
薬剤師は医師の処方にもとづき調剤しますが、処方せんの内容に不明点や疑問点がある場合は、処方元の医師に問い合わせをする義務があります。この「疑わしい点(疑義)を確認(照会)すること」を、「疑義照会(ぎぎしょうかい)」といいます。
薬剤師が行う疑義照会は、患者様の健康を守り、副作用などを未然に防ぐために欠かせないものですが、その内容についてはあまり知られていません。
そこで今回は、疑義照会の意義や具体的な内容、そして疑義照会で健康被害を未然に防ぐことができた実例などをいくつか紹介します。
※この情報は2020年4月時点のものです。
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疑義照会は、医薬品の適正使用のために欠かせない薬剤師の重要な業務の一つです。また疑義照会は、薬による健康被害を防ぐ手段でもあります。
薬剤師は、医師が発行した処方せんにもとづき調剤を行います。しかし、薬剤師は処方内容にそって機械的に薬を用意しているわけではありません。
患者様の薬の服用歴やアレルギー歴、ほかの医療機関から処方されている薬との飲み合わせなど、あらゆる観点から処方せんをチェックし、問題がないことを確認してから、患者様に薬を提供しているのです。
これは、薬剤師法第24条に定められた薬剤師の義務で、疑義(疑わしい点)がある場合に処方元の医師に確認をせず調剤することは、禁止されています。
疑義照会は、医薬品の適正使用に役立ち、副作用などの健康被害を防ぐ上で欠かせないものです。
日本薬剤師会の平成27年度の調査によると、院外処方せんの疑義照会発生率は2.56%(処方せん約39枚に対して1枚)です。これらのうち、処方内容が変更になったのは74.88%(疑義照会を行った処方せん約4枚に対して3枚)です。また、重篤な副作用が回避できた事例は、5.1%(疑義照会を行った処方せん約20枚に対して1枚)となっています。
割合でみると少なく感じますが、調査が行われた平成27年度には1年間で7億8千万枚以上の処方せんが発行されています。この数字から換算すると、重篤な副作用の発生を1年で103万件近く回避していることになります。
このようなことから、疑義照会が患者様の生命・身体に対するリスク軽減に果たす役割は、非常に大きなものといえます。
疑義照会は、処方せんの内容に不備がある場合や、薬学的な観点から医師に確認が必要と薬剤師が判断した場合などに行われます。
以下の例のように、客観的に処方せんの内容に不備がある場合は、処方内容を明らかにするために疑義照会を行います。
・カラーコピーなど処方せんの偽造が疑われる場合
・医薬品の用量用法・規格などが記載されていない場合
・処方日数制限がある薬剤につき、制限を超えた処方がされている場合
・名称変更品が旧名称で処方されている場合、販売中止品目が処方されている場合
など
患者様のアレルギー歴や副作用歴、ほかの医療機関から処方されている薬との飲み合わせに問題がある場合など、薬剤師の視点から疑義照会を行うことも少なくありません。
・アレルギー歴や副作用歴のある薬剤が処方されている場合
・病歴などから慎重な投与が必要と考えられる場合
・患者様の年齢・体重などに対して薬の用量・用法が適正でないと判断した場合
・同一成分や類似成分を含む薬剤が重複して処方されている場合
・飲み合わせの悪い薬剤が処方されている場合
など
では実際に、疑義照会で処方が変更になった例をいくつか紹介します。
最近ウォーキングを始めたが、時々低血糖を起こすようになったため定期受診時に医師に相談。医師からは「薬の量を減らしましょう。」といわれたものの、薬の変更・減量はなく、前回と同じ処方になっていた。
服薬指導時に薬剤師が最近の様子を聞いたところ、「血糖値は以前よりだいぶ下がった。ウォーキングを始めてから低血糖を起こすようになったので、薬を減らすと聞いている。」とのことだったが、処方内容が以前と同じであったため、疑義照会を行った。
疑義照会の結果、薬の用量が1日1回朝食後1錠から1日1回朝食後0.5錠に減量となった。処方変更後、低血糖は起きていない。
疑義照会しなかった場合に予測される健康被害:低血糖・意識消失・昏睡など。
ヘリコバクターピロリ除菌のため、薬が処方された。病院ではアレルギー歴を聞かれたものの、ピロリ感染症であることがショックで、ペニシリンアレルギーであることを伝え忘れてしまった。
薬局で管理している薬歴(薬のカルテのようなもの)で、ペニシリンアレルギーがあることを薬剤師が確認。処方されたピロリ除菌薬の中にペニシリン系薬剤が含まれていたため、疑義照会を行った。
疑義照会の結果、ペニシリン系薬剤を含まない処方に変更となった。
疑義照会しなかった場合に予測される健康被害:発疹・皮膚や目のかゆみ・アナフィラキシーショックによる死亡など。
風邪のため、総合病院の小児科を受診。体重について医師から確認はなく、15kg相当の風邪薬と解熱剤が処方された。
約1年前と全く同じ処方であることに疑問を感じた薬剤師が、保護者に体重を確認。体重と処方内容に食い違いがあったため、疑義照会。
疑義照会の結果、体重相当の用量へと変更になった。
疑義照会しなかった場合に予測される健康被害:薬の効果が十分にあらわれず症状が悪化など。
医師の処方に薬剤師が意見しても良いのか?
疑義照会により、処方の内容が変更になることもあるため「薬剤師が医師の処方権を侵しているのではないのか?」と疑問や不安を感じる方もいるでしょう。
しかし、疑義照会の目的は、医師の処方に対する批判や間違いの指摘ではなく、患者様の健康被害を防ぐことにあります。また、薬剤師が疑義照会を行っても、処方変更の要否は医師が判断するので、医師の処方権が不当に侵害されることはありません。もちろん、薬剤師が自己判断で処方の内容を変更することもありませんので、ご安心ください。
薬剤師は、薬を渡す際に残薬や服薬状況など薬に関することだけではなく、体調や検査結果、医師との会話内容などを尋ねることもあります。これは処方せんの内容をチェックし、患者様の健康被害を未然に防ぐために欠かせないことです。
実際、日本薬剤師会の調査によると、疑義発見の経緯は「処方せんの内容」が56.1%で最多ですが、次いで多いのは「患者様やご家族へのインタビュー(服薬指導)」の42.4%となっています。
そのほか、服用している薬を一元管理できるお薬手帳も、疑義照会に役立つツールの一つです。小さなお子様に関しては、体重も疑義照会につながる重要な手掛かりとなります。
つまり、適切な疑義照会を行うためには、患者様やご家族などの協力が不可欠なのです。
「疑義照会」とは、処方せんの内容に疑わしい点がある場合に、薬剤師が処方元の医師に問い合わせをすることです。疑義照会は法律で定められた薬剤師の義務ですが、医薬品を適正に使用して健康被害を未然に防ぐ手段でもあります。
疑義照会には、医師・薬剤師の連携だけではなく、患者様との連携も欠かせません。重篤な副作用などを回避するために、疑問や不安などがある場合、医師に言い忘れたことがある場合などは、積極的に薬剤師にご相談ください。
