Home > Reviews > Album Reviews > Dialect - Under~Between
リヴァプールの音楽家、アンドリュー・PM・ハントのダイアレクト名義としては4枚目のアルバムは、一見牧歌的だがどこか奇妙な抽象絵画を見ているようだ。水の音、金属の音、ピアノ、声、フルート、フリーケンシー、弦……、それらが音のカレイドスコープのように変化しながら、バラバラになっていた音たちが整理され、じょじょに曲としての体を成していく。その表題曲“Under~Between”の展開はみごとで、まるで魔法のような音楽だ。
アルバム全体に、このようなずば抜けた曲ばかりが続くわけではないが、ダイアレクトのこの作品には澄んだトーンがランダムに鳴っているかと思えば曲となり、ふたたび崩れては形を成すかのような、予測のつかない展開のユニークなアプローチが随所にあってなかなか面白い。お決まりの反復もなければ、「これ、聴けや」といった強制もない。サウンド・コラージュであり、アンビエント・スタイルのフリー・インプロヴィゼーションとも言えるが、とにかく曲がその1分後には姿を変えているというか、つかみどころがないのだ。
15人ほどのアーティストやミュージシャンが暮らす街のコミュニティ──20部屋あるという建物に住んでいる──の面々によってそれは演奏されているという。ゆえに本作にはじつにいろいろな楽器の音──ピアノ、サックス、ハーブ、クラリネット、木琴、笛、などなど──がその他いろいろな音といっしょに入っている。ちなみのその拠点からはほかにいろんな作品が発表されているので、気になる方は探してみましょう。
ネットで拾い読みした言葉を見ると、「自然とテクノロジー、神話と魔法のあいだの絶え間ない対話による何かを作りたかった」とハントは言っている。それは人間の知性とコントロールの外側の領域を描くという試みだという。デジタルに生成された音とアコースティックな生楽器との共振はさして珍しいものではないが、しかしヴェイパーウェイヴのすぐその横にフォークソングがあるように、今日の我々の生活にはそのせめぎ合いがさまざまな場面である。ハントはそれを平穏さのなかに着地させようとしている。完成まで2年かかったという力作。コロナ禍において、いまだ強制的な隔離政策が続行中のイギリスとすでにゆるゆるの日本とでは、このアルバムのとらえ方が違うかもしれないが、家にいるときの時間を豊にしてくれることはたしか。控え目な幸せが見つかるかも。アンビエント・ミュージック・リスナーはぜひチェックして欲しい。
なお、このリリースからの収益の一部は、亡命希望者と難民コミュニティのすべての女性のために英国で活動している慈善団体、Refugee Women Connectに寄付される。
野田努
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