとIMF:協調を通じた強靭性」のオープニングセッションに、加藤大臣がビデオ形式で下記のメッセージを送りました。
御列席の皆様、おはようございます。「アジアとIMF:協調を通じた強靭性」の開会に当たり、メッセージを寄せる機会を頂き、光栄に思います。IMF設立80周年の節目に、アジア諸国とIMFの協働を一層深めるとともに、IMFの未来を共に展望するイベントが、ここ、東京で開催されることを心から歓迎します。また、開催に当たり、強いリーダーシップを持って世界経済の安定に貢献されているゲオルギエヴァ専務理事に敬意を表するとともに、本イベントの実現に尽力してこられたIMF本部及びアジア太平洋事務所職員の皆様に感謝を申し上げます。
日本はこれまで、自由で開かれた国際経済システムの強化は、世界経済の発展に寄与するとともに、日本の国益でもある、との基本的考え方のもと、IMFの第二の出資国として、その運営に日々貢献するだけでなく、グローバルな危機に際しても、IMFのパートナーとして、国際金融システムを支え続けてきました。例えば、2008年秋に世界金融危機が発生した際には、IMFの資金基盤の強化のため、世界に先駆けて1,000億ドル相当のIMFに対するバイ融資取極を締結し、国際金融のセーフティネット強化に貢献しました。また、2020年に新型コロナウイルスが世界中に広まった際、日本は、迅速かつ自発的な資金貢献により、経済危機に陥った低所得国・脆弱国に対するIMFの力強い支援を後押ししました。こうした危機時の支援に加え、日本は、IMFによる低所得国向けの低利融資や能力開発も、長年にわたり、トップドナーとして支え続けています。私は、日本による、平時、そして危機時を通じたIMFへの貢献は、支援対象となる国々の問題解決だけでなく、日本を含む世界の経済成長にも不可欠な、国際通貨・金融システム全体の安定に大きく寄与してきたと考えております。
翻って、足元の世界経済の情勢に目を向けますと、気候変動に伴う自然災害の頻度と規模の激化、地政学的緊張の深刻化、人口動態の変化、そして劇的な技術革新等により、高い不確実性と、大きな構造変容に直面しています。私は、昨年10月にワシントンで開催された50回目となる「国際通貨金融委員会」に出席した際、「グローバル経済が大きく変容し、ブレトンウッズ80周年を迎えるこのタイミングは、長期的視点を持ってIMFの今後の役割や在り方に関する議論を始める好機」と申し上げました。本イベントにおいても、そうしたテーマが取り上げられると伺っておりますところ、私が重要と考える視点をいくつか申し上げたいと思います。まず、世界経済が大きく変容する中にあっても、国際金融セーフティネットの中核として、様々な機関と連携しながら、加盟国の国際収支に影響を与える課題を解決するというIMFの基本的な役割は今後も維持されるべきです。その上で、激変する外部環境や、多様化する加盟国のニーズに適応しつつ、不変のミッションを効果的に果たしていくために、IMFは、持てる手段を不断に見直し、磨き続ける必要があります。その観点から、次の3点が重要だと考えます。第一に、様々なショックに最も脆弱な低所得国や小規模な島国のニーズへの対応をIMFの中核的業務と位置付けた上で、IMFの既存の制度が、こうしたニーズに十分に応えることができているのか、改めて検討することが必要と考えます。第二に、各国が直面する国際収支上の課題には、短期から中・長期、あるいはその国の構造的課題に根ざすものから、外生的なショックによるものまで様々なものがあるところ、こうした多様な国際収支上の課題に幅広く対応できるようにする必要があります。第三に、世界経済を取り巻く高い不確実性を踏まえ、IMFの業務を支える組織基盤を強化する視点が重要です。例えば、IMFによる低所得国や脆弱な島国への支援をコア業務として位置付けるのであれば、これらの財務持続可能性を一層高める必要があります。この観点から、IMFの純益の更なる活用や、加盟国による自発的な貢献をIMFのガバナンスに反映する方法などを、幅広く議論することを提案します。
以上申し上げた点も踏まえつつ、本日参加される皆様が、IMFの将来について、既存の枠組みにとらわれない忌憚のない議論をされることを期待します。そして、本イベントが、設立80年を迎えるIMFとアジア地域及び日本の関係の新たな1ページとなることを祈念して、私の御挨拶とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。