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「旅したいけど行けない」あなたへ。移動の“見えない不平等”を研究者に聞いてみた
私たちの生活に当たり前のようにある「移動」。旅行や通勤、引越しなど、誰もがやろうと思えばできると思いがちですが、実はそこには大きな格差が潜んでいるそうです。移動の不自由とはいったい? その答えを探るべく、『移動と階級』の著者・伊藤将人さんに話を聞きました。
編集:Huuuu


私たちにとって身近な「移動」。旅や転職、移住……いろいろな形があるけれど、どれも“やろうと思えばできる”当たり前のことだと思いがちです。

でも、ふと周りを見渡すと、

「新幹線代が高くて旅行へ行けない」
「家族の介護があって引越しできない」

そんな“移動したくてもできない”ケースが思った以上に多いことに気づきます。

私自身も、目の持病の関係でサングラスと杖を使っているのですが、街を歩くと歩道にはみ出した看板につまずいたり、急な光で立ち止まってしまったり……。自分では気づいていなかった“移動のハードル”に、日常の中で何度もぶつかってきました。

移動って、本当に自由で平等なものなのだろうか?

そんな疑問を抱いたときに出会ったのが、伊藤将人さんの『移動と階級』という本でした。

『移動と階級』は、移動の裏にある「見えにくい不平等」や、「家族・ジェンダー・経済の影響」を丁寧にひもとく本です。旅や転職を“やろうと思えばできる”と考えていた私は、「移動の裏側にはこんなにもたくさんのハードルがあるのか!」と目から鱗が落ちました。

もっと移動に関してみんなが自由になるには、どうすればいいんだろう。

そのヒントを探すべく、ジモコロ編集長の友光だんごさんと一緒に、著者の伊藤さんへインタビューすることに。伊藤さんと、「移動の実態」や「これからのあり方」について考えてみました。

話を聞いた人:伊藤将人(いとう・まさと)

1996年、長野県生まれ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員・講師。地方移住や関係人口、観光インバウンドなど、人が「地域を超えて移動する」ときに起きる現象を研究している社会学者。長野県や新潟県を中心に、持続可能なまちづくりの実践にも関わる。著書に『移動と階級』『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』ほか。

 

若者の旅離れは単なる「価値観の変化」じゃなかった!

だんご 伊藤さんの『移動と階級』面白かったです! 自分も子どもが生まれて以前のようには出張へ行けなくなったので、誰しも自由に移動できるわけではない、という話はすごくピンときて。

伊藤 移動って、誰にでも関係する話なんですよね。「格差」と聞くと大げさに感じるかもしれませんが、実は、「不自由無く移動できること」自体がすでに特権なんです。お金や時間、家庭環境、健康……。そのどれかが少し欠けるだけで、人は簡単に、自由に移動できなくなってしまう。

杉浦 わかります。僕も目の持病でサングラスと杖を使っているんですが、明るさがつらくて映画館に行けなかったり、夜は外出を控えたり。自分の身体の状態によって、行ける場所や活動がけっこう限られてしまうんですよね。

伊藤 まさにそれが「移動の格差」なんです。たとえば“若者の旅離れ”という言葉がありますが、あれは若者の価値観が変わったというより、「旅に行けない」若者が増えている、という側面がデータでも示されています。

杉浦 旅に行きたくても行けない。

伊藤 経済状況や物価の高騰、休みの取りにくさ、さらには家庭の事情など……いろいろな理由が重なって、“行きたいと思っても動けない層”が確実に増えているんです。

だんご コロナを経て飛行機代もホテル代も高くなってますし、ひと昔前のバックパッカー全盛期とはいろんな面で状況が違いそうです。

伊藤 若者のバックパッカー的な旅が減っているという調査結果もありますね。

ただ、その背景にはいろいろあって、一つは「就活の早期化」です。大学生の段階で「キャリアを考えて行動しないといけない」というプレッシャーが強くなっている。長期で旅に出る余裕がないんです。

