宮城・女川町“15年ぶりクマ目撃”は「AIフェイク」だった…画像提供者に“法的措置”求める声も「罪の成立は考えづらい」弁護士指摘のワケ

〈本日、女川町内へのクマ出没に関してお知らせしたところですが、外部からの情報をもとに真偽確認を続けた結果、提供された情報(画像)が生成AIによるフェイク画像であったことが判明いたしました。〉
11月26日、宮城県女川町が公式Xに投稿したクマの画像が生成AIで作成されたものだったことが判明した騒動で、町は同日夕方、上記の訂正文を発表し、謝罪した。問題の画像は、夜の住宅街に大きなクマがたたずむ様子が写ったもので、現在は削除されている。
女川町では15年ぶりの“クマ目撃情報”だった
「25日夜、クマを撮影した」
女川町は11月26日午前9時頃、町内に住む人からこんな通報を受けた。今年、宮城県内でもクマの目撃情報は相次いでいるが、同町において最後に目撃されたのは2010年。町は住民の危険回避を優先し、通報者からの提供画像とともに、公式Xで迅速に注意喚起を行った。
ところがその後、ネット上では「フェイク画像」であることを疑う指摘が相次ぎ、町は真偽の確認を開始。地元テレビ局のkhb(東日本放送)によれば、同日16時頃に当事者が交番を訪れ、画像が生成AIで作成されたフェイクだったと申し出たという。
なお、当該の画像は通報者自身が作成したものではなく、同僚が“いたずら”で送ったものだった。それを本物と信じた通報者が町へ通報した――という経緯があったとされる。
これを受けて、女川町は冒頭で紹介した訂正文および謝罪文を公式Xに投稿。当該のポストには、〈これ担当者の人が怒られちゃってたらめっちゃ可哀想〉〈AIの進歩が凄まじすぎてやばい〉など町に対する同情的な声とともに、画像提供者に対する法的措置を望む声も多く寄せられている。
フェイク画像「作った人・送った人」が罪に問われる可能性は?
前出のkhb(東日本放送)の報道によれば、警察は今回の行為が「偽計業務妨害」に当たるかを慎重に調べているという。
偽計業務妨害とは、刑法233条に次のように定められた罪だ。
〈虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処する〉
では、「フェイク画像を作成していたずらで第三者に送った人物」「フェイク画像を本物と信じて町に通報した人物」それぞれにこの罪が成立するのはどのような場合か。
まず前者に関し、刑事事件の対応も多い齊田貴士弁護士は「いたずらのつもりで第三者にフェイク画像を送信したことについて、偽計業務妨害罪の故意が認められるかどうかが重要です。町役場などの業務が妨害される事態について予見し、かつ『そうなっても構わない』と認容していたかどうかが判断のポイントとなります」と指摘。
具体的には、画像を第三者へ送る際に「これを役場や警察に情報提供して」などと通報を促す指示をしていた場合や、第三者が役場の広報担当などの職務にあり、その人物に送れば、今回のように情報が容易に拡散し、役場の業務が妨害される事態を予見し、認容していた場合には、故意が認められ、偽計業務妨害罪が成立する可能性が高いという。
では、後者の「フェイク画像を本物と信じて町に通報した人物」についてはどうか。齊田弁護士が続ける。
「今回の騒動に関して言えば、通報者は画像を本物と信じて情報提供しており、町をだまして業務を妨害しようという故意がないのであれば、原則として偽計業務妨害罪が成立するとは考えづらいです。
ただし、仮に通報者に画像がフェイクだとの確定的認識があった、または画像がフェイクかもしれないという認識がありながらも、通報することで町役場の業務が混乱することを認識・容認して通報したと認められる場合には、偽計業務妨害罪が適用される可能性もあると思います」
たとえ罪に問われなかったとしても、本件のような行為が自治体の業務に支障をきたすことは事実であり、地域住民に対しても、無用の不安を与える、本当に必要な情報が届かないといった事態を招きかねない。
生成AIの普及・進歩により、誰もが精巧なフェイク画像を簡単に作成できるようになり、同時に、フェイクか本物かを見抜くことは加速度的に難しくなっている。今回の騒動は、AIが深く浸透しつつある現代社会において、私たち一人ひとりが高い情報リテラシーを持つ必要性を改めて示したと言えるだろう。
取材協力弁護士
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