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Tarwater

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三田 格  Nov 09,2011 UP

 まさかのマガジン、30年ぶりの5作目。
 09年に再結成ライヴをおこなった後、そのまま新作のレコーディングに入るという噂は本当に実現してしまいました。ただし、ベースのバリー・アダムスンは録音までは参加せず、オリジナル・メンバーはヴォーカルのハワード・ディヴォート、ドラムスのジョン・ドイル、キーボードのデイヴ・フォーミュラのみ、PIL脱退後に眠ったまま息を引きとっていたジョン・マクゲオフの代わりにギターはラグジュリアからノコが参加している。

 結果はもちろん、大したことはない。82年か83年にリリースされていても、それほどのインパクトではなかったのではないだろうか。一度は引退を宣言していたこともあるディヴォートは(マイケル・ウインターボトム監督『24アワーズ・パーティー・ピープル』に掃除夫の役で出ていた以外に)ノコが参加していたアポロ440に歌詞を提供していたり、02年にはピート・シェリーと組んでシェリー/ディヴォートの名義でテクノのアルバムを出しているぐらいだから、新しいサウンドに興味を持っていなかったわけはなかったろう(セカンド・サマー・オブ・ラヴの時期にバリー・アダムスンはアシッド・ジャズ、デイヴ・フォーミュラはカウント・ベイス-Eの名義でアシッド・ハウスもやっていた)。しかし、ここでは30年という時間はなかったこととして往年のマガジン・サウンドにヴァリエイションを与えているだけ。それはもうものの見事に過去の再現であり、新曲であるにも関わらずノスタルジーが湧き上がってくるのみである。嬉しくもあり、「なんで戻ってきたんだ!」と叫びたくなったり。時間軸の上を自分が激しく行き来し、喜んだり退屈したり、忙しいことこの上ない。これを書いている11月2日現在、パッケージに貼られたシールにある通り、全英ツアー中のマガジンをこの目で見ていればきっと何も文句は言わないと思うけど(笑)。

 レイディオヘッドもカヴァーしている「ショット・バイ・ボス・サイズ」で77年にデビューしたマガジンは、マンチェスターのパンク・バンドであるバズコックスを脱退したハワード・ディヴォートが即座に結成したニューウェイヴ・バンドで、キーボードを大幅に導入していたことと、ルー・リードのパンク・ヴァージョンともいえるディヴォートの頽廃的なセンスが他とは大きく異なっていた(ユーチューブで当時のライヴを観ると、そのことはかなりわかりやすい。"ディフィニティヴ・ゲイズ"のリハーサルや、とくに"モーターケイド"はまるで神聖かまってちゃん? そう、間違っても09年の再結成ライヴは見ないように......)。ちなみに"ショット・バイ・ボス・サイズ"と同じくアート・ワークがオディロン・ルドンだったことも新作に対する期待を煽ったことはたしか。

 最初の勢いだけでなく、オーヴァー・プロデュースだといわれたセカンド・アルバム『セカンドハンド・デイライト』と、その反動のようにしてシンプルにまとめられたサード・アルバム『コレクト・ユース・オブ・ソープ』がバンドのピークといってよく、"007ゴールドフィンガー"やスライ・ストーン"サンキュー"などカヴァーのセンスも抜群だった。さらに言えば、どこか気がないように歌うわりに、いつの間にか彼(ら)のパッションに引きずり込まれているといった風なところが最大の魅力だったように思うし、そのセンスはけして失われていないと思うものの、やはり往時のシャープさには及ぶべくもなく、失われるものがあるのは当然だとして、その代わりに成熟した部分がどこなのか、そこがもうひとつ見えないところが「30年ぶり」を実感させてくれないところなのだろう。カート・コベインを取り上げた"ハロー・ミスター・カーティス(ウイズ・アポロジャイズ)"でディヴォートが「自分が本当に老いてしまう前に死にたい」とラストで繰り返すところはあまりにもいただけないし、かつてのように突き放した叙情性を失った"フィジックス"など、聴き続けることが苦痛に感じられる曲もある。それでも同年代の友人たちと同窓会的に聴きたいとか思ってしまうのだからポップ・ミュージックの呪縛というのは恐ろしい。自分にもそういうところがあって良かったとも思うし......。

 同じようにデビューから15年経って、やはり代わり映えしていないように思えたのがターウォーターで、ジャーマン・プログレッシヴ・ロックやノイエ・ドイッチェ・ヴェレの再発に務める〈ビューロ・B〉からリリースされた9作目は、マガジンからパンクを差し引いてアンニュイだけを切々と垂れ流す。だらだらと、あるいは、もっさりとしたビートが地面を這い回り、浮ついた気持ちにはけして導いてくれない。それこそラスティのように世界の果てまで一気に飛んでいってしまいそうな勢いはかけらもない。ここにあるのは1996年の空気そのもので、モータベースやフィッシュマンズ、もしくはDJシャドウやエールが運んできた空気をいまだにデリヴァリーし続けているのがリポック&ジェストラムだといえる。そして、この年の空気になぜか僕は逆らえないようで、何ひとつ代わり映えしないんだけどな......と、思いながら、この1ヶ月、毎日2回は聴いてしまうというパラノアイ状態にある。これほどまでにやる気の出ない毎日にあっさりとフィットし、人に会いたくない気分をサポートしてくれる音楽もない。1996年というのは、そういえば、あのときに孤独であることがどれだけ輝きを持っていたか。あの感じ。懐かしい。

 前々作でヴァージン・プルーンズ『スウィートホーム・アンダー・ホワイト・クラウズ』をカヴァーし、少なからずの驚きを与えてくれたターウォーターは、ここではさらに、DAF"サト・サト"をピック・アップし、DAFの曲にこのようなアンニュイを持ち込めるのかという驚きをまたしてももたらしてくれた。KMDFMのような同好の解釈からは生まれないカヴァー曲の醍醐味というやつである。グトルン・グートとAGFのグライエ・グート・フラクションによるパレ・シャンブール"ヴィア・バウエン・アイネ・ノイエ・シュタット"のカヴァーもユニークだったけれど、この"サト・サト"はあまりにも素晴らしく、マッチョ性というものをすべて剥ぎ取ってもDAFの響きが完全には失われないだけでなく、部分的にはバルカン・ミュージックのようなアレンヂも可能だということを証明している。DAFをワールド・ミュージックと結びつけたときに、どことなく、かつてのインダストリアル・ミュージックがフォークロア的なものを持ち出す傾向にあったこともダブって見えてくるところがあり、抵抗のレヴェルが意外と深いというか、DAFのなかにあった民族的なものがかえって剥き出しになってくるような錯覚まで引き起こす。いっそ、DAFだけで1枚カヴァー・アルバムをつくって欲しいと思うぐらいである。ほかにはジョン・レノン&ヨーコの未発表曲だった「ドゥー・ザ・オズ」のカヴァーも。

三田 格

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