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Home > Reviews > Album Reviews > Bruce Gilbert- Ex Nihilo

Bruce Gilbert

Dark AmbientDrone

Bruce Gilbert

Ex Nihilo

Editions Mego

Amazon

デンシノオト  Jun 11,2018 UP

 実験は永遠に続く。なぜか。生きるとは実験と実践の継続と同義だからである。そしてひとつの生が終わっても、別の生がその実験を継承する。永遠に。むろん音楽も同様だ。だからこそ日々、新しい音楽が生まれ続けている。先端音楽もエクスペリメンタル・ミュージックもポップ・ミュージックもロック・ミュージックもジャズも現代音楽も南米音楽も、いやあらゆる世界で実践と実験が繰り返されている。生の証のように。それゆえ人生というときのなかでつねに未知/自己のサウンドを追求し続けるアーティストが存在する。前衛と継続、逸脱と継承、この相反する状態を長い時に渡って追求したときアーティストは、ひとつのレジェンドになる。

 1946年生まれで、現在72歳(!)、ブルース・ギルバートもまたそんな畏怖すべき永遠の実験・前衛音響作家である。ポストパンク・グループのワイヤーのメンバーだったブルース・ギルバートだが(2000年の再始動後も参加し、20004年にグループから脱退した)、その音楽性はロック/バンドの形式にとらわれるものではない。彼は70年代以降、マテリアルな質感の音響作品を数多く生みだし続けているのだ。
 そんなブルース・ギルバートの新作『Ex Nihilo』が実験音響レーベルの老舗〈エディションズ・メゴ〉からリリースされた(https://brucegilbert.bandcamp.com/album/ex-nihilo)。ちなみに〈エディションズ・メゴ〉からは2009年に新作『Oblivio Agitatum』が発表され、同年に『This Way‎』(1984)、2011年に『The Shivering Man』のリイシューがリリースされている。
 加えて同レーベルはワイヤーのグラハム・ルイスとのユニット、ドームのリイシュー・ボックス・セット『1-4+5』も発売する。私見だが〈エディションズ・メゴ〉は、ノイズからグリッチというエクスペリメンタル・ミュージックの歴史的な視座を持ってブルース・ギルバートの新作および再発を10年代初頭に行ったのではないかと思う。
 さらに、ブルース・ギルバートは英国のエクスペリメンタル・レーベル老舗〈タッチ〉から、2013年にブルース・ギルバート・アンド&BAWで『Diluvial』を送り出してもいる。この1946年生まれの実験音響音楽家は、00年代以降も、つねに前衛的存在/音響を示し続けてきた。

 本作は、『Diluvial』から5年ぶり、ソロアルバムとしては『Oblivio Agitatum』以来、じつに9年ぶりの新作である。聴けばわかるように、いまだ過激かつ実験音響を鳴らしている。ラテン語で「ゼロ、無から」を意味するというアルバム・タイトルそのものともいえるマテリアルな質感のノイズ/ドローン作品だ。
 じじつ、全9曲、どのトラックも聴き手の感覚のむこうから鳴ってくるような物質的なノイズによって、「音/楽の極北」のような響きを生成する。これほどまでに非=人間的なドローンやノイズも稀だ。論理や明晰さかも逸脱しており、人間と世界の中間領域で鳴り響くようなハードコアでマテリアルな音響である。まさに「人間」から遠く離れて。

 なかでもA1“Undertow”、A4“In Memory Of MV”、B2“Black Mirrors”、B5“Where?”などは、まさに電子ノイズ/ドローンの極北ともいえるような音が蠢いており、聴き手の耳を音楽と非音楽のボーダーラインへと誘発する。そして無機的なドローン曲“Change And Not”などは、音楽の実験・前衛の最前線を40年以上にわたって走りぬけてきた御大だからこそ行き着いた音響空間が生成しているように思えた。
 本作においてノイズは音楽/音階とは別次元でサウンドの高低を変化させ、音楽へと抵触する直前に鉱物のような音響を放っている。音=ノイズに対するフェティシズムすらも冷たく引き離すような感覚があるのだ。ブルース・ギルバートが生成する音響は、端的に言ってノイズや音響の快楽を無化する。いわば、「音楽」から遠く離れて。

 現在、電子音楽やノイズ音楽は変化の只中にあるという。すでに過去(20世紀的な)言説では語り切れない領域へと至っているともいわれる。当たり前だがすでに20世紀は終ったのだ。しかし、その「現在」もまた数秒後には過去になる。やがて無効になる。ゆえに「失語症」を恐れるがあまり、現代性を強調した正論を繰り返すようになる危険性もある。そのような言説は空虚である。だからこそ、われわれは「変化」とは「人生」であり、「実験」とは「生の条件」でもあることを再認識すべきだ。世代も時代も超えた地点にあるもの、つまりは実験や前衛に、流行やモードとは無縁のものを見出すこと。

 本アルバムはマスタリングをラッセル・ハズウェル、カッティングをラシャド・ベッカー (ダブプレート・アンド・マスタリング)という鉄壁の布陣で制作されており、〈エディションズ・メゴ〉の250番目のリリース作品(!)に相応しい作品といえる。ポストパンクからグリッチへ。そして10年代的なエクスペリメンタルへ。延々と受け継がれてきた前衛と実験精神の結晶が本作なのである。

デンシノオト

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