Movatterモバイル変換


[0]ホーム

URL:


ele-king Powerd by DOMMUNE
ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Stereolab ——日本でもっとも誤解され続けてきたインディ・ロック・バンド、ステレオラブが15年ぶりに復活
  2. Conrad Pack - Commandments | コンラッド・パック
  3. Eyed Jay - Strangeland | イアン・ジックリング
  4. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか
  5. Bon Iver ──ボン・イヴェール、6年ぶりのアルバムがリリース
  6. Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka ――畠山地平と石若駿による共作、フィジカル盤の発売が決定。リリース記念ライヴには角銅真実も
  7. LA Timpa - IOX | LAティンパ、Christopher Soetan
  8. interview with Black Country, New Road ブラック・カントリー・ニュー・ロード、3枚目の挑戦
  9. Columns Special Conversation 伊藤ガビン×タナカカツキ
  10. ele-king vol.22
  11. GEZAN ──全国47都道府県と中国・上海などを巡るツアー・〈47+TOUR『集炎』〉の詳細を発表、ファイナルは日本武道館
  12. 恋愛は時代遅れだというけれど、それでも今日も悩みはつきない
  13. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  14. Stereolab ──ステレオラブが11年ぶりに来日  | ステレオラブ
  15. 釈迦坊主 - CHAOS
  16. Columns Special Conversation 伊藤ガビン×タナカカツキ | 『はじめての老い』刊行記念対談(前編)
  17. interview with Lawrence English 新しい世紀のために  | ローレンス・イングリッシュ
  18. すべての門は開かれている――カンの物語
  19. Stereolab ──再始動中のステレオラブが23年ぶりにシングル集をリリース
  20. Lust For Youth & Croatian Amor - All Worlds | ラスト・フォー・ユース&クロアティアン・アモール

Home > Reviews > Album Reviews > Dan Friel- Total Folklore

Dan Friel

Dan Friel

Total Folklore

Thrill Jockey

AmazoniTunes

橋元優歩  Mar 12,2013 UP

 春だ。木の芽どきの騒がしさが、心や肌ばかりでなく髪にまで感じられる。日本ではちょっとした別れや出会いのシーズンでもある。ちょうど感じやすくなっているところへ、しばらくぶりの知己の顔を見つけるようにダン・フリールのソロ・アルバムが届けられた。パーツ・アンド・レイバーのコアとしてすでに10年以上のキャリアを持つキーボーディストの、2枚目のソロ作品である。彼の音色は、このざわざわとした春のノイズにとてもよく似ている。

 どんなにディストーションやファズをきかせた曲でも、また『ステイ・アフレイド』のようなハードコア・パンク色の強い作品にあっても、パーツ・アンド・レイバーにおいてフリールのシンセがもっともノイジーだった。ということをいまにして思った。音響的に本当にそうなのかはわからない。だが、歴代にわたるあの手数の多いドラミングの隙間からどんどんと伸びてきて、まるでなにか言葉を話しつづけるように鳴りまくる彼の音をノイジーという以外に形容できない。本当に、彼のシンセは歌う。声を加工しているんじゃないかと思うほど、いつまでたってもしゃべりやまない。そして今作は彼史上最高に「歌う」アルバムだ。

 フレージングが独特で、鍵盤楽器というよりはギターの発想に近い演奏をするように思う。しかも頭から尾までソロをやるというテンションに近い。メロディに次ぐメロディが、層になり渦になったカラフルな電子ノイズを突き抜けていく。このカラフルさは、2000年代にはボルチモアやブルックリンの同系統のバンドにおいてトライバルな表象をともなって出てきていたように思うが、そうしたかつてのトレンドが抜けて、プレーンな印象になった。けっして丸い音楽ではないのだが、ウォーミーだ。ポニーテールやデスセット、あるいはブラック・ダイスやライトニング・ボルトでさえ、そうした2000年代性をどこかで払拭しなければ、さらに若い耳に届くことは難しいのではないかと思う。

 そして何といっても本作の命は"ヴァレディクトリアン"や"サンパー"などのメロディの強度に尽きる。たくみなリズム構築や音の配置、「ニンテンドー」的なものまで含めた多彩な音色によって別物のように見えるが、シンセ版のレス・ザン・ジェイク、アンドリューW.K.、あるいはバズコックスやザ・コーズだとも言える。あきらかにメロコアやポップなメタル・バンド、あるいはオブスキュアなパンク・バンドの影響を含んでいる。タイタス・アンドロニカス、ファング・アイランド、それからグウォーなどとも非常によく似たヴァイブを持っている。エクスペリメンタルでハッピー、鮮やかな火薬が詰まっているように、彼らの音はいつも着火のときを待っている。そしてフリールのキーボード・プレイは、(言葉による)歌がないことのためにより一層のメロのきれや熱量を求めて跳ね回る。"スカヴィンジャー"は少しUKロック的な節回しを持っているが、中盤以降のメリスマのような大熱唱には胸も熱くなる。全編いち度も歌は登場しないが、秀でてシンガロングなアルバムだ。

 いくつか挿入される"インターミッション"はどれもやや実験志向な性格で、アナログ・シンセの太い音にフィールド・レコーディングを対照させながら、可愛げすら感じさせる異形のミュージック・コンクレートを半身さらしている。"ウィンドミル"や"ヴェロシピード"のようにビート感を出した曲もすばらしく、彼や彼らが培ってきたものの奥にプリミティヴなダンスの要素があることをほのめかしている。今回は〈スリル・ジョッキー〉から。同レーベルのカラーとして意外に感じられる部分もあるが、ダブル・ダガーという先例もあり、懐の深さを感じさせる。

 それにしてもこの臆することなきメロディ。空気のなかにちりちりと電流がまじるようなこんな晴れた3月には、しばらく着重ねてきたアンビエントやドローンの衣を脱いで、ダン・フリールとともに外へ出ていきたい。

橋元優歩

Facebook  TWITTER  PAGETOP

ele-king™ © 2025 All Rights Reserved.


[8]ページ先頭

©2009-2025 Movatter.jp