発足から2年、サイバーエージェントTech DE&I プロジェクトの今
技術・クリエイティブ

当社では2023年1月に技術担当役員直下で「Tech DE&I プロジェクト」を発足し(参照:「多様性を受容する開発組織には、社会を変える力がある。『Tech DE&I プロジェクト』始動。」)、かねてより社外で女子学生へのIT技術・キャリア支援のプロボノに取り組んできた神谷がTech DE&I Leadに就任しました。
2024年には新しい未来のテレビ「ABEMA」でエンジニアリングマネージャーを担う茅野が当プロジェクトに参画。さらに強固な組織へ進化し、この1年間は様々な施策をこれまで以上に積極的に推進しました。明日3月8日の国際女性デーに際し、「Tech DE&I プロジェクト」における社内外に向けた多様な取り組みの数々を振り返るとともに、今後のビジョンを聞きました。
Profile
神谷優
Tech DE&I Lead兼Developers Connect室マネージャー兼ソフトウェアエンジニア
2008年新卒入社。入社以来、複数のサービス立ち上げに携わる。2015年以降3度の育休を挟みつつ、定額制音楽配信サービスにてソフトウェアエンジニアとして、子ども向けプログラミングサービスにて海外開発部門責任者として長くtoC向け開発に携わる。2024年よりDevelopers Connect室長。 社外ではWomen Techmakers Ambassadorを務めるほか、Forbes Japan 「Women in Tech 30」2024にも選出。茅野祥子
「ABEMA」配信システム開発チーム エンジニアリングマネージャー
新卒でIT企業にエンジニアとして勤務した後、2014年当社入社。AI事業本部の前身であるアドテクスタジオにてDSPの開発を担当。
2019年より「ABEMA」の制作配信技術業務に携わりテクニカルマネージャーとしての経験を積んだのち、産休・育休を経て現職。
社内外におけるコミュニティ構築や啓蒙活動、論文発表など多角的なアプローチに挑戦
── 直近1年間、Tech DE&I プロジェクトではどのような取り組みを推進してきたのでしょうか?
神谷:Tech DE&I プロジェクトでは、発足以来Community / Resources / Paperと3つの分科会に分けて様々な活動を推進しています。
社内外におけるDE&Iコミュニティ構築のための活動を担うCommunityでは最も大きな施策として、女性エンジニアのための技術とキャリアのカンファレンス「Women Tech Terrace 2024」を2024年6月に開催しました(参照:「女性エンジニアのための技術とキャリアのカンファレンス 『Women Tech Terrace 2024』開催レポート」「『Women Tech Terrace 2024』で考える、IT業界ジェンダーギャップ解消の未来地図と現在地」)。
4回目の開催となりましたが、「女性エンジニアが "長く自分らしく" 働くことを応援する」をコンセプトに、引き続き女性エンジニアを力強くエンパワーメントし、ロールモデルを可視化する機会を創出できたと感じています。
また、性自認が女性の方を対象とした、Goのバックエンド開発を学べるインターンシップ「Women Go College」の第2回を現在開催中です。2023年に当社初の取り組みとしてスタートしたのですが、ありがたいことに多くの好評をいただきました(参照:「“女性にもエンジニアという選択肢を” 『Women Go College』でプログラミングの機会を提供」)。
当インターンシップであえて女性のみを対象としたのは、エンジニアを目指す男性と比較して、女性は学びの機会への参加ハードルが高いという課題が存在する(※1)と考えたからです。受講者の方々からは「今まで1人で開発してきたので、同じくエンジニアを志す女性と共に学べる機会が嬉しく参加した」という声が聞かれました。カリキュラムについては、性別を問わず実施した「Go College」と同じですが、インターンシップ期間中には座談会も行いました。これまでエンジニアになるイメージが湧かなかったという方が「エンジニアという職業の解像度が上がった」とお話してくださったり、インターンシップ後に外部のハッカソンで堂々と発表している姿を目の当たりにして、参加者の背中を押す機会を提供できたのだと思うと大きなやりがいを感じました。機会提供の重要性は決してジェンダーに限ったことではないものの、未だジェンダーギャップのあるIT業界においては有意義な取り組みだと思います。
※1 当社 高野・森下・神谷の論文「IT技術者のジェンダーギャップ解消のための志望者・現役技術者に対する調査」における調査1では、女性のIT技術者志望者のロールモデルとの出会いづらさが示唆されました。これはコンピュータサイエンス分野・IT技術者に女性が少なく、ロールモデルの候補になりうる人との接触機会が少ないからだと考えられます。
キャリア上重要な役割を果たす同性のロールモデル候補に出会う機会が少ないと、その分野・職種に女性は増えにくく、その結果女性がロールモデルに出会いづらい状態が安定して維持されると考えられます。

茅野:機械学習やバックエンドエンジニアは特に事業での開発のイメージが沸きづらい領域だと思うので、「Women Go College」のような取り組みは貴重ですよね。個人で実践的なサーバーサイドの開発経験はなかなか行えないですし、クラウドシステムの利用などにはお金もかかります。
エンジニアを目指す女性にとって必要なのは、こうした最初の一歩だけなのでしょうね。始めの一歩を踏み出すきっかけさえあれば、その後は皆さんご自身の目標に向けて力強く歩んでいらっしゃる印象を受けました。
神谷:その通りで、まさに「リーン・イン」なんですよね。「Women Go College」を受講したからといって当社に入社する必要はもちろんありませんし、我々が提供したのは第一歩のきっかけ作りにすぎません。加えて嬉しかったのが、卒業生が独自でLT会やもくもく会(エンジニアが複数で黙々と行う勉強会)を開催していたことです。当インターンシップが実務面だけでなく、女性エンジニアのコミュニティ形成にもなり得るのだと感じました。
