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なぜマルヒロは 「0円の公園」に2億を投じたのか。下支えは掃除・草刈り・どぶ板営業
長崎県波佐見町の陶磁器メーカー・マルヒロが2億円を投じてつくった「0円の公園」HIROPPA。商売の枠を越え、地元の誰もが自由に過ごせる場所を目指した背景には、3代目・馬場匡平さんによる真っすぐな信念がありました。
編集:Huuuu


芝生を駆け回る子どもたち。ベンチでコーヒーを手に語らう大人たち。中央には巨大なオブジェ。ここは「HIROPPA(ヒロッパ)」という名の私設の公園。つくったのはなんと、長崎県・波佐見町にある陶磁器メーカー「マルヒロ」なんです!

こんにちは。ジモコロ読者の皆さん、はじめまして。長崎県佐世保市在住のライター山本千尋です。

HIROPPAのことを初めて知ったのは4年前。「なぜ公園を?」と本気で驚きました。だってマルヒロといえば「波佐見焼」を全国に広めた立役者的存在で、デザイン性の高さで知られるメーカーですから。

最初は正直、「はーん、商売が軌道に乗って、次は“まちづくり”へ舵を切ったのね」と思っていたんです。ところが、子どもたちを連れて実際に行ってみると「こりゃあ普通の公園じゃないぞ!」と度肝を抜かれました。

まず目に入るのは入口脇の直営ストアとコーヒースタンド。先へ進んでも遊具は見当たらず、あるのは盛り土の丘や緩やかなスロープ、ぐるりと回れる小径。入場は無料で、買い物も“気が向いたらどうぞ”というスタンス。その押しつけのなさが心地よく、帰り道には「また来よう」と思っていたのを覚えています。

撮影:Kenta Hasegawa

そして後日、耳にしたのが「建設工費は2億円」という噂。もしそれが本当なら、どうやって成り立っているんだろう? なぜそんなことをしたのだろう? とじわじわと疑問が膨らんでいきました。

このことをジモコロ編集部の日向さんに話したところ「ぜひ取材しよう!」とのことで、マルヒロ社長・馬場匡平さんを訪ねることに。

……が、取材日はよりによってゴールデンウィーク。地域の窯元やメーカーが総出で参加する「波佐見陶器まつり2025」の真っ只中で、街には大勢の人が溢れていました。

取材、本当にこの日で大丈夫なんですか?

キッズ遊具コーナーの店番をしながらでよければ、ですって。

え、社長が店番ってどゆこと……?

子どもたちの賑やかな声に包まれながらのインタビュー。2億円の真偽とその理由。上から見て“かっけぇ”設計に込めた意図。地域で積み上げたどぶ板の話まで。「公園」の概念が変わる、貴重な裏話がいろいろと飛び出しました。 ​​

話を聞いた人:馬場 匡平(ばば・きょうへい)

福岡の流通専門学校を卒業後、実家の取引先である大阪のインテリアショップでの丁稚奉公を経て、福岡でフリーターとして洋服屋・パン屋・エレベーターの設置などさまざまな仕事を経験。2008年に24歳で父親からの申し入れで倒産寸前の家業に戻る。会社再建に向けて中川政七商店のコンサルティングを受け、経営や企画のノウハウについて学び、2010年に新ブランド「HASAMI」を立ち上げる。

 

始まりは苦し紛れのアイディアだった

いらっしゃいませ~。キッズ遊具、3台空いてます。トラクターでいいですか? 薪投げもありますよ。300円になります。楽しんでくださいね!

馬場さんこんにちは。ライターの山本です!

あー、どうも。こんにちは。遠路はるばるご苦労さまです。

この度は、お忙しいところありがとう……あー! 風で釣り銭が飛んでってますーー!

あーーっ! あぶねあぶね! 釣り銭が合わないと店番同士で疑うことになっちゃうからね、せっかくのチームプレーが台無し。ドキッとしましたね~。……はい、整いました。

ホッ。それにしても今日は本当に大勢の人がいますね!