杉浦 今は3年生くらいから本格的にインターンが始まりますよね。大学1〜2年の間に海外へ行こうと思っても、物価高でさらなるハードルが……。

伊藤 物価高も大きな要因です。「行きたい意思はあるのに、移動手段を選べない」という声は若い世代ほど強いです。

それに、今の若者は“意味のある・目的のある移動をしたい”という傾向も強いと感じています。どうせ海外へ行くなら語学留学したい、といった感じで、自分の将来に紐づくものを選びやすい。そうなると、バックパッカーは選択されなくなっていきますよね。

だんご バックパッカーの旅、“あてのない旅にこそ価値がある”みたいなところがありましたよね。そういう、すぐに価値を生むわけではない、短期的にみて“意味のない”時間の使い方が、少し時代に合わなくなってきた感じでしょうか。

伊藤 そうかもしれません。あとはSNSの影響もすごく大きいですね。SNSでは「旅の一番いい瞬間」ばかりが流れてきますよね。日常とのギャップが大きく見える分、羨望や疎外感が生まれやすい。これもある意味、移動の格差なんです。

だんご 移動そのものより、“移動できているように見える人”が目立ってしまう。

伊藤 まさにそうです。「できていない自分」を感じやすくなるんですね。

だんご 「最近の若者は〜」的に語られがちな話でも、移動という切り口で見ると、実際にはこんなにいろいろな要因があるんですね。

伊藤 そこがまさに、『移動と階級』で書きたかったことでもあります。近い話でいうと、「小さい頃にどんな移動経験をしたか」が、その人にとって、その後の移動のハードルを大きく左右するんです。知らない土地に行くことが“怖い”と感じるか、“当たり前”だと感じるかは、幼少期の環境が強く影響します。

そのことがよくわかるデータがあって、「初めて海外に行ったのは何歳か」という調査を見ると、世代ごとに違いがはっきり出ているんです。上の世代では“40代以降に初めて海外に行った”という人が多いのですが、今の20代だけは大きく違っていて、“0〜5歳で初めて海外に行った”人が20%前後もいるんですよ。


グラフ提供:伊藤さん

杉浦 つまり、すごく早い時期から海外経験をしている層が一定数いるということですよね。

伊藤 そうなんです。一方で、“海外に一度も行ったことがない”層が20代に同じくらいの割合で存在します。同じ世代の中でも移動経験が二極化しているんですよね。

だんご なるほど……。「日本から中流家庭がいなくなり、経済的に二極化してる」みたいな話を聞きますが、旅でも二極化が。

伊藤 背景には家庭の経済力や、「小さい頃から海外に触れさせる教育方針があるか」など、家庭環境の差がそのまま移動経験の差に直結していると言えます。そして、一度でも移動を経験しているとハードルが下がるので、その後の行動にも大きく影響します。

杉浦 若者関連でいうと、今の若者は転勤したがらないという話も聞きます。

伊藤 終身雇用が前提ではなくなった現代では、「会社に移動させられること」が必ずしもプラスじゃないですし、むしろリスクと考える人も増えています。だからこそ、今の若者は、自分にとって重要なのは“自分で移動を選べるかどうか”だと考えていると思います。

杉浦 「主体的な選択」がすごく大事になっている。移動の話から、今の若者像がどんどん見えてきますね……。

 

地元での経験から見えた「地方と都市の違い」

杉浦 伊藤さんの本を読んでいて、「地方ではそもそも移動できない環境がある」という話がすごく印象的でした。ご自身の地元が、そのことを感じる土地だったとか。

伊藤 僕は長野県の池田町という、鉄道も国道も通らない地域で育ったんです。すごく自然が豊かな場所なんですけど、移動に関しては“できないことの方が多い”環境でした。

それに、家庭内で家族の介護が続いた時期もあって、自分が“移動できない側”になる経験もしました。本人の意思とは関係なく、家庭の状況によって移動が制限される。これもすごく大きかったです。

だんご 交通の便が悪くて、そもそも都会に出るハードルがとても高いのは地方における「移動あるある」ですよね。しかも、家庭内のケアなどに縛られると、いよいよ家から出られなくなってしまうという。

