
共済事業のノルマを達成するため、JA(農業協同組合)職員が自腹を切って不必要な契約を強いられる「自爆営業」。農水省は監督を強化し、これを「不必要な共済契約」と定めた。それでも同事業を統括するJA共済連が我関せずの姿勢を決め込んでいる中、ついに一人の現役職員が自らの組織の腐敗ぶりを告発した。
「自爆営業は地域のJAの問題であり、自分たちは無関係というのがJA共済連の基本的な態度。でも、じつはJA共済連も職員に自爆営業をさせてきたから、それは間違っているんです」
こう証言するのは、JA共済連の埼玉県本部(以下、JA共済連埼玉)の職員山田正さん(仮名)である。
「日本の国家予算の半分ほど」という57兆6870億円の総資産や、「世界でも指折りの規模」という224兆3355億円の保有契約高などを誇るJA共済連。保険・共済業界で最大ともいえるこの巨大組織の事業は、ノルマで成り立ってきたといっていい。
ノルマは、JA共済連の全国本部(東京都千代田区)が都道府県本部を通じて、地域のJAに割り振ってきた。地域のJAは個別の経営体であるので、それを受け入れるかどうかは自由である。
だが、北海道を除く都府県のJAの約9割は、本業といえる農業関連事業が赤字。その穴埋めをするため、共済事業と信用(銀行)事業に依存している。
地域のJAは共済事業でノルマをこなすと、JA共済連から販売手数料に当たる多額の「付加収入」を受け取れる。だから、ノルマを受け入れざるを得ないのが実情である。
全国に約18万人いる職員の多くもまた、ノルマから逃れることはできない。上司からあらゆる言動をもって圧力をかけられるからだ。
いずれのJAにおいてもノルマは過大であり、職員は自爆営業を強いられることになる。私が取材した限り、職員がそのために無駄にする金は年間で数十万円は当たり前で、多い場合には数百万円にもなる。
職員がその負担から逃れようと、顧客を騙して不利益な契約を結ばせる事態も常態化してきた。JAおおいた(大分市)の職員による共済絡みの不祥事を調査した第三者委員会は、2020年の報告書で「過大なノルマは不祥事の元凶」と断罪している。
さらにマスメディアが一連の問題を報じたことから、農水省は今年1月27日にJA共済の運用に関する監督指針を改正。職員や生計を同じにしている親族が契約した共済の保障内容が、その職員世帯の経済や家族構成などの状況に照らして過剰であれば、それを「不必要な共済契約」と定めた。
さらに「不必要な共済契約」の要因が次のいずれか一つにでも当てはまる場合には、「不祥事件」として扱うことになった。すなわち職員が契約するに当たって、(1)上司から過度な圧力を受けた、(2)共済の営業に関する知識や経験に乏しいうえ、十分な教育や訓練を受けていなかった、(3)職員の意向を反映したように偽装された―――という三つである。
JAグループ内で起きているこうした事態に、冷淡と思えるほどにだんまりを決め込んできたのがJA共済連である。
JA共済連は商品の企画や開発、その営業の仕組みづくりなどを手掛け、JAグループにおける共済事業の「司令塔」を自称している組織である。それなのに、地域のJAで職員による自爆営業や顧客への不適切な販売が報じられても、
「共済連はお詫びコメントを出したことはない。取材には、『適切な推進をするようJAを指導している』と回答しているだけ」(山田さん)
だが、自らの足元で「不必要な共済契約」が横行していたとなれば、話が変わってくる。山田さんによると、じつは、JA共済連の一部の県本部でも職員に自爆営業を強要する事態が続いてきた。
その一つであるJA共済連埼玉が職員にノルマを課してきたのは、遅くとも2010年度から。ただ、「あくまでも最も古い資料が残っているのがその年度であり、おそらくはそれよりずっと以前からノルマはあったと思われます」という。
ノルマは必達である。それが分かるのが、同JAの普及部が毎年度初めに全職員に配布している「JA共済連埼玉県本部全職員による率先垂範運動について」と題した通知書だ(下線は筆者)。……
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