「さす九」という言葉をご存知だろうか。「さすが九州」を略した言葉で、「男尊女卑」の意識が根強いと言われる九州地方(出身者)を揶揄するスラングとして、ネットやSNSで広がっている。
これまでも、たびたび話題になっていたが、福岡市に本社のある西日本新聞が今年3月に「さす九」に関する記事を出したところ、賛否両論がわきあがることになった。
弁護士ドットコムニュースもLINEを通じて、読者に「さす九」の体験談や考え、反論などを募集したところ、たくさんの意見が寄せられた。
今回の記事では、福岡生まれで現在は東京で暮らし、「九州脱出に成功しました!」と語る20代女性の声を紹介する。
●「次男家の女」は暖房も椅子もない「土間」で…
20代後半の田中理子さん(仮名)は、2歳下の妹と共に地元・福岡を離れたという。
弁護士ドットコムニュース編集部に送ってくれたLINEのメッセージには、「農家の長男に嫁ぐのが嫌だった(一生義実家奴隷コース)ので、2人とも大学進学のタイミングで九州を出ました」とある。
田中さんが生まれ育った地域では、男女や本家・分家の役割意識が強く根付いていたという。通常、若い女性は「農家の長男と結婚すること」を期待されるようだ。
親族の法事で1カ月ほど前に帰省した際にも、そのようなジェンダーの役割を強く意識させられたと話す。
「本家での集まりで、"次男家"の我が家は、土間になっているキッチンで母と私と妹が来客のお茶作りやお給仕。"長男家"は畳の部屋や椅子に座って、来た客と話して過ごすという状況でした。もちろん土間には暖房も椅子もありません!笑」
田中さんによれば、法事の会食は、上座に座るのが祖父と長男家と田中さんの父親。次男家の女性3人は、下座にすら座らせてもらえず、食事の支度だけでなく、料理の注文や支払いにいそしんだという。
同じように福岡生まれの長男家の妻も、田中さんからすると、旧態依然の「さす九」ぶりを発揮していたという。
「おばさまからは『早くお茶出せ』と叩かれたり、『気が利かない』と小突かれるのは普通にありますね。おばさまは50代ですが『東京で働いてるなんてかわいそう』『早く結婚して旦那に養ってもらって家を守るのが女の幸せよ』と令和のこの時代でも言ってきます。やばいですね笑」
田中さんの女友だちも結婚するときに、義母から同じようなことを言われたといい、「このエリアではあるある」だと話す。
●次男家でもあり県外に出られた
田中さんがこのような価値観に縛られた地元を飛び出すのは必然だったようだ。
「親は次男家なので、家を継ぐことを強制されませんでした。父は大学で東京に出ていた経験があり、娘2人を都会に送ることにそこまで抵抗なかったようです。
父がたまたま転勤のある仕事で地元思考が強くないのと、家の実権は母が握っていて、母が都会に出たいタイプだったので九州脱出に成功しました!」
福岡空港行きの電車(TTwings / PIXTA)
2023年にある漫画が話題になった。
東京の男性と結婚することを選んだ女性が、数年ぶりに地方に帰省した様子から、地方に残る古い価値観をまざまざと見せつけた漫画『東京最低最悪最高!』(鳥トマトさん作)だ。
田中さんも漫画を読んで「まさに!」と共感したという。
法事の場では、田中さんたちは、古い考えに特に反発することもなく、うまいことやり過ごしているそうだ。
「法事では、次男家の子どもとして、お客さまや祖父に良い対応をすれば褒めてもらえるし、お小遣いやお土産ももらえるので、九州に帰るときは気前の良い都会に出た娘を演じています」
法事の間だけと考えれば、我慢できることもあるのかもしれない。
●アンケートに激怒する福岡県の男性もいた
弁護士ドットコムニュースには「さす九」をめぐって、実体験が数多く寄せられた。
九州地方の人の考えに苦しんで、土地を離れたという人もいれば、「さす九」のアンケートを実施することだけで烈火のごとく怒る福岡在住の男性もいた。
今後もさまざまな立場の人の考えを紹介していく。