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同窓生から「在日の金くん」ヘイト訴訟、110万円賠償命令…名門校舞台、原告「ノーサイドを願う」
左から原告代理人の神原元弁護士、原告の金政則さん、金さんの同窓生で支援者の津崎兼彰さん

同窓生から「在日の金くん」ヘイト訴訟、110万円賠償命令…名門校舞台、原告「ノーサイドを願う」

九州出身で現在は東京に住んでいる在日韓国人三世の男性が、出身高校の同窓生からSNS上で「ヘイトスピーチ」を受けたとして、損害賠償110万円を求めた裁判の判決が3月18日、東京地裁であった。衣斐瑞穂裁判官は、請求通り、同窓生に110万円を支払うよう命じた。

●名門・修猷館高校の同窓生同士だった

原告の金正則さん(70歳)と被告となった男性は、福岡の名門・県立修猷館高校の同窓生。卒業したあとも、同窓会を通して交流を続けてきた。

しかし、2016年ごろから男性がX(旧ツイッター)やフェイスブック上に在日韓国人・朝鮮人に対する差別的な投稿を始め、金さんの知るところとなった。

金さんは2018年5月、地元のホテルのラウンジで、男性に投稿をやめるように伝えた。しかし、男性が投稿をやめなかったため、金さんは2019年2月、同窓生のメーリングリストにこの問題を告発した。

その後、フェイスブックの投稿は削除されたものの、2020年2月から「在日の金くんへ」という個人攻撃が始まった。

このうち15の投稿が差別的投稿、つまりヘイトスピーチにあたるとして、金さんは2024年3月、東京地裁に裁判を起こした。

●東京地裁は「不当な差別的言動」と認定した

画像タイトル原告の金政則さん

7回の裁判期日を通して、被告の男性は「投稿の事実は認めるもののヘイト投稿ではない」「日本から出ていけなど、地域社会からの排除を扇動するような文言がないから、不適切な投稿があったとしても『差別的投稿』とまでは評価できない」などと反論してきた。

しかし、東京地裁の衣斐裁判長は、15の投稿のうち9の投稿について、差別的言動解消法(ヘイトスピーチ解消法)に定められた「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当し、その内容は悪質であると判断した。

たとえば、「在日の金くん。コメントをお願いします。朝鮮人は明らかに性犯罪が多いですよね 何故ですか? 知らんとは言わせない。理由を述べよ」という投稿。

これについて「韓国または北朝鮮出身者一般に対する否定的評価ないし嫌悪感を表明するとともに、原告にも同様の傾向がある旨を示唆して被告を非難するものであり、原告に対する不法行為を構成する」と判断した。

「また、在日の犯罪だ。金くんコメントをよろしく。関係ないとは言わせないよ」という投稿についても「本邦の域外にある国または地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動する不法行為を構成する」とした。

なお、衣斐裁判長は、被告側の「メディア各社が原告側の視点から報道したことにより、被告はすでに一定の社会的制裁を受けているから、損害賠償額が減額されるべきである」という主張についても、「慰謝料を減額すべき事情に当たるとはいいがたい」として、全面的に退けている。

●原告代理人は「判決」を絶賛した

画像タイトル原告と代理人、支援者たち

「満額が認められた!」。この日の判決後、金さんの代理人をつとめた神原元弁護士は喜びの声を上げた。

「110万円という金額は、名誉毀損裁判では、特段多くない金額だが、侮辱という面で見ると高額である。

これまでもSNSの投稿がヘイトスピーチであると認定された裁判例はいくつかあるが、100万円が一つの基準になると思う。

一般の人にとって、100万円はインパクトのある金額。手が滑って書き込んだ結果、100万円賠償することになるのは、ヘイト投稿の抑止力になると思う」(神原弁護士)

判決では、「差別的言動解消法は、私人間の権利義務ないし法律関係を規律したものではないものの、ある者が、他者に向けて差別的言動解消法2条に規定する『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』をおこなった場合には、そのような言動は社会通念上許される限度を超えるものは明らかであり、民法上の不法行為にあたる」とされた。

この点について、神原弁護士は「罰則規定のない理念法であるヘイトスピーチ解消法が実効的なものになり、命を吹き込んだ判決の流れを確立してくれた」と評価した。

神原弁護士によると、ヘイトスピーチには「侮辱型」(例:◯◯人はゴキブリ)、「害悪告知型」(例:◯◯人を殺せ)、「排除型」(例:日本から出ていけ)に類型されるケースが多いが、「朝鮮人には犯罪者が多い」というような「犯罪者みなし型ヘイト」は、これらに類型に該当してこなかったという。

