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渡航前に頭に叩き込め、JFA幹部「AI生成児童ポルノ」有罪判決に学ぶ 「法律を知らなかった」で失う社会的地位
影山雅永氏(写真:JFA/アフロ)

渡航前に頭に叩き込め、JFA幹部「AI生成児童ポルノ」有罪判決に学ぶ 「法律を知らなかった」で失う社会的地位

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日本サッカー協会(JFA)の技術委員長・影山雅永氏が、フランスで「児童ポルノ」の輸入や所持などの罪に問われ、有罪判決を受けたと報じられている。

仏メディアなどによると、影山氏は10月2日、20歳以下のワールドカップ視察のため、日本からチリに向かう途中、経由地パリ行きの航空機内で「児童ポルノ」を閲覧した疑いで逮捕された。その4日後の10月6日、禁錮刑(執行猶予付き)や罰金、さらに入国禁止などの判決を言い渡されたという。

現地の裁判で、影山氏は「画像はAIで生成され、芸術品だと思っていた」「フランスで違法とは知らなかった」と主張したと報じられている。

しかし、フランスの弁護士資格を持つマージュ パスカル・聡平外国法事務弁護士は、弁護士ドットコムニュースの取材に「フランスでは『知らなかった』という言い訳は通用しません」と語る。

この判決を受けて、JFAは速やかに影山氏との契約を解除した。今回の事件は、海外での行為が社会的地位を一瞬で失わせる現実を示している。

現地で刑事弁護人としての経験もあるマージュ弁護士に、フランスの刑事手続について聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●逮捕→4日後に判決──「即時出廷手続」とは

——影山氏は逮捕の4日後に有罪判決を受けたと現地メディアが報じました。フランスの刑事手続はどのように進んだのでしょうか。

影山氏が逮捕されたのは、仏シャルル・ドゴール空港で、刑事手続は「Comparution Immédiate」(即時出廷手続)と呼ばれる制度でおこなわれたとみられます。

これは、被疑者を逮捕・勾留した後、捜査段階を経ず、すぐに刑事裁判にかける手続です。犯罪が明らかで、証拠も十分にそろっている場合、迅速に刑罰を科すために用いられます。日本の「現行犯逮捕」に似ていますね。

日本では、略式手続や即決裁判手続など、軽犯罪に対する刑事手続が存在しますが、それでも起訴から14日以内等の期間が設けられています。

フランスでは、比較的重大な犯罪に該当し(現行犯逮捕の場合、法定刑が6カ月以上10年以下の懲役にあたる犯罪)、かつ犯罪事実が明白で証拠関係が十分にそろっていると検察官が判断した場合、即時出廷手続が適用されます。

原則として逮捕後24時間以内に起訴され、裁判が開かれます。ただし、当日中に審理が困難な場合には、自由・拘禁審理判事(Juges des Libertés et de la détention)の審理によって勾留期間が延長され、最長3営業日以内に公判が開かれることとされています。

期間が延長される場合、自由・拘禁審理判事の決定日の次の日から延長期間が開始されます。

●逮捕翌日に有罪判決が出ていたこともありえた

——手続による大きな流れを教えてください。

  • 逮捕→警察署で勾留
  • 勾留中に面会した検察官が刑事告訴を決定
  • 当日に裁判が困難な場合、自由・拘禁審理判事が勾留期間を最長3日間延長
  • 裁判で刑が決定

被告人は即日裁判の拒否権を持っているため、その権利を公判当日に行使する場合もあります。また、裁判官が「事件に関する審理に十分な状態にない(証拠不十分など)」と判断する場合には、裁判所が審理を別の日に延期する場合もあります。

延期期間は、最短4週間、最長10週間とされます(ただし、被告人が同意すれば4週間未満も)。延期となれば、被告人または弁護人は、追加の捜査(聴取・鑑定など)の実施を裁判所に求めることができます。

また、公判までの間、裁判所は司法監督、電子監視付きの自宅拘禁、または勾留などの保全措置を被告人に対して命じます。

今回の事件で、影山氏は10月2日に逮捕されました。逮捕から4日後の10月6日に有罪判決を受けていることから、飛行機の着陸や逮捕された時刻と裁判所の都合で同日に審理できなかったため、土日を挟み3営業日間(計4日間)勾留されて裁判が開かれたと想定できます。

つまり、逮捕のタイミング次第では、逮捕後4日どころか、もっと短い時間で有罪判決を受けていた可能性があります。逮捕の翌日に有罪判決が出ることもありえます。

——「Comparution Immédiate」(即時出廷手続)で弁護を経験したことはありますか。

あります。パリの裁判所で国選としてComparution Immédiateの制度内で被告人の弁護を2年間やっていましたが、とにかくスピード感があります。

国選で呼ばれると、たとえば午後の部であれば午前11時に裁判所に呼ばれて、午後の1時半に裁判が始まります。

1日の裁判では平均4〜5人分の被告人を担当しますが、被告人それぞれとの面会、刑事資料の閲覧、準備書面の作成、裁判での口頭弁論をこなします。

若い弁護士であれば作業スピードを上げるための良い訓練だと思いますが、とにかく緊張する状況が続き、仕事の量とスピードによって裁判が終わるころにはヘトヘトです。

●生成AIでも「児童ポルノ」に該当、フランス刑法の厳しい規定

——影山氏は「見ていたのは生成AIで作成したもの」などと主張したそうですが、フランスではどのように扱われますか。

取り調べで警察が影山氏のパソコンから計1621件の児童ポルノ関連の画像や動画を発見したとも報じられています。

報道によると、これらはいずれも生成AIによって作成されたものであり、影山氏が入力したAIスクリプトでは「脚を開いている短髪の日本人の女の子」、「幼い女子が男性に洋服を脱がされている」等が警察によって確認されたとも報じられています。

