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システムインテグレーター(SIer)大手のNTTデータグループ(以下、NTTデータ)が、AIビジネスで勝負に出た。
12月9日、同社はAIに特化した新会社「NTT DATA AIVista(エーアイヴィスタ)」をアメリカ・シリコンバレーに設立したと発表した。
注目すべきは、そのトップ人事だ。CEOに招聘したのは、エヌビディアやAWS(Amazon Web Services)で要職を歴任してきたブラティン・サハ(Bratin Saha)氏。

なぜ、内部昇格ではなく外部の「有名人」に舵取りを委ねる必要があったのか。
その背景を取材すると、「組織を管理する人」ではなく「実際にAIビジネスを成長させてきた人」が必要というNTTデータの意図が浮かび上がってきた。

新会社のNTT DATA AIVistaが拠点を構えるのは、イノベーションの中心地、アメリカ・シリコンバレーだ。
日本企業がシリコンバレーに拠点を置く際、最新技術の動向を探る「アンテナ(情報収集)機能」に役割が留まるケースもよく耳にする。しかし、NTTデータグループ グローバルイノベーション本部 Head of Global AI Officeの本橋賢二氏は、新会社の役割について「アンテナではない」と断言する。
「実際のビジネスをインキュベート(育成)し、立ち上げるところを先導する役割です」(本橋氏)

NTT DATA AIVistaの主なミッションは、生成AIを活用した「AIネイティブ」な新規ビジネスを創出すること。NTTデータグループ全体で掲げる「2027年度にAIエージェント関連売上3000億円」という目標達成に向けた、重要なエンジンとしての役割を担う。
組織構成も筋肉質だ。まずは数十人規模のスモールチームからスタートするが、その多くをNTTデータからの出向ではなく、外部のエキスパート採用で賄う計画だという。

前述の「エキスパート採用」や「新規ビジネス創出」を成功させるための鍵こそが、CEOであるブラティン・サハ氏の存在だ。
サハ氏は、AI業界で20年以上のキャリアを持つ重鎮だ。エヌビディアではソフトウェアインフラのVPを務め、AWSでは機械学習サービス担当VPとして「Amazon SageMaker」や「Amazon Bedrock」など、数十億ドル規模の生成AI事業の構築に貢献。直近ではDigitalOceanのCPTO(最高製品・技術責任者)を務めていた。
なぜ、NTTデータはこれほどの「大物」をトップに据えたのか。
本橋氏はその理由を、人材採用におけるコネクションや外部への説得力だと明かす。
「何をやっているか(外部に)わからない人では、全然説得力がありません。(サハ氏は)AWSで一番早くAI系のサービスを1ビリオン(10億ドル)規模に持っていった実績があります」(本橋氏)
激しい人材獲得競争が続くシリコンバレーにおいて、サハ氏の実績こそが、優秀な人材やパートナー、そして顧客を引き寄せる強力な名刺代わりとなるわけだ。「私たちではたどり着けなかった人にもシークレットソース(秘密のルート)でたどり着ける」と、本橋氏は期待感を示す。
本橋氏によれば、サハ氏の招聘にはおよそ半年を要したという。
「自分たちが持っているグローバルなネットワークを活用し、実際に会って話しながら、ビジョンを共有できる人物を探しました。広く公募をかけるのではなく、ネットワークをたどって最終的に彼にたどり着いた形です」(本橋氏)

逆に、サハ氏のような「大物」が、なぜ次のキャリアとして日本のNTTデータを選んだのか。そこに、現在のAI業界が直面している課題と、NTTデータの強みが合致するポイントがある。
「AI技術は確かに重要ですが、同等に重要なのは、この技術を顧客に導入するプロセスです。NTTデータには、複雑な技術を企業に確実にデプロイ(導入・展開)してきた実績があります」(サハ氏)
サハ氏の言葉通り、単独では魔法のようなAIツールでも、銀行の勘定系システムや政府の基幹システムといった「止まってはならない現場」に組み込むには、高度なエンジニアリング能力や信頼性が求められる。
「NTTデータの強みは、顧客との深い知識と関係性、そして導入における専門性です。それを、NTT DATA AIVistaが開発するAI(ビジネス)と結びつけることで、非常にユニークなポジションを確立できると考えています」(サハ氏)
実際、NTTデータはすでにグローバル全体で2000件以上のAI活用案件を受注。また、国内でも碧海信用金庫やJALカードなど具体的な事例を積み重ね、技術を「作って終わり」ではなく「使える形にする」ノウハウを蓄積してきた。

「ハイパースケーラー(巨大なクラウドプロバイダー)たちと同じことをやっても意味がありません」
本橋氏はそう語る。NTTデータが目指すのは、AIモデルやクラウドサービスそのものを競うことではない。最新のAI技術を業界固有の業務や既存システムに組み込み、実際に動く形で提供することに価値を置く。
「彼らがやっていることをうまく活用し、早く取り込む。そのうえで、お客様に提供する段階では、業界ごとに特化した作り込みが必要になります。そこには長年蓄積してきた業界ノウハウや既存システムの知見が不可欠で、それを支援できるのが我々の強みです」(本橋氏)
本橋氏の言葉を起点に考えると、NTTデータがどのようなトップ像を想定していたのかが見えてくる。組織を管理する能力よりも、AIを現場に落とし込んで成果を出した実績を持つ著名な人物を求めていたことが、今回の人事に色濃く現れているのだ。
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