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Home > Reviews > Album Reviews > Yves De Mey- Bleak Comfort

Yves De Mey

IDM

Yves De Mey

Bleak Comfort

Latency

Bandcamp行松陽介  Jul 06,2018 UP

 僕が初めてYves(イヴ)の音を聴いた作品は、Sandwell Districtが2011年にリリースした『Counting Triggers』でした。抑えた曲調ながら強靭な音、PAN SONICをよりフリーキーにしたような楽曲構成。かなりオリジナルな作風で、面白い人が出て来たなと思いました。2012年にはPeter Van HoesenとのユニットSendai名義でPeterのレーベル〈Time To Express〉から『Geotope』を発表。2人の個人名義よりも実験的な作風の曲が多く、DJではかなり使いにくい曲が多いのですが、さらにYvesへの関心は高まりました。2013年には〈Archives Intérieures〉、〈Opal Tapes〉、〈Modal Analysis〉などのレーベルからYves De Mey(イヴ・ド・メイ)名義で作品をリリース。この辺りからBPM110台で、強靭なサウンドがじわじわとビルドアップして行くという楽曲構成が個人名義での基本的スタイルとして確立されたように思います。2014年の〈Semantica〉からのリリースでも独自のスタイルを貫いています。その一方でAnDが運営する〈Inner Surface Music〉から新たな名義Grey Branchesを用いてBPMも早目の曲が多いテクノに寄った楽曲群を発表。この名義では2017年に12"x2もリリース。非常にアグレッシヴなテクノ・トラックが多数収録されています。多才な彼は〈Spectrum Spools〉や〈Editions Mego〉(Sendai名義)からも作品をリリース。数々のレーベルを渡り歩いて来た彼の最新作が〈Latency〉からリリースされました。

 〈Latency〉としてはMura Oka『Auftakt』(LTNC004)以来の12"x2となる大作ですが、全編に渡って非常に張り詰めた緊張感が漲っています。一貫して漂う不穏なムード、巧みに抑制された曲調と音数、抑揚に合わせてコントロールされる音量、予測しづらい音やリズムの配置、常に変化を続ける楽曲構成などからその緊張感が生まれ、この作品を貫いています。

 静かにはじまり、繰り返されるメロディのシークエンス、そのメロディを支えるように地を這う低音パート、間欠的に打ち鳴らされるバスドラム、時折挿入される女性の声、やがてバスドラムと女性の声と主旋律がクレッシェンドしていき、音が揺らぎながらピークを迎える“Gruen”は〈Latency〉らしいアンビエント・テイストを孕んでいて、この曲をオープニングに選ぶあたりも憎い。

 “Mika”というタイトルが故人となってしまったMika Vainioのことを指すのかはわかりませんが、Mikaを想わせる重く強靭なキックドラムがBPM110で打ち込まれる上を、不規則に跳ね回る音が時折重力に逆らって飛翔を試みるものの失敗を繰り返している、そんなイメージが浮かびます。

 この作品のハイライトととも言えるであろうタイトル曲“Bleak Comfort”。シンコペーションするリズムで幕を開け、そこにサステインするキックドラムが加わることで一気にグルーヴ感が出てボトムを支え、妙な電子音が4拍目に絡み付き、シンバルのような音が2拍4拍にスネアのように入ってきて、数小節の後一旦ブレーク、そこから細かく刻まれた電子音の連打がクレッシェンドを繰り返しはじめて熱量は上がり、その下部にディストーションのかかったベースラインが入ってきてさらにグルーヴを高め、全てが暴発しそうな勢いを秘めたままカタルシスに至る一歩手前で音は収束していき、最後を締めくくるのは細く刻まれた電子音の孤独なクレッシェンド。この作品のなかでもっともDJ映えする曲だと思います。

 ゆったりとしたメロディではじまり、アンビエントな曲になるかと思いきや、少し不釣り合いな感じがするリズムが入ってきて、やがて金属的な音が加わり、暴力的なまでに高まったかと思うとそのまま何ごともなかったように収束していく、主旋律と他のパートの対比が奇妙な“17 Graves”に続いてもうひとつのハイライトと言えそうな“Stale”がはじまります。BPM116のビートの上をゆらゆらと電子音が漂い、モジュラーシンセの柔軟な音が蠢くなか、主旋律の上昇音階が繰り返され徐々に熱量が増していく。どこまでもヒートアップして行きそうな音の足し算から一転して、次の“Wearing Off”はとても抑制された音数であるがゆえの高い緊張感が漲っていて、ひとつひとつの音の存在感が凄い。この曲も大きな音で聴くとかなりかっこいいと思います。今にも爆発しそうな熱を内に孕んでギリギリのところで持ちこたえているような、そんな曲です。

 最後を締めくくるのはモジュラーシンセ・インプロヴィゼーションのような、そこはかとなく美しさを感じさせる“Contrary Unto Them”。

 アーティストJean-Marie Appriouのアルミニウムによる造形にアクリルペイントと金箔を施した作品“Raspberries 3”を用いたジャケットも美しい。

 この作品のイメージを色に例えるなら暖色系ではなく明らかに寒色系で、寒々とした荒野にひとり取り残されたものの、どこか居心地が良くて立ち去りがたいような、そんなイメージが湧きます。「荒涼とした心地良さ」というタイトルが言い得て妙な、強い中毒性を持った傑作。

行松陽介

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