サイバーエージェントのAI技術が集結する祭典
「AI Fes.」開催レポート
技術・クリエイティブ

サイバーエージェントでは、メディア&IP事業や広告事業、ゲーム事業など、さまざまな事業分野で、AIを活用したプロダクト開発や、品質・生産性向上を目的としたツール開発およびプロジェクトが推進されています。
それら取り組みを一堂に集めた社内向けイベント 「AI Fes.」 を、2025年2月に開催しました。本イベントでは、デジタルマーケティング全般に関わる、幅広いAI技術の研究開発を担う「AI Lab」をはじめとする各部署から65のポスターと26のブースが出展され、最新の研究成果や実践的な取り組みが発表されました。
当日はエンジニア、リサーチャー、デザイナー、ビジネス職など多様な職種のメンバーが1,000名以上参加し、グループ全体のネットワーク強化とシナジー創出に向けた活発な交流が行われました。
本記事では、イベントの主催者である嶋田(ゲーム事業部 SGE AI戦略本部)のコメントを交えながら、当日の様子や発表内容の一部をレポートにすることで、サイバーエージェントのAI開発の最前線をご紹介します。
Profile
嶋田 豪介 (ゲーム事業部 SGE AI戦略本部)
AIストラテジスト兼テクニカルアーティスト
2011年度サイバーエージェント入社。クリエイティブディレクターとして、複数のゲーム開発や企画立案に携わる。
2023年にゲーム事業部 AI戦略本部を立ち上げ後、ゲーム開発の各種領域におけるAI導入を主導。社外の各種AIコミュニティへの支援活動もしている。
AIに携わる全ての社員を繋げるための「AI Fes.」
── 「AI Fes.」 の提案者であり、主催者でもある嶋田さん。開催に至った経緯を教えてください。
嶋田:私はゲーム事業におけるAI導入推進のためAI戦略本部を立ち上げ、現在はその戦略立案を務めています。AIを活用した、プロダクト開発の生産性向上を推進していく中で特に実感するのは、AIの発展は非常に速くキャッチアップが遅れると、事業のスピード感を損なうリスクがあるという点です。
その一方、キャッチアップを優先するために、同じような研究や検証が各部署で個別に進められてしまいがちです。サイバーエージェントは幅広い事業ドメインがあるがゆえに、異なる部署で「車輪の再発明」が発生している可能性もあります。
こういった背景の中、年に1度開催している技術者による技術者のための あした会議 「CA BASE SUMMIT」で「全社の生成AIに関するとりくみやプロダクト導入事例を、1つのイベントに集約することで、シナジーや連携やコラボレーションにする場を形成する」という提案をしました。

── ナレッジやリソースの共有を目指すうえで、ポスターセッションを採用した理由についても教えて下さい。
嶋田:サイバーエージェントでは、AI事業本部をはじめとした各事業部で学会発表や論文投稿のカルチャーが根付いていて、数多くの実績があります。私自身もAI関連の学会に参加する機会が多く、会場の発表を見ているとポスターセッションの場での活発な議論や、その場で新たなコラボレーションが生まれる機会をよく目にします。また、2024年夏にはAI Labの研究員が社内向けにポスターセッションをする「AI Lab Showcase」という社内イベントがあり、事業部を超えたたくさんの来場者が集まったのが印象的でした。
「CyberAgent Developer Conference」のようなカンファレンス形式も魅力的ではありますが、生成AIの目覚ましい発展を考え、参加者同士が活発に意見交換できるポスターセッションの形を採用しました。それに加え「フェス」というライブやお祭り感という要素を加え、カジュアルに参加することで、エンジニアやクリエイターの交流や意見交換を促し、イベント後のつながりを生む事を目指しました。

「 CA BASE SUMMIT」で経営陣に提案した時は、「良い解決策の一つであり、発表の日に向けて仕上げていく文化が生まれることで、互いに刺激を与え合える場になるのではないか」との声が上がりました。また「規模を大きくしすぎず、まずはライトに気軽に取り組める形で進めるのが望ましい」「発表の場を求めている人は多く、リリースにも適した企画になるのではないか」という意見も経営陣から得られました。
その後、具体的に議論を進める中で、社内のAIに携わる人たちの横のつながりやコミュニティの強化を目的にする方向性にしていきました。
1,000人を超える社員が来場した「AI Fes.」当日の熱気
── すごい盛り上がりですね。社員が活発に議論する様子は狙い通りでしたね。
嶋田:エンジニアやリサーチャー、デザイナー、ビジネス職など、さまざまなチームが出展してくれました。プロダクト化されているものもあれば、ノウハウの共有を目的としたものもあり、まさにサイバーエージェントの事業ドメインの広さをあらわすような発表が集まりました。今回は、カジュアルに出展できる雰囲気づくりを意識していたので、大成功だったと思います。1,000名近くが来場してくれていて、どのブースやポスターでも議論が活発で、開催終了間際になっても人が絶えないくらいの活況でしたね。

