Movatterモバイル変換


[0]ホーム

URL:


ele-king Powerd by DOMMUNE
ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Stereolab ——日本でもっとも誤解され続けてきたインディ・ロック・バンド、ステレオラブが15年ぶりに復活
  2. Conrad Pack - Commandments | コンラッド・パック
  3. Eyed Jay - Strangeland | イアン・ジックリング
  4. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか
  5. Bon Iver ──ボン・イヴェール、6年ぶりのアルバムがリリース
  6. Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka ――畠山地平と石若駿による共作、フィジカル盤の発売が決定。リリース記念ライヴには角銅真実も
  7. LA Timpa - IOX | LAティンパ、Christopher Soetan
  8. interview with Black Country, New Road ブラック・カントリー・ニュー・ロード、3枚目の挑戦
  9. Columns Special Conversation 伊藤ガビン×タナカカツキ
  10. ele-king vol.22
  11. GEZAN ──全国47都道府県と中国・上海などを巡るツアー・〈47+TOUR『集炎』〉の詳細を発表、ファイナルは日本武道館
  12. 恋愛は時代遅れだというけれど、それでも今日も悩みはつきない
  13. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  14. Stereolab ──ステレオラブが11年ぶりに来日  | ステレオラブ
  15. 釈迦坊主 - CHAOS
  16. Columns Special Conversation 伊藤ガビン×タナカカツキ | 『はじめての老い』刊行記念対談(前編)
  17. interview with Lawrence English 新しい世紀のために  | ローレンス・イングリッシュ
  18. すべての門は開かれている――カンの物語
  19. Stereolab ──再始動中のステレオラブが23年ぶりにシングル集をリリース
  20. Lust For Youth & Croatian Amor - All Worlds | ラスト・フォー・ユース&クロアティアン・アモール

Home > Reviews > Album Reviews > NOT WONK- Down the Valley

NOT WONK

Alternative RockIndie Rock

NOT WONK

Down the Valley

cutting edge / エイベックス・エンタテインメント

TowerHMVAmazoniTunes

小林拓音Jun 11,2019 UP

 そもそもなぜわたしたちは「洋楽」を聴くようになったのだろう。今年に入ってから二度、そう振り返るきっかけとなるような出来事があった。一度めは3月のコートニー・バーネットの来日公演。そして二度目が5月に LIQUIDROOM でおこなわれた NOT WONK のライヴだ。
 ふだん発達障害の子どもたちを支援するNPOで働いているというヴォーカル&ギターの加藤修平は、ぼそっとつぶやくようにこう言った。「隣りの人に優しくしなさいって曲」。彼はこの日、会場にスペースがあることを肯定的に捉えていた。それはつまり見知らぬ誰かを迎え入れる広さや余裕があるということで、このとき彼が日本社会の排他性や閉鎖性を念頭に置いていたのはほぼ間違いないだろう。かすかに爪弾かれるギターの残響をバックに、「すぐ横にいる人もそうだけど、隣りの国の人とかも「隣りの人」だから」と紹介が続く。静かに参入するドラムス。「“Shattered”って曲」。

 苫小牧出身の3人組、NOT WONK による3枚目のアルバムは、「隣りの人」に厳しいことが当たり前になってしまったこの国においてもまだ、そしてギター、ベース、ドラムスというある意味では古臭くなったとも言えるシンプルな構成でもまだ、やれることはたくさんたくさんあるんだと、そう主張しているかのようだ。
 彼らがいわゆる邦楽よりも「洋楽」のほうにどっぷり浸ってきた人間であることは、『The Bends』のころのレディオヘッドを想起させる“Shattered”や、J・マスキスないしガイデッド・バイ・ヴォイシズを彷彿させる“Come Right Back”を聴くとよくわかる。とはいえ“Of Reality”や“I Won't Cry”といった曲の展開に表れているように、彼らは「洋楽」をそのままトレースしているわけではなくて、ヴァースとコーラスのあいだに大きな飛躍を用意したり随所でリズムを崩したりと、グランジ以降のオルタナティヴな感覚を基調としながら、巧みな手さばきでその参照項を次々と換骨奪胎していく。ときには日本的な要素も顔を覗かせるが、その迷いのない折衷具合には、同調圧力のハンパないこの国においてただひたすら他人と違うためにはどうすればいいのかを考え続けてきたという、加藤の想いが強く表れているように思われる。当たり前だが、他人と違っているためにはまず、他人を知らなければならない。

 全篇英語のリリックもまた NOT WONK の魅力のひとつだろう。軽快なロックンロールの旅路をノイズの嵐が強襲する1曲目“Down the Valley”では「いつでも変われるようにいないとね」と歌われ、彼らが絶望とは無縁な場所で音を奏でていることを教えてくれる。あるいは「貧乏っていうのは恐怖から生まれ落ちて度を失った連中が叩き売ってるんだ」「チャブたちのことは要らない?」と歌われる2曲目“Subtle Flicker”にはイギリスのコラムニスト、オーウェン・ジョーンズからの影響が落とし込まれている。NOT WONK は気がついているのだろう。「隣りの人」にたいする想像の欠如と経済的な貧困問題とがじつは密接に関わりあっているかもしれないことに。

 そもそもなぜわたしたちは「洋楽」を聴くのか。なかにはいや、俺は「邦楽」とか「洋楽」とか分けてねえから、平等に聴いてっから、分けてんのはそっちだから、音が良けりゃそれでいいから、という人もいるかもしれない。その並列化が必ずしもダメなことだとは思わないけれど、ただそれは自分たちじしんについても相手についても深く顧みる気なんてさらさらありませんよという態度表明にも転化しうるというか、ある意味ではサードインパクトよろしく全体と同化してしまうことだとも言える。けだし、わたしたちが「洋楽」を聴くのはみずからをちゃんと異化したいと、どこかでそう願っているからではないだろうか。この問いに答えはないのかもしれないが、ただひとつたしかなのは、NOT WONK が音楽をとおしてそういったことを考えさせてくれるこの国では稀有な、であるがゆえにその動向が気になる、信頼の置けるバンドであるということだ。

※ 6月26日発売の紙版『ele-king vol.24』には NOT WONK のインタヴューが掲載されています。

小林拓音

Facebook  TWITTER  PAGETOP

ele-king™ © 2025 All Rights Reserved.


[8]ページ先頭

©2009-2025 Movatter.jp