年に一度の陶器市ですからねー。最近は普通の週末でも、町外から来る人も多いですし、子ども連れの家族もいっぱい来てくれますよ。

この賑やかさ、HIROPPAができた当時を思い出します。早速本題なんですが、若くして波佐見へUターンし、マルヒロの経営を立て直した馬場さんが、その次に「公園をつくる」と聞いたときは正直すごく意外だったんです。その発想は一体どこから出てきたんですか?

あー、それを話すにはちょっと遡るんですけどね。もともと僕らは、2009年から2011年にかけての2年間、中川政七商店さんのコンサル(*1)を受けていまして。最後に「10年後の目標」みたいな課題があって、そこで「波佐見パークをつくる」っていうアイディアを出したんです。振り返ればそれがHIROPPAの原型みたいなもんですね。

波佐見パーク。そのときには今のHIROPPAのようなイメージが固まってたんですか?

いやー、全然。苦し紛れでとっさに出したものだったんで、具体的なものはほぼなかったんですよね。ただ、波佐見って、TSUTAYAに行くにも、マックに行くにも、一山越えないといけないくらい不便で。「地元で遊べる場所がほしい」とはずっと思ってました。

それがどういう経緯で、公園のイメージになっていったんでしょうか。

2016年に中川政七商店さんの創業300周年を記念したイベントがあって、長崎会場を僕たちが仕切らせてもらったんです。波佐見町内のみんなで出店とかライブをして盛り上がったんですが、一方で「自分たちの場所があったら、もっと色々できたのになあ」っていう悔いも残って。

イベントを経験して、拠点の必要性を強く感じられたと。

それからその年に結婚して子どもができて、ライフスタイルも大きく変わって、そうしたら今度は、「芝生でバリアフリーの公園ってめちゃめちゃ使うやん!」ってなったんです。

子どもができると、公園の存在って一気に身近になりますよね。

そうなんですよね。自分の子どもはもちろん、誰もがのびのび過ごせる公園が欲しいって強く思うようになって。それで思い切って、2016年の冬頃に町にあった元・焼き物窯元の跡地を買ったんです。

おお……! 一気に具体的な行動に出ましたね。

約1200坪の土地を更地にしたとき思いましたよね。「もう後戻りできないぞ」って(笑)。でもそれくらい腹をくくったことで、一気に公園の計画が進み始めたんです。

 

商売の限界。未来を「公園」に賭す

会社の規模も大きくなって、普通ならさらに設備投資に回すところだと思うんですけど……。大きなリスクを取ってまで決断できたのは、どうしてだったんですか?

商売って難しいんですよね。限界ってどこっちゃろうねって。僕自身の気質もあると思うんですけど、「商売」そのものの考え方にも変化があったんです。焼きもんをそんまま売り続けるだけじゃ大変よね、みたいな。

どういうことですか?

結局、僕らは腐らないものを売り続けるわけじゃないですか。昔のやつがずっと残ってるから変わり映えがしなくて、それってどうなんだろうって。だから店の規模をでかくするとか、売上を伸ばすだけってのは、ちょっとモチベーションが続かないなって思って。

なるほど。だからこそ「公園」という次のステージに踏み出したわけですね。……そのときに、どうしても気になるのが“お金”のことなんですが、公園をつくる費用が2億円というのは本当なんですか?

うそつけって言われるんですけどね。全額、自己資金と借り入れで。

全額!「公園」って公共のものですし、補助金を使う道もあったんじゃ?

うーん、でも、それ(補助金)を使うと誰のもんか分からなくなるじゃないですか。税金だから、1円でも入れば誰でも口を出せてしまう。「儲かりよるっちゃろ?」って言われても、「いやいや、全部借金しとるけん」と胸を張って言えれば、変なやっかみを言われることもないし、自分の理想をとことん追求できる。

そこまでして追いかけたかった「理想」って、どんなものだったんでしょう?