伊藤 地元の長野は日本の中でもわりと早い段階から移住者が増えていた土地なのですが、そこで移住者と地元側の摩擦を見る機会もありましたね。“来た側の期待”と“迎える側の現実”がずれてしまい、トラブルやモヤモヤにつながってしまう。

だんご 移住あるあるだ……。たしかにそれも、移動が生む価値観の衝突なのか。

伊藤 「移住は移動して終わりではなく、その後の関係性がすごく重要なんだ」と、そこで身をもって学びましたね。

杉浦 移住者ってどうしても目立ってしまいますよね。僕自身、目の持病の関係でサングラスと杖を使っているんですが、地方を歩くと「ん?」と視線を向けられることが多々あります。そうした「他者からの視線」も、移動の心理的なハードルになることってあるんでしょうか?

伊藤 仰るとおりで、移動に対する心理的なハードルは非常に重要なポイントです。地方においては人口が少なく、人の流れも少ない。“誰がどの車で来たか”まで地域で共有されてしまうこともあって、外から来た人が目立ちやすい。そうした点が、移動のしづらさになり得ますよね。

また、移動への心理的ハードルは本人だけの問題ではありません。子育てや介護などのケアを担う側や、障害者を支える側にも“見えない困難”があります。これは移動の議論ではもっと扱うべきテーマだと思います。

杉浦 本人の体調によっては自由に外出できなかったり、家族が付き添う必要があったりしますもんね。そこまでは意識できていませんでした。

逆に都市部は人が多い分ジロジロ見られないけど、“暗黙のルール”があって、弱い立場の人が遠慮を求められることも多いと感じます。例えば、友人はベビーカーでエレベーターに乗るとき、何度も謝りながら入れてもらうと言っていました。

伊藤 都市部では“見ないふりをすることで衝突を避ける”文化が強いんですよね。社会学では「儀礼的無関心」と呼ばれています。状況に応じて、他者を見ていないふりをすることで上手くやり過ごす。ただその一方で、困っている人がいても「誰かが助けるだろう」と思われやすいので、実際には手を差し伸べられないことが多いのかなと。

地方はその逆で、社会インフラや制度が都会に比べて整っていない分、住民が助け合う文化がまだ残っていますよね。

都会と地方、どちらが住みやすいかは人によりますが、地方のように“自分たちで環境を作る実感”を好む人も一定数います。「地元には何もないから、東京に移動しなきゃ」という価値観も、今でもあるものの、昔ほどは力をもっていないと感じますね。地方には地方ならではの面白さがあると思います。

 

移動の本質は距離ではなく“選べるかどうか”

だんご ここまで「移動の不自由さ」についていろいろお聞きしてきましたが、本当はみんなが自由に移動できるのが一番じゃないですか。なぜなら、やっぱり移動によって生まれる価値や可能性があると思うんです。

僕もジモコロで全国を取材してきたなかで、旅や移住などの移動によって新しい価値観に出会い、人生が変わった人を何人も見てきました。それってまさに、「移動が生む価値」だと思うんです。

伊藤 わかります。僕自身も、地元は移動の不自由が多かったものの、外から来た移住者との出会いによって、自分の価値観を大きく広げてもらった経験があるので。

僕はもともと、地元の暮らしに比較的満足していて、「外に出たい」と強く思っていたタイプではなかったんです。でも、知り合った移住者の方からいろいろな話を聞くうちに、「外の世界を見てみたい」という気持ちが自然と芽生えてきたんですよね。

だんご そうやって外の世界を知ることで、移動への欲求が芽生える。ジモコロも、記事を通じてそういう新たな世界と出会って欲しいと思ってやっているところがありますね。

伊藤 僕の場合、大学時代にたまたま文部科学省の留学支援制度を知って、周りの人を頼りながらイギリスへ行ったことがあるんですが、あれも自分の力だけでは絶対に実現できなかった移動です。制度や人とのつながりが背中を押してくれました。

こうした経験があるからこそ、移動の不平等を語るときも、“移動にはこんなポジティブな面もある” という両面性の視点を忘れたくないと思っています。

だんご それを踏まえた上で、ローカルにおいて、今後の「移動」ってどうなっていくんでしょう?