出展ブース/ポスター紹介
── ここで、今回発表したポスターやブースの一部を、発表者の声とともに紹介したいと思います。
■ 顧客の事情を察知して、適切な手続きにエスコートする顧客対話AIの開発

AI事業本部 AI Lab Agent Development:私たちのチームでは、顧客対話AIサービスの基盤や画像認識技術などを展示しました。デモを通じて反響や意見をいただき、早く社会実装ができるように努力したいと今一度強く感じました!
■ Cycloud ML Platform ではじめる、生成 AI と推論のススメ

グループIT推進本部 CIU:Cycloud ML Platformは、学習から推論までを一気通貫で行える機械学習基盤で、全社員が利用可能です。本発表では、その概要やスペック、ユースケース、コスト感を紹介し、さらに数クリックで生成AIツールを簡単に活用できる「生成AIツールデプロイサービス」についても説明しました。発表を通じて、職種を問わず社内全体のAIへの関心の高まりを実感し、どの部署でもAIを導入しながら改善や生産性向上を試行錯誤していることが分かりました。また、これまでSlack上でしか交流のなかったユーザーと直接会話できたことで、普段は得られない貴重な意見を聞くことができました。現地では多くの利用見込みユーザーともコミュニケーションを取り、今後のユースケースにつながる関係を築く良い機会になったと感じています。
■ ゲーム事業部 SGE AI戦略本部

ゲーム事業部 SGE AI戦略本部:SGE AI戦略本部ではゲーム開発や運用を支援する様々な取り組みをしており、そのうちの一部を展示しました。年々開発コストが増加し、機能も複雑化していく中、より良い体験が提供できるようにAIを応用していくための中長期戦略を提示しました。
■【AI x 経済学】多様性時代におけるプライシング

AI事業本部 AI経済学カンパニー:AI経済学カンパニーで取り組んでいる、小売やECにおけるダイナミックプライシングの事例について発表しました。実際にソリューションが使えそうな、メディア事業部の方々と話が盛り上がりました。また、執行役員 副社長の岡本をはじめとして、多数の役員が来場していたので、経営陣と技術の話からできるのは貴重でした。
■ 全社員対象!安心安全に生成AIを活用するために ~利用ガイドラインと類似性チェクサポbotのご紹介~

AIオペレーション室:我々が開発する「類似性チェックサポbot」は、外部の画像との類似性をチェックし、人間だと気付きづらい部分や、そもそも類似しているものを知らない場合に役立ちます。
あわせて、我々のチームでは「画像生成AIツールが普及し、クリエイターだけではなく全職種の方が作る側になる可能性があります。その際に、思わぬ権利侵害をしてしまったり、訴訟リスクを発生してしまう可能性もあります。実際の訴訟の例を元に、類似性チェックサポbotをご活用してください」といった啓蒙を全社にしています。
AI Fes.での発表を経て感じたことは、生成AIに限らず著作権に関する正しい知識と啓蒙が必要だという点です。例えば「オリジナルで作っているから、権利侵害のおそれがないだろう」という誤解もあり得るので、より全職種向けに類似性チェクサポbot認知を高めていく必要性を実感しました。
■ ブラウザビルトインAIを活用したAmebaブログ投稿改善のユーザーテスト結果公開

AmebaLIFE事業本部 開発局:AI Fes.では、生成AIをサービスで活用するためにどのようなUIが好ましいのか、Amebaブログに取り込んだプロトタイプを作成し、実際のブロガーさんに使ってもらいフィードバックを得た内容をポスター展示しました。実際のブロガーさんに使っていただくとこで、開発者だけではわからないような使い方や、それに適したAI活用、UIの考察に繋がりました。
当日の来場者の声から、オンデバイスのクライアント生成AI活用はフロントエンジニアを中心に関心の高さを感じました。開発メンバーに活用法や現状の課題を共有できたのはとても有意義でした。またブログを書く際に特にタイトル生成は悩みポイントで、社員からリリースされたら実際に使いたいというフィードバックをもらえたのも良い機会でした。
関連記事:Web AI Case Study at Ameba, CyberAgent ~ Web AI summit 2024に参加 & 登壇してきました ~
■ AI Lab 自然言語処理 (NLP) チームによる事業応用事例の紹介 ~言語はどこにでも存在する~

