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Zola Jesus

Zola Jesus

Conatus

Pヴァイン

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橋元優歩  Jan 12,2012 UP

 ゾラ・ジーザスをビョークと比較するのは、そのアーティスティックなたたずまいからすればじゅうぶんに理由があるともいえるし、商業的な戦略としても有効だと思われるが、ビョークが体現する不屈の自由ともいうべき強靭な精神性に比べると、ゾラにはむしろトラウマティックな翳りがあり、それを意志の力によって懸命に克服しようとするような、切ない不自由さを感じずにはいられない。それが痛切に表れているのは、まずなにより彼女の歌声、そしていくばくかのバイオグラフィックなエピソードである。幼少よりオペラを学んだとして必ず指摘される彼女の歌唱力は、海外のメディアなどはケイト・ブッシュやファイストらに比較するが、ビョークも加えた彼女らののびやかなヴォーカル・スタイルとはまるで異なるものだ。むしろ抑圧的で、テクニカルな点からみても喉元で余分な力をかけて不自然に声を固めてしまっている。ひと言で言って、近くではうるさく遠くでは聴こえないという、先生にみっちりしごかれてしまうタイプの歌い方なのだ。だがもちろんそんなことは音楽やロックにとって本質的なことではない(シューベルトを歌う、というようなことになれば別だが)。
 彼女はおそらく自分が天性の歌い手でないことを知っている。声楽のレッスンは彼女が強く望んだものでありながら、繊細な彼女を苛むものでもあったのだろう。「完璧主義者だ」と自ら告白するゾラは、精神的な問題でしばしば歌えなくなったという。彼女の求める「完璧」というヴィジョンと現実とのギャップがそのかぼそい心の糸を軋ませた。......ある人間の心のストーリーがここまで図式的な脚本を持っているものかどうかはともかく、彼女の音楽はそうしたひとつの限界性の中で格闘するリアルな魂の物語として我々の耳に訴えるものをもっている。
 とはいえ、ゾラ・ジーザスをこのようにとらえるのは邪道とも言えるかもしれない。ウィスコンシンの深い森で、猟師の父が獲ってきた動物を食料とし(そうした生き物の前肢だとか鹿の首だとかがふつうに木の枝にぶらさがっていたという)、過酷な自然条件に耐えて育ったという特異な境遇。そうしたなかでオペラを習得したり、学問においても飛び級で進学を果たしたという才気。大学では哲学を修め(プラトンやあるいはデネットというのではなくニーチェだというのがいい)、スロッビング・グリッスルやデッド・カン・ダンス、コクトー・ツインズを愛し、またその影響を自らの音にくっきりと滲出させる知的な佇まい。ゴシック再評価の機運を追い風として、インディ・ミュージック・シーンに颯爽と現れた新たな才能、というのが一般的な受け取られ方ではあるだろう。それに加えてハイブローなウィッチ、しかも森で育った本物のウィッチとして、インパクトも存在感も申し分ない。〈ノット・ノット・ファン〉のアマンダ・ブラウンとのスプリットなども発表し、EPやデビュー・アルバムも『ピッチフォーク』などのメディアによって高い評価を受けていることであるから、ポスト2000年代をエッジイに彩るアーティストの重要作として本作を手に入れるのも悪くないだろう。しかし長い年月を経たのちには、このアルバムは時代を代表する1枚というよりは、もう少しパーソナルなものとして無名的な尊さを備えるにいたるのではないかと思う。

 インダストリアルな雰囲気のノイズと、無機質なビートとが格子をなすダーク・ウェイヴ。暗いながらも浮遊感のあるシンセのレイヤーに、険のあるゾラのアルトが屋をかす。サウンドを組み立てる手つきには、チルウェイヴに顕著な、簡素でラフでときには拙くさえある、あの感じはない。つめたく硬質なポスト・パンクが、現代風に磨かれたような姿をしている。全編をとおして大きな変化はないが、前半のハイライトは"アヴァランチ"、"ヴェッセル"、そして切ない旋律を持った"ヒキコモリ"、"イクソデス"だ。
 "ヒキコモリ"は日本語の「引きこもり」だろうが、曲を聴くかぎり我々のそれとは随分異なる位相を持った言葉のようだ。「引きこもり」がこんなにドラマチックで深刻なニュアンスを含んでいたのは、日本ではよほど以前のことである。後半には少し前向きな調子の曲も現れる。"イン・ユア・ネイチャー"、"リック・ザ・パルム・オブ・ザ・バーニング・ハンドシェイク"、"シヴァーズ"。これらには力強さとともに、ヒット・チャートの紹介番組で幾多のメジャー作品とも張り合えるようなポップさやスケール感が備わっている。彼女自身に力みがあるために、こちらも肩に力を入れないと聴けないアルバムだが、そのような力みがよりポップなフィールドでも聴かれるようになれば、豊かなことである。

橋元優歩

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