伊藤 人口減少によって地方の交通や生活インフラの維持が難しくなり、集落の維持が議論されたり、能登の震災の際にも「一箇所に集約するのはどうか」というような議論がありましたよね。ローカルと移動は、切っても切り離せないテーマだと思います。

ただ、かつては住む場所を集団で移転する際に、もちろん事例によって差はありますが、住民の方たちに多額の補償金を払い、一斉移転してもらうようなこともありましたよね。ただ、今は自治体にも企業にも、そんなふうにお金で解決するような余力がありません。

だからこそ、これからはより密なコミュニケーションと理解の構築が必要になってくると思います。よくよく話を聞いていくと、もちろん「その土地に住み続けたい」という人もたくさんいますが、「次世代のために」と自分の代でお店や集落を畳もうと考えている方もいらっしゃいます。そうしたさまざまな声へ丁寧に向き合う姿勢が必要ですし、なにより“当事者性”を持って議論されるべきだと考えます。

杉浦 移動について考えると、最終的に「じゃあ自分はどうすればいいんだろう?」という問いに行き着きがちですが、個人レベルでできることってあるんでしょうか。

伊藤 移動に関して大事なのは、「自分で選べるかどうか」。社会構造の改善はもちろん必要ですが、個人レベルでもできることがあります。

例えば僕の場合、祖母の介護を母に任せきりにしていた時期があって、「あの時少しでも自分が負担を分担できていたら、母が“移動できる時間”がもっとあったかもしれない」と後になって気づきました。

そんな風に、まずは各々ができる小さな気遣いや手助けからやってみる。家族や地域単位で“小さな改善”を積み重ねることは、意外と大きな意味があると思います。

だんご 「移動の不自由」を意識すると、日常の視野が広がる感じはすごくあります。それこそ駅で困っている杖の人やベビーカーの人が目に入るようになるとか。そういう時に率先してお手伝いするようなことからはじめればいいってことですね。

僕自身、実はジモコロ編集長って「めちゃくちゃ移動できる特権階級」みたいなものでは?という気づきを伊藤さんの本で得ました。「移動の不自由」はこれから意識して向き合っていかなきゃ、とも思いましたね。

伊藤 そうですね。実は「移動」という観点から社会を横断的に見る研究って、これまで多くはなかったんですよ。でも、移動を通じて社会を眺めると、経済、ジェンダー、家庭環境、地域社会……バラバラに見えていた問題が全部一本の線でつながって見えてくる。それが面白いんですよね。

ちなみに最近は、「地方移住」のテーマに興味があって。日本では実はかなり前から政府が都市から地方への移住を促してきたんです。ところが、長い間思ったような成果には繋がらなかった歴史があるんですよね。

でも今は、人口構造や働き方、家族のあり方が変わってきて、地方移住の意味そのものが少しずつ変化している。その理由を読み解くには、地方移住だけを個別に見るのではなく、やっぱり移動という大きな流れの中で考えるのが有効だと思っています。

杉浦 すごく面白そうですね。また色々お話を伺ってみたいです。今日はありがとうございました!

 

おわりに

ジモコロはこれまで「旅の楽しさ」や「移動の価値」について発信してきました。しかし、その背景には必ず「移動できる人/できない人」の差があります。

伊藤さんの話は、移動がどれだけ人の生活を左右し、どれだけ多くの条件に影響されているのかを改めて気付かされるものでした。

移動を巡る現実を知ることは、社会構造そのものを知ることでもある。これからも、旅の楽しさはもちろん、その裏に隠れている「移動の複雑さ」やそこに潜む「格差」にも目を向けていきたいと思います。

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この記事を書いたライター

ライター。趣味は街歩き、特技は引っ越し、得意なスポーツは散歩です。サングラスと杖を持って歩く「杖さんぽ」というスタイルで街を練り歩いています。好きな散歩コースは東京駅。

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