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Burkhard Stangl

AmbientDroneElectronicNoise

Burkhard Stangl

Unfinished. For William Turner, painter

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デンシノオト  Dec 02,2013 UP

 オランダの即興ギタリスト、ブルクハルト・シュタングルのアルバムが、英国の実験音楽レーベル〈タッチ〉からリリースされた。ブルース・ギルバート&BAWの、ミカ・ヴァイニオ&ジョアシャン・ノードウォール、そしてフィル・ニブロックの新作など今年の〈タッチ〉はかなり充実した(勝負に出た?)リリースが相次いでいるのだが、そのなかでも本作は、いわゆる音響/実験音楽ファンのみならず、より多くの音楽ファンに聴いていただきたい作品に仕上がっている。なぜなら、そのギター演奏に環境音などの簡素/豊穣なレイヤーが重ねられることによって、聴く者の心に深い余韻と、耳に豊穣な快楽を与えてくれる作品に仕上がっているからだ。

 まずは軽く経歴をおさらいしていこう。ブルクハルト・シュタングルは1992年に最初のEP、1995年にファースト・アルバムを発表して以降、EP、コラボレーション・アルバムを含め20作品以上の作品をリリースしてきた。コラボレーターにはクリストフ・クルツマン 、杉本拓、ジョン・ブッチャーなど。

 この新作アルバムは〈タッチ〉からのリリースということもあり、マスタリングをデニス・ブロックマンが手がけ、プレ・マスタリングはクリスチャン・フェネスが担当している(一部の楽曲はフェネスのスタジオで録音された)。となるとフェネスが半ば、コ・プロデューサー的に本作の制作に協力したのではないかとも想像してしまうが、そもそも00年代初頭にギターとノイズをまったく新しい形で融合させた『エンドレス・サマー』を生み出したフェネスは、このアルバムの録音・制作においてはベストなコラボレーターであったのかもしれない。本アルバムの夜の海辺を捉えたアートワークや、“メロウ”、“セイリング”、“エンディング”などの曲名、そしてギターのメロウな和声、音響感覚は、どこか「ポスト・エンドレス・サマー」的な響きを感じるのだ。

 その仕上がりは、まさに演奏=音楽=音響の境界線を緩やかに溶かしてしまう見事なものであった。演奏と環境音を含めてそのノイズのコンビネーションの作品という意味では近年、稀にみる独自の音響空間を生み出しているように思える。実際、ここでの演奏はノイズとなんら相反することなく、同居し融合し空気のように、そこに流れている。本アルバムは18世紀~19世紀の英国の画家、ウィリアム・ターナーの絵画にインスパイアされて制作されたというが、確かに空気や雲、光などの質感と、本作に満ちた静謐かつ生々しい環境音などのアトモスフィアな響きには、どこか共通する質感を感じてしまう。

 むろん、だからといって、ブルクハルト・シュタングルのギターが希薄というわけでは、まるでない。いや、むしろ反対である。ここではまずギターの濃厚な響きや揺れに、環境音(ノイズ)と見事、融解しているのだ。近年、楽器+環境音のエレクトロニカ系のドローン/アンビエント作品は多くリリースされているが、それらとはまったく違う濃厚で個性的なギターの音、響き、微かな旋律、気配が横溢しているのだ。

 ブルクハルト・シュタングルのギターは当然即興で演奏されており、その途切れがちな音の連なりは、霧の向こうの光のような響きと同居することで、聴き手の音の遠近法をズラしていく。だからこそ環境音とのレイヤーが大きな意味を持つのだ。それはただ音を重ねただけのサウンドではない。まるでストローブ=ユイレの映画のショットのような、天井のないような開放感と、木々の葉の揺れを肌で感じるような空気感が成立しているのである。世界の音のありようを即興演奏とともに、ありのままに捉えること。絵画にインスパイアされて制作された本アルバムの音響は、「映画」のもっとも純粋でコアな表現のもとに交錯していく。

 いうなれば、デレク・ベイリーとクリスチャン・フェネスの間を埋める音楽=演奏を、ストローブ=ユイレ的な音響で音盤化したというべきか。この音楽=音響は呼吸を深くする。同時に耳にやさしく触れる風のようもある。そして耳をくすぐる音の快楽に満ちている。その意味で難解な作品ではまるでない。インプロヴィゼーション・ギターの音(=響)の豊穣さ、そしてそれを包み込むサウンドスケープに素直に身を委ねていればいいのだから。

 個人的には全33分に及ぶ1曲め“メロウ”のラスト5分間が堪らない。断片的になったギターの音と、映画のショットのような環境音。遠くで鳴るカラカラと乾いた音。その空気とフィルムのようなサウンドスケープが耳を潤すのだ。そして小ギターの一音の微かな爪弾きで終わる見事な幕引き。つづく2曲め“セイリング”は環境音のアンビエンスからはじまり、やがて世界に自然に介入するかのようなギターの音。なんという見事な構成だろうか。そしてラスト曲“エンディング”は、これはアルバムの終わりであると同時に、冒頭へのループのようでもある。世界のざわめきへ繋がる音響のようでもある。

 本作を聴き終えたとき、あたりに立ち込める濃厚な音と空気の気配に、名盤の誕生に立ち会ったかのような静かな興奮を覚えた。2001年の晩夏と2013年の遅い夏の終わりを繋ぐ音響がここにある。素晴らしいアルバムだ。

デンシノオト

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