今回の判決では「韓国または北朝鮮出身者一般の犯罪性向がそれ以外の者と比較して高い旨を指摘し、否定的評価ないし嫌悪感を表明することは不法行為に該当する」と認めたため、現在進行形で発生しているクルド人に対するヘイトスピーチについても、抑止力となるのではないかとも絶賛した。

●原告「二度とこのような裁判はやりたくない」

原告の金さんは「想定してなかった金額。SNSの140文字の投稿で110万円の賠償が認められたことにびっくりした」と驚きの表情を見せた。

判決が出る前、金さんはこの裁判を始めることについて、3年近く逡巡していたことを明かした。

そのうえで、二次被害にさらされながらも、SNS上でのヘイトスピーチと戦い、勝利をおさめた在日韓国人の李信恵さんや崔江以子さんの名前を挙げている。

「女性たちが危険な目に遭いながらも、ヘイトスピーチと戦ってきたのに、自分がやらないで一生終わったら、死ぬ前にどう思うだろうって思い、決意しました。

いざ裁判を始めたらどんなことが起こるかと警戒していましたが、今日のような天気の良い日に支援者の皆さんとともに、笑顔で集まれるとは。最初の頃に感じていた思いとは、違うものになったと感じています」

そんな金さんは、判決後の支援者集会で次のように思いを口にした。

「男性と女性では受ける差別がまるで違うと感じたが、そんな私でも二度とこのような裁判はやりたくない。ましてや家に子どもがいるような人は、公に被害を訴えることはとてもできないと思う。ヘイトスピーチを民事でなく、刑事で取り締まれるような仕組みが必要だ」

一方、被告の男性については「ヘイトをいさめる中で、いつか肩を組んで酒を飲もうと言ったことがある。私に謝る必要はないからヘイト投稿はやめてほしいし、心配もしている。投稿をやめてまた会えるように、ノーサイドになることを願っている」とも告白。

ノーサイドの意味について記者から問われると次のように答えた

「被告とまた向き合えるようになること。それは簡単ではないと思うが、彼が変わることができれば、絶対に折り合わないような酷いヘイトスピーチをしている人とも、折り合う可能性が見えてくるかもしれない。

法的措置だけではなく、ヘイトスピーチをなくすために次を示せるようなことをやらなくては。今回は自分自身の個人被害の問題になったが、マイノリティに対する差別はマジョリティ全員の問題だと思う」

●同窓生の支援者「差別はすべての人にとっての問題である」

今回の判決で、金さんの主張が全面的に認められたかたちとなったが、傍聴に駆けつけた原告・被告をともに知る同窓生で、九州大学名誉教授の津崎兼彰さんによると、原告と被告の両方を知る同窓生の中には「なぜこのようなことが起きたのかわからない」という人が多く、そんな状況下で今回の問題を伝えることに、難しさを感じていたと明かした。

しかし、津崎さん自身は「差別を黙認することは容認につながり、ひいては加害につながるから、個人の裁判を通して差別はすべての人にとっての問題である」と金さんの姿を通して気付いたそうだ。

そんな津崎さんは現在、修猷館の同窓会で「差別を許さない宣言」を制定できないかと、模索している最中だ。

金さんの後輩で、音楽プロデューサーの松尾潔さんも、同窓生へのヘイトスピーチの「伝わらなさ」に直面したことがあったと語る。

松尾さんは以前、東京における修猷館の同窓会で講演をする際に、「先輩同士でこんな嘆かわしいことがあった。だから金さんをゲストスピーカーとして呼びたい」と幹事に伝えた。

それは叶ったものの「同窓生同士の私怨ではないか」と思われている雰囲気も感じられたという。「同窓会は親睦を目的とした集まりなので、厄介ごとを持ち込んでほしくないという空気もあった」と語った。

「そういう出来事を経たことで、悲しくて嘆かわしくて、どこか恥ずかしさにもつながる感情を持っていた。しかし、金さんと1年近くご一緒して、負の感情は誇らしいものに変わっていった。

差別が学び舎を舞台に起きたのは悲しいことであるけれど、同じ場所から差別を受ける側の金さんが立ち上がって、声をあげる強さを見せてくれた。それが僕にとっても強い自己肯定につながった。

誹謗中傷で傷ついているのにそれを公にして、自らの言葉で奮闘する金さんの姿を拝見して、強さはやさしさであることを体現している人が近くにいると、誇らしくなった」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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