【解説】 なぜ「Z」がロシアで戦争支持のシンボルになっているのか
ポール・カーリー、ロバート・グリーノール、BBCニュース

ロシアの男子体操イワン・クリアク選手は、5日にカタールで開かれたワールドカップ(W杯)で、アルファベットの「Z」を胸に付けてウクライナ選手と並んで表彰台に立ったとして、国際体操連盟(FIG)の懲戒手続きに直面している。このシンボルは何を意味しているのか?
ロシアでは現在、ウラジミール・プーチン大統領によるウクライナ侵攻を支持するシンボルとして、アルファベットの「Z」が急速に拡散している。政治家たちが愛用し、車やバンの側面、広告板、さらにはバス停にもいたずら書きされている。セルビアの首都ベオグラードで行われた親ロシア派のデモでも、使われていたた。さらに、そうした写真が、ソーシャルメディア上で広く共有されている。


「Z」の使用は、SNS上でも議論となっていると、英ユニヴァーシティー・コレッジ・ロンドン(UCL)スラブ・東欧研究学科で国際政治を教えるアグラヤ・スネツォヴァ氏は、こう指摘する。
「これは色々な意味で、ロシアが現在、あるいはかつて、どの程度グローバル社会の一部だったのか、表している」
ロシア語で使用されるキリル文字では、「Z(ゼッド)」は異なる書き方(数字の3のような形)をする。しかし、ロシア人の大半は、欧米のアルファベットが使うラテン文字の「Z」を認識している。王立防衛安全保障研究所(RUSI)のリサーチ・フェロー、エミリー・フェリス氏は、「Z」は分かりやすく力強いシンボルだと説明した。
「プロパガンダでは、一番シンプルなものが最も早く受け入れられがちだ」
「この文字はなかなか威圧的で、きっぱりしている。美的観点からは、非常に強力なシンボルだ」
ウラジーミル・プーチン大統領の侵略を支持する人々の間で「Z」が広まるのには、2週間もかからなかった。
ロシア中部の都市カザンでは、ホスピス施設の子どもたちやスタッフ約60人が雪の中、建物の前に巨大な「Z」を作っているところを写真に撮られた。


「Z」が実際に何を意味するのかについては、いくつかの説が唱えられている。最初にソーシャルメディアで注目されたのは、ウクライナに向かうロシア戦車の側面に「Z」が描かれていたからだ。
当初、この「Z」は実は数字の「2」で、2022年2月22日を表していると考えられていた。この日は、ロシアがウクライナ東部の分離派地域ドネツクおよびルハンスクと、「友好、協力、相互支援」に関する協定を批准した日でもある。
しかし現在では、このシンボルは単に、ロシア軍が自軍を識別するための標章だと思われている。
ロシア国営放送「チャンネル1」のニュース番組は先週、「Z」はロシア軍の装備によくあるマークだという説を放送した。