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Home > Reviews > Album Reviews > サイプレス上野とロベルト吉野- YOKOHAMA LAUGHTER

サイプレス上野とロベルト吉野

サイプレス上野とロベルト吉野

YOKOHAMA LAUGHTER

felicity

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竹内正太郎  Jan 11,2012 UP

 新年のはじまりを、皆さんはどう過ごされただろうか。私は、地元である群馬県で実に典型的な年始を過ごした。十代という、いま思えば恐ろしい季節をともに過ごした旧友たちとの再会である。懐かしい顔ぶれにほころぶ感情もあったが、ほとんどが都心へ出ている面子だったので、嫌でも地元の相対化を迫られることとなる。観光業的には温泉の名所(草津町)等が知られる群馬だが、平野部には典型的な地方の郊外が広がっている。モータリゼーションを前提とした消費文化は、主要道路の脇にコンビニ、ユニクロ、マクドナルド、ブックオフ、TSUTAYA、まあそういった「どこからかやって来た(しかし)どこにでもあるもの」をものをきれいに並べてみせた。そして、それまでは通過する用事さえな かったような空き地に次々と建設される、ショッピングモール、モール、モール......。巨大駐車場を構え、異常な集積率でテナントを詰め込んだそれらは、敵か味方かも分からぬ微笑みを見せ、週末には家族連れやカップルを次々と飲み込んでいく(そこには、あらゆる個性を奪われたHMVやヴィレッジバンガードなんかもある)。率直に言って、そこ(地元)で語れるストーリーというものは限られている。

 サイプレス上野とロベルト吉野(以下、サ上とロ吉)も、「地元」を引っ提げて登場した連中であった。が、そこには、例えばザ・ブルー・ハーブやGAGLEがその初期において見せていた「(東京ではないという意味での)地元」のような、留保の態度は全くなかった。磯部涼による 最新の力著『音楽が終わって、人生が始まる』によると、横浜市戸塚区出身(今も在住)だというこのラップ・グループは、"自己嫌悪"(キミドリ、1993)における実存不安を普遍的なものと認めたうえで、出口のない自己不安の罠にハマらぬよう、意識的にストーリーを語ってきた連中だともいえる。闘争も逃走も物語もなく――最初のフル・レンスは、自身のルーツにちなんで"夢"と名付けられていた。そのアルバムを聴き終えたときに浮かび上がるのは、極端に言えば「自分を探してると生きづらいけど、みんなで集まって盛り上がってるとけっこうイケるぜ!」というメッセージで、それは『ルフィの仲間力』(安田雪著、2011)が分析する集英社の人気漫画の思想に近いのかもしれない。もっともそれは、「リア充的な価値観に生きろ」という勧告ではなかった。そこには、「俺たちはやり過ごしてるだけだ」という、開き直りがあったのだ。その意味で、『ドリーム』(2007)収録の"Bay Dream"は、ゼロ年代のドメスティック・ラップにおけるひとつの思想であった。

 そんな風にして、ゼロ年代をのらりくらりとサバイブした(やり過ごした)サ上とロ吉は、本作で意外にも若干の戸惑いを見せている。それは表題曲のミュージック・ヴィデオに端的に表れており、あらゆるから騒ぎを封印し、ふたりはカメラに向かって淡々と曲を進めていく。ぶつぶつとしたレコード・ノイズが残るオーケストラル・ループの上で、上野はいつになく言葉を選んでいる。「思い出なんて別にないよ」――そう突っぱねるしかない、無残に変わっていく、しかし圧倒的に変わらない地元で、いつものコースを回りながら、「淋しくないといえばウソになるけど」、それでも、「笑い飛ばす、笑い飛ばす、笑い飛ばす......」 ("YOKOHAMA LAUGHTER")。それは、彼らが遠ざけていたはずの"自己嫌悪"との不可避の接近をなんとなく予感させる。あるいは単なるマンネリズムなのかもしれないが、傍目にはうまくやっているかに見えたヨコハマ・ジョーカーは、実は、そんなにうまくいっていなかったのかもしれない。あるいは、常に固有の横浜とともにあった彼らのストーリーは、実は、「"横浜"という名の、実際は入れ替え可能などこにでもある場所」で紡がれていたのかもしれない。

 しかし、ヨコハマ・ラフターに緩やかに転身した彼らには、その表現の原理上、「うまくやってる」というポーズを取り続ける必要があり、それはそれである種の苦しさを彼ら自身に与えているのかもしれない。彼らの音楽は常に遊びとともにあったし、本作でもLUV RAW & BTBと"空っぽの街角"(クレイジーケンバンド、1998)で遊んだり、「しゅばばばJAPAN」でZZ PRODUCTIONらの面々とばか騒ぎしたりしているが、『YOKOHAMA LAUGHTER』は、お世辞にも愉快でブリリアントな作品ではない。もっともアッパーな"★~PLAY~★"にさえ、ある種のメランコリアが漂っている。この「どこにも行けなさ」は、本作をフルレンスにしなかった彼ら自身がよく理解しているのではないだろうか。サ上とロ吉はもう、あまりうまくは笑っていない。ハードなときこそ笑い、ゲロって、発泡酒片手にぶちかまし、のらりくらりやっていくサ上とロ吉を見続けたい、というのが本音だ。その虚勢が地方都市(地元)で生きる人間にも希望を届けたと言えるが、「今もそれなりにうまくやってる、でもけっこうしんどいんだよね」という声が腹のなかにあるのなら、それを聴いてみたい気もする。まだまだ先は長いのだから。3月のフルレンスが楽しみだ。

竹内正太郎

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