設計にあたって、僕から建築家に伝えたリクエストは全部で4つ。まず1つ目は、赤ちゃんからじいちゃんばあちゃん、体が不自由な人やオストメイトつけてる人など、老若男女誰でも来れるような場所にしたくて、バリアフリーはマストにしました。来てもらう人のハードルをできるだけ下げることにマルヒロがやる意味があるので。

マルヒロがやる意味とは?

焼き物屋って、子どもが怒られる店なんですよ。走ったらダメ、触ったらダメ、そのくせ窯元さんは「もっと焼き物に興味を持ってほしい」って嘆くんです。けど、そんな環境じゃ難しいですよね。

HIROPPAなら「広場で遊んでおいで」もできるし、店内も通路が広いから気軽に連れてこれるし。確実に焼き物へのハードルは下がりますね。

2つ目は、これまで一緒にやってきたアーティストやデザイナーさんとコラボできるようにデザインをしましょうと。そして3つ目は、空から撮ってかっけぇ公園。中央のオブジェは、ドローン飛ばして真上から見ると「HIROPPA」の文字になるんですよ。

そう! それ、4年前に来たときに知って「なんてオシャレなんだ」って思いました。けど、なぜ“上から”なんですか?

設計のとき、まずはやっぱり子どもの安全面を考えるじゃないですか。でも同時に「そもそも公園ってなんだろう」って調べたら、江戸時代の武家屋敷の庭園に行き着いて。池や庭石があって、多少の怪我もつきもの。つまり、公園は昔から“楽しさと危険が隣り合わせ”の場だったんですよね。

公園のロゴに英語で「楽しい場所だが危険がある」って書いてあったのは、そういうことだったんですね

せっかくこれだけお金を掛けるなら歴史に挑みたいじゃないですか。普通の公園を作っただけじゃ100%勝てないから、せめてもの抗いとして、上空から見ても“かっけぇ公園”にしたいと考えたんです。

やっぱり400有余年の歴史を持つ「波佐見焼」で商売をしていると、考え方のスケールが違いますね。では、最後の4つ目を教えてください。

敷地の向かいに地域で大切にされているお堂があるので、その参道には建物を建てないでとお願いしました。そこは今も、僕とスタッフで毎週一回掃除してるんです。暑い日も寒い日も。

え! 社長がそこまでやっちゃうんですか?

道路の草刈りも僕がやってますよ。もちろんみんなに手伝ってもらって。スタッフには販売や企画に専念してほしいし、真夏に倒れでもしたら大変なんで頼まない。ちなみに、HIROPPAの芝生の水やりとかは僕の父である会長がやっています。

家族総出! いやでも、社長こそ倒れたらやばくないですか?

いやぁ、そうなんですかね。でも草刈りとかやってたら近所の人と喋れるじゃないですか。で、「ありがとう」と言ってもらえる。こっちはイベントでデカい音出したり、人をいっぱい呼んだりしていて、知らない人からしたら大迷惑ですからね。いざってときに応援していただくためにも、やっぱり大切なのは日頃のどぶ板営業っすね。

それを4年間積み上げてきた結果が今の形なんですね。実際、周りの方の反応ってどうですか?

どうなんでしょうね? もちろん喜んでる人はたくさんいると思うんですけど、本当に全員が全員がそうなのかって言われたら自信はないですね。みんなが公園を必要としているわけではないだろうし。だからこそ、泥臭い仕事を汗かきまくってやるしかないかなと。

私から見るとただの謙遜のように見えるんですけど、意外とそういうものなんですね

うーん。やっぱり欲深いっすもんね、人間はね。これがいいあれがいいっていうのも分かるんですけど。

馬場さんも欲深いなって思うときありますか?