AI事業本部 AI Lab NLP:AI Labでは、自然言語処理を活用した学術研究や産業応用に取り組むNLPチームが活動しています。本発表では、チームに所属するメンバーやそれぞれの専門領域、チーム全体がカバーする専門分野、そして昨年度の主な実績について紹介しました。
当日は、さまざまな事業部の方々からNLPに関連する課題や解決策に関するご相談をいただきました。すでにミーティングを設定し、具体的な議論へと発展している案件もあります。AIに対する期待が高まる中で、NLPの最先端技術を各事業に提供し、さらなる発展に貢献できればと考えています。
AI Fes.は、事業部の枠を超えて多くの方々に私たちの取り組みを知っていただく絶好の機会となりました。今後もこのような場を通じて、新たな連携を生み出していきたいと考えています。
■ AI Lab Audioチームによる音声データの利活用

AI事業本部 AI Lab Audio Nexus:本発表は、人の声にBGMや環境音が激しく混ざりこんだ音源に際して、人の声だけを出力する研究を発表したものです。また、マイクや収録環境の影響で音質が悪い状況下における人の声を録音した際でも、まるでスタジオで収録したような綺麗な声が出てきます。来場した方にデモの音声を聞いてもらうと、みなさん驚いてくれて非常に盛況でした。
■ AI POS (えーあいぽす)小売業界向けのB2Bプロダクトで実践するAIxUX

AI事業本部 AI POSカンパニー:11月にリリースしたプロダクトの概要と仕組みについてデモを交えて共有しました。実際に体感した営業部門からは「今担当しているお客様の課題解決にもつながりそう」といった声が上がりました。AI Labの研究者との技術的な議論も盛り上がり、既存の取り組みに加え、新たなコラボレーションが複数件開始する見込みです。
■ WINTICKETが仕掛ける新たな映像体験:スポーツ映像テック事業部のこれまでとこれから

WINTICKET スポーツ映像テック事業部:WINTICKETで開発を見据えている新しいスポーツ映像の世界観について、来場者が興味深く話を聞いてくれて、とても良いディスカッションができました。
「AI Fes.」をきっかけに横のつながりを競争力にしていきたい
── 当日は1,000人を超える社員が来場しました。「AI Fes.」で盛り上がった流れを踏まえて、今後はどんな構想を考えていますか?
嶋田:これまでのサイバーエージェントでは、生成AIという新しい技術を積極的に取り入れている背景もあり、現場レベルでの連携が先行していました。サイバーエージェントらしいスピード感がある動きが特徴的で良かったのですが、今後はより大きな事業インパクトや業務効率化、リソースの最適な活用を考えると、事業部間の連携が不可欠だと感じています。
今回のAI Fes.を通じて、事業部やプロダクトを横断したつながりや連携が生まれたことは非常に良い成果でした。
「フェスを開催して、社員みんなで盛り上がり、活発に議論する」というソリューションはサイバーエージェントらしい技術カルチャーでもあります。ぜひ来年も開催し、このイベントをイノベーションや課題解決の打ち手が生まれる場にしていきたいと考えています。

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当社では2023年1月に技術担当役員直下で「Tech DE&I プロジェクト」を発足し(参照:「多様性を受容する開発組織には、社会を変える力がある。『Tech DE&I プロジェクト』始動。」)、かねてより社外で女子学生へのIT技術・キャリア支援のプロボノに取り組んできた神谷がTech DE&I Leadに就任しました。
2024年には新しい未来のテレビ「ABEMA」でエンジニアリングマネージャーを担う茅野が当プロジェクトに参画。さらに強固な組織へ進化し、この1年間は様々な施策をこれまで以上に積極的に推進しました。明日3月8日の国際女性デーに際し、「Tech DE&I プロジェクト」における社内外に向けた多様な取り組みの数々を振り返るとともに、今後のビジョンを聞きました。