また、2024年7月には山田進太郎D&I財団「Girls Meet STEM Career」に参画しました。加えてCommunity活動の一環として東京都と共に女子中高生向けオフィスツアーを開催し、学生にとってロールモデルと感じてもらえるような女性社員の紹介や「極(きわみ) AIお台場スタジオ」の見学を行いました。
さらに、特に力を入れたのが社内のコミュニティ形成です。任意参加の女性エンジニア向けSlackチャンネルが社内にあるのですが、シャッフルランチを2回開催したところ約9割が参加しました。ランチの様子はブログ「サイバーエージェントのディベロッパーコミュニティ活性化とDE&Iの取り組み」で紹介しているのでぜひご覧いただきたいのですが、事業部を横断した繋がりがつくれたことが良かったですね。例えば別部署同士のMLエンジニアがシャッフルランチをきっかけに新たな繋がりが出来るなど、いずれも参加者の満足度の高さが伺えました。
茅野:シャッフルランチを通して社内にいる女性エンジニアの存在を知り、人によってはロールモデルを見つけられたことは若手にとって大きな意義があったと思います。私自身、かつて大きなキャリアチェンジを経て(参照:「広告のサーバーサイドエンジニアからABEMAの配信技術マネージャーへ。幅広い事業展開ゆえに実現した、キャリアチェンジ」)その後は出産も経験しましたが、働き方の変化など若手が興味深く話を聞いてくれたのが印象的でした。また、シャッフルランチ後にも交流を続けているグループもあるようで、それぞれのコミュニティ形成に繋がっているのが嬉しいですね。
神谷:シャッフルランチを通じて社内の女性エンジニアにおけるコミュニティ形成へのニーズの高さを感じ、初となる「CA Women Tech MeetUp」を先日開催しました。希望の多かったLTと座談会という2部構成にすることで、技術的な知見を得られるだけでなくキャリアやワークライフバランスの悩みについても気軽に話せるよう工夫しました。
LTでは「ABEMA」やAI事業本部、グループ会社であるウエディングパークに所属する4名が新卒1年目で得た学びやプロジェクト管理、生成AIによる業務効率化などについて登壇。また、座談会では所属部署や職種、年次を横断した5,6名のグループを作り、途中でメンバーを入れ替えてできるだけ多くの社員と話せるようにしたほか、サンドウィッチやコーヒーを用意してカジュアルに懇親できる雰囲気作りを心がけました。

神谷:Resources分科会では、社内向けのDE&I研修など啓蒙活動を行っています。その中でも特に意義深い取り組みの1つは、エンジニアリングマネージャー向けの研修においてDE&Iの内容を盛り込んだことです。研修受講後にはミニテストも実施したのですが、インクルーシブな開発組織を構築するためにジェンダーに限らず様々な観点からDE&Iを理解できるよう、プロジェクトメンバーと相談しながら問題を作成しました。こちらからの働きかけではなく、研修を企画する人事が、EMとして働く上ではDE&Iへの理解が不可欠だと判断したことが嬉しかったですね。発足から2年、一歩一歩進めてきた様々な取り組みが着実に実を結び始め、社内の意識も大きくアップデートされてきていると確信しました。
また、DE&Iに関する社内外の研究や論文発表を行うPaper分科会の大きなトピックスとしては、査読付きIT実践分野の和文誌「デジタルプラクティス」に論文が採択されたことが挙げられます。「学際的情報科学センター」所属 高野が執筆した論文「IT技術者のジェンダーギャップ解消のための志望者・現役技術者に対する調査」では、女性エンジニアの増加と定着における課題を知り、施策を立案することを目的とした調査を行いました。
発足以来、DE&Iを力強く推し進めていくためには学術的な観点やエビデンスが不可欠だと感じていたので、プロジェクトとしてアカデミックな世界にも門戸を広げられたことは非常に意義深いものでした。
その他、2025年1月には、新経済連盟のDE&Iコミュニティ発足に伴うヒアリングにも参加させていただきました。DE&Iに積極的に取り組んでいる企業として認識いただけたことがありがたかったです。
イベントでの親御さんの姿に、ロールモデルの重要性を痛感
── 茅野さんが当プロジェクトに参加した経緯を教えてください。
茅野:工学系学部を経て新卒からエンジニアとして働いていたため、自分がマイノリティであることが当たり前で、ジェンダーギャップというものを特に意識したことがありませんでした。ただ、育児休暇を取得中にTech DE&I プロジェクトが発足されたことを知り、IT業界のエンジニアにおけるジェンダーギャップは大きな課題なのだと強く認識するようになりました。
復帰後自分でも何かお手伝いできないかと思い、「Women Tech Terrace 2024」の運営メンバーのほか、「Waffle Festival 2024」で中高生や大学生向けに登壇しました。特に印象的だったのは、「Waffle Festival」にはIT企業に興味を持つ学生が多く参加する中で、親御さんと一緒に来ている小さなお子さんの姿もあったことです。
IT業界を目指す子どもを見守る親御さんの中には、期待と同時に不安を感じている方もいるのだと実感しました。未知の業界に進むことには勇気が必要であり、だからこそ、エンジニアという職業をもっと身近に感じられる環境や、ロールモデルの存在が重要なのではないかと改めて感じました。
ジェンダーギャップがない世界が当たり前にならなければ、特に中高生にとっては将来の夢として描くハードルが高くなってしまうのではないかと思います。私自身、マイノリティとして長くエンジニアを続けてきたからこそ、こうした子どもたちが安心して夢を目指せるよう、業界全体に貢献していきたいと考えるようになりました。また、神谷さんは私にとってのロールモデルでもあり、一緒にさまざまな活動を推進していきたいという思いも強くあります。

── 神谷さんの立場から、茅野さんが参加したことでプロジェクトにとってどのような利点があると感じましたか?