ありますよね。寝てて、起きてアイス食べたい気持ちになって1本食べて。そこで済ませなきゃなのに、ついつい2本食べちゃった日にはもうね、欲深いな~って(笑)

 

波佐見焼に習う、カリスマ不要のチームプレー

あ、次の店番が来たので引き継ぎしますね。ちょっと向こうの芝生らへんで待っててください。(スタッフに)ごめん、お客さんの正の字、一本書き忘れたかも……。はい、お待たせしました。

どこまでも自然体な人だなぁ。そうだ、自然といえば、園内に植えられている「木」。オープンした頃と比べると立派に成長しましたよね。

3年目でやっと木陰ができるまでになりました。

馬場さんって、マルヒロを立て直して、波佐見焼ブームに火をつけ、こんな素敵な公園まで作って。傍から見ても超カリスマ的な存在のように見えるのに、ずっと謙虚なのが不思議というか。「我、成したぞ!」という感覚にはならないんですか?

え? いやいや、それは無理っすよね。うちはチームプレーですから。波佐見焼ってマグカップ一つでも、6社で分業して作っているんです。そこには20代から60代オーバーまで、幅広い年齢層が関わっているから。

それが波佐見町では当たり前なんだ。

Uターンしてきた当初は、自分の方向性を信じてコラボ商品とかをリリースしてましたけど、チームを組んでからは、自分ができないことをどんどん周りにお願いしてきました。いまは企画や新商品の開発なんかも僕以外のメンバーが動かしてます。

「波佐見焼」って伝統工芸品なわけじゃないですか。「これぞ」なうつわのイメージを守るのも大事な気もするのですが、そのあたりってどのように考えてますか?

そうですね。でも、「これぞ」がないのも、日用食器としての長い歴史を持つ波佐見焼の特徴だと思ってて。だから、今はみんなでやっているし、それこそ「マルヒロ=僕」っていうイメージも、この3年ぐらいでなくそうとしてるんですよ。

なるほど。そうやってイメージが広がっていくと、商売の方でも新しい展開が出てきそうですね。

なったらいいですけどね。でもここ数年で、波佐見焼ブームも落ち着いてきて、正直この先は読めないっすね。もちろん物を売ることも大事なんですけど、ガツガツやりすぎず、程よく続けていけたらいいかなって思ってます。

謙虚な姿勢……! では、馬場さんの次なる目標は?

目標は言っちゃうと後が大変だから、できるだけ言わないようにしてるんですけど(笑)。でも、たぶん、というかやっぱり、この公園を無料で使い続けられるようにするってことですね。これは波佐見に限らないと思うんですけど、真の意味で誰にでも開かれた場所って、実はすごく少なくて。

たしかにそうですね。さっきランチしながら芝生の上でボーッとしてて思ったんですけど、大の大人が一人で何もせずにいるのって、普通周りの目が気になってしまうじゃないですか。けれど、ここなら「お好きにどうぞ」と言われてる安心感があったというか。

それは良かったです。僕や会社のみんなも家族連れで遊びに来るので、普段は見れない一面が見れたり、「子ども大きくなったねぇ」とか言って。HIROPPAがなかったら見れなかった景色だと思うと、つくった甲斐がありますよね。

これだけ人が来るようになったら、次は宿をつくっちゃおうとかはないですか?

ああ、波佐見町って宿少ないですもんね。いや~、でも、夜まで人の世話するの、僕は面倒くさいです。儲かるとしてもやんなくていいですね。休みたいですもん。便利になりすぎちゃうのも考え物だと思いますよ。田舎の良さって「なんか足りねえな」みたいなのもあると思ってて。結局、その“ない”があるから、人はまた来たくなるんじゃないですかね。

執筆 山本千尋
撮影 大塚淑子

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この記事を書いたライター

日本最西端の長崎県佐世保市でライターをしている主婦。芝居もやる。やさしいクライアントからのお仕事で得たお金で、半径狭めの気になりごとを取材執筆、記事が溜まったら本にしている。『佐世保の自由研究』を自費出版。

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