
今から40年前、男性が殺害された『松橋事件』をめぐり再審無罪となった男性の遺族が、国と熊本県に損害賠償を求めた裁判で、原告一部勝訴の判決。3月14日に熊本地裁は、重要な証拠の存在を明らかにしなかった国に対して約2380万円の賠償を命じた一方、熊本県警の取り調べは違法なものとは認められないとして熊本県への請求は退けた。
1985年『松橋事件』 再審無罪となった男性
1985年、現在の宇城市松橋町で当時59歳の男性が刃物で殺害された『松橋事件』をめぐっては、男性の知り合いだった宮田浩喜さんが殺人の罪に問われた。

宮田さんは捜査段階で犯行を自供したものの、一審の途中から否認に転じ、無罪を主張した。しかし、熊本地裁は「自白は信用できる」と判断。懲役13年の判決が確定し、約9年間、服役した。

宮田さんは服役後の2012年、再審いわゆる「裁判のやり直し」を請求。弁護団は、宮田さんが取り調べで「凶器の小刀の柄に巻きつけ、犯行後、焼却した」と供述していた『シャツの袖』を検察が保管していた証拠品の中から見つけ、自白を覆す新たな証拠として提出した。
『証拠隠し』と『違法取り調べ』訴える
熊本地裁は2016年、「宮田さんの自白は信用できない」として再審開始を認め、2019年に再審無罪となった。その翌年、宮田さんは国と熊本県に対し慰謝料など、約8500万円の損害賠償を求める裁判を起こした。

原告側は裁判で「検察が自白の信用性を揺るがす客観的な証拠である『シャツの袖』を裁判所に提出しなかったことは『証拠隠し』」と指摘。また、「自白するまで長時間にわたり執拗に追及する警察の取り調べも違法だった」と主張した。

これに対し、被告の国と熊本県は請求の棄却を求めていた。宮田さんは提訴直後に87歳で亡くなり、遺族が訴訟を引き継ぎ、3月14日に判決の日を迎えた。
国に約2380万円の賠償命じる判決
3月14日の判決を前に、原告弁護団の齊藤誠弁護士は「この事件は冤罪のあらゆる問題を抱えている。それについてきちんと誠実に答えてほしい。そういった形で判決が出ることを期待している」と述べた。

熊本地裁の品川英基裁判長は、「検察は、自白の信用性に重大な疑念を生じさせる『シャツの袖』の存在を公判で明らかにすべき注意義務を負っていたが、その注意義務に反して明らかにしなかったのは違法であったと言わざるを得ない」と指摘。

身柄を拘束されていた期間については、すでに刑事補償法で補償金が交付されたとして「賠償すべきものはない」としましたが、仮釈放から再審無罪が確定するまでの20年間の賠償金として、約2380万円を国に支払うよう命じた。

一方、熊本県警の取り調べについては「暴力や恫喝に及んだとは、うかがわれないこと」などを理由に違法ではないと結論づけ、熊本県への請求は退けました。
熊本地検と熊本県警のコメント
判決を受け、弁護団の三角恒弁護士は「国の責任を認めたことはそれなりに評価できる」と評価。

同じく弁護団の齊藤誠弁護士は「不十分という感じ。国に対して勝訴したことはよかったが、熊本県に対してはほとんどちゃんと判断されなかった。警察の捜査の違法性が冤罪の一番の大きな部分だが、判決では踏み込んでいない」と述べた。

一方、被告の熊本地検は「判決内容を検討し、関係機関及び上級庁と協議した上で、適切に対応していきたい」とコメント。

熊本県警は「当方の主張が理解されたものと認識している」としている。
(テレビ熊本)

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