6日の公判では、影山氏はこれらの画像や動画を機内で閲覧したことこそ認めたものの、画像や動画がフランスで禁止されていると知らなかったとも発言したほか、「AIが生成した芸術作品を見ていた」と裁判中に発言したと報じられました。

では、生成AIによって作成されたこれらの画像や動画はフランス刑法上では「児童ポルノ」として扱われるのでしょうか。

フランス刑法では次のような規定があります。

「未成年者の映像又は描写であって、わいせつな性質を有するものを、公然又は公表を目的として撮影し、録画し、若しくは送信した者は、5年以下の懲役又は7万5千ユーロ以下の罰金に処する。15歳未満の者の姿態について前項の行為をしたときは、公表を目的としなかった場合であっても、同様とする」

フランス刑法では「未成年者の描写」、つまり写真等の実物の未成年の画像だけでなく、絵画や生成AI等、人工的に作成された実在しない未成年者の画像や動画も刑罰の対象となります。

また、公表方法やデバイス、メディア等に関する媒体の指定もなく、いかなる方法・媒体で公表された場合であっても、刑罰の対象となります。

●禁錮や罰金のほか付加刑も「入国禁止」「性犯罪者名簿への登録」

——禁錮や罰金のほか、入国禁止や未成年者に関わる業務禁止などの刑罰も言い渡されたそうです。

実際の判決文は閲覧しておりませんが、現地報道によると、執行猶予付き禁固18カ月と罰金5000ユーロの有罪判決に加えて、次の付加刑(peines complémentaires)が言い渡されました。

  • 10年間のフランス入国禁止
  • フランスの性犯罪者名簿への登録
  • 10年間、未成年者に関わる業務への従事禁止

付加刑とは、主刑に加えて裁判所が科すことのできる刑罰であり、主刑が禁固刑である場合には、その性質や法令で定められた範囲に応じて裁判官が追加で命じることが可能です。

これらの付加刑は、犯罪の性質、被告人の更生の保障、社会的危険の防止、被害者保護の観点から重要な役割を果たすものとされています。

今回、影山氏に言い渡された付加刑のうち、「未成年者に関わる業務への従事禁止」は、犯罪の性質上、未成年者の保護を目的とした措置です。一方で、仏メディアは、これらの刑は日本国内では適用されないとも報じております。

●フランスから向けられる日本の「児童ポルノ」へのまなざし

──現地の報道はどのような空気感なのでしょうか。

仏メディアは、日本の刑法上で児童ポルノの画像や動画を所持したり提供したりする行為は児童買春・児童ポルノ禁止法で刑罰の対象になるが、生成AIや人工的につくられる画像や動画(漫画やアニメ)に対する児童ポルノに対する刑罰には法的グレーゾーンが存在し、フランスのように刑事罰の対象にはならないとも報じられています。

フランスではたびたび、日本のポルノ産業および児童ポルノに対する規制について報道されてきました。規制や罰則がフランスと比べて軽い点が指摘されています。

こうした規制の強さの差や法的グレーゾーンの存在は、日本における表現の自由や、アニメ・漫画などの創作物の扱いに関する文化的感覚の違いに起因すると考えられます。

一方で、仏メディアでは、フランスや欧州基準と比較して、日本の制度や社会の対応を日本政府が改善することも期待しているとも報じております。

●フランスでは「知らなかった」は通用しない

——フランスの法律を詳しく知らないこともあるかと思います。「違法だとは思わなかった」という反論には耳を貸されないのでしょうか。

ビジネスや観光などでフランスを訪れる日本人が、もし犯罪を犯してしまった場合、影山氏のケースのように「知らなかった」という言い訳は、警察や裁判所において通用しません。

フランスには、古代ローマ法に由来する 「法律は誰もが知っているものとみなされる(Nul n’est censé ignorer la loi)」 という基本原則があり、これはフランス人に限らず、外国から訪れる人にも適用されます。この基本原則ではすべての人は法を知っているものとみなされ、知らなかったことを理由に罪を免れることは認められません。

フランスやその他の外国を訪れる際には、事前にインターネットやガイドブックでその国の法制度や規制に関する知識に目を通しておくことが推奨されます。

これは児童ポルノ犯罪に限らず、あらゆる犯罪において通用する重要な注意点です。

もちろん、その国の弁護士と同等の専門性の高い知識を持つことはさすがに難しいものですし、言語等の問題で理解しにくい場合は、私たちのような日本に在住していて日本語ができる外国法事務弁護士にもっと具体的なアドバイスをもらうのもいいかもしれません。

【取材協力弁護士】 マージュ パスカル・聡平(まーじゅ ぱすかる そうへい)弁護士 外国法事務弁護士(パリ弁護士会・第二東京弁護士会)。フランスのパリ第2大学卒業。現地企業に勤務後、2016年にフランスで弁護士登録。フランスの法律事務所を経て、現職。外国法事務弁護士として2021年登録。国内外のM&A、法人設立、ジョイントベンチャーの設立をはじめ、コーポレート・商業取引における各種契約及び規制分野(GDPR、IT関連等)に経験を持つ。
事務所名:LPA外国法事務弁護士法人
事務所URL:https://lpalaw.jp/jp/

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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