神谷:育児休暇からの復帰後も変わらず開発現場の第一線で活躍しており、自分ごととしてDE&Iに取り組んでいることに加え、後世へのロールモデルにもなり得る茅野さんが参画したことは非常に心強かったです。また、発足以来私がTech DE&I Leadとして推進してきましたが、属人化することは避けたいと考えていました。サポートメンバーとして各活動における意思決定のタイミングから協力してもらえると、プロジェクトのスケーラビリティの観点からもありがたいですね。
「エンジニアとして成長・挑戦していくことへの勇気をもらえた」参加者からの声を力に、次のフェーズへ
── 最後に、さらに体制が強化されたTech DE&I プロジェクトの今後のビジョンを教えてください。
茅野:極論になってしまいますが、近い将来このプロジェクトがなくなると良いなと感じているんです。女性エンジニアが当たり前に活躍している業界になり、女子中高生・学生がごく自然にエンジニアを目指す環境をつくりたいですね。
また、女性エンジニアの母数やロールモデルを増やすことも大切ですが、エンジニアとしてテックリードやEM、CTOといった立場を女性が担うこともまた当たり前である、という状態をつくる重要性も強く感じています。そして同時に、それらの役職に魅力を感じる女性も増やしていく必要がありますよね。そのためには、たとえばEMに興味がある社員に早い段階からマネジメント経験を積ませる、といった働きかけも重要ではないでしょうか。
神谷:その他には、今まであえて置いていなかったプロジェクトとしての数値目標を設定しても良いのではと考えています。例えば、社内外のカンファレンスや勉強会での女性エンジニアの登壇回数などです。「Women Go College」でエンジニアを志望する女性に学ぶ機会を提供したように、男性比率の高いカンファレンスで女性が登壇することはまだまだハードルが高いのが現状(※2)です。加えて、私は社外のミッションであるWomen Techmakers Ambassadorとしてロールモデルの可視化、すなわち「Visibility」を向上させる使命も担っています。先日の「CA Women Tech MeetUp」はまさに、心理的安全性を確保した環境で登壇の機会を後押しする取り組みの1つでした。参加者からは様々な声をもらいましたが、運営として特に嬉しかったのは「女性エンジニアによるLTを聞いて学びを得ただけでなく、エンジニアとして挑戦、成長していくことへの勇気がもらえた」という声です。ロールモデルの可視化は、女性エンジニアをエンパワーメントするためには非常に重要な要素であることを改めて実感したので、今後は数値目標を導入することも慎重に検討したいと考えています。
※2 「Study Finds One in Four Tech-Conference Speakers Are Women」(MeetingsNet)
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サイバーエージェントでは、メディア&IP事業や広告事業、ゲーム事業など、さまざまな事業分野で、AIを活用したプロダクト開発や、品質・生産性向上を目的としたツール開発およびプロジェクトが推進されています。
それら取り組みを一堂に集めた社内向けイベント 「AI Fes.」 を、2025年2月に開催しました。本イベントでは、デジタルマーケティング全般に関わる、幅広いAI技術の研究開発を担う「AI Lab」をはじめとする各部署から65のポスターと26のブースが出展され、最新の研究成果や実践的な取り組みが発表されました。
当日はエンジニア、リサーチャー、デザイナー、ビジネス職など多様な職種のメンバーが1,000名以上参加し、グループ全体のネットワーク強化とシナジー創出に向けた活発な交流が行われました。
本記事では、イベントの主催者である嶋田(ゲーム事業部 SGE AI戦略本部)のコメントを交えながら、当日の様子や発表内容の一部をレポートにすることで、サイバーエージェントのAI開発の最前線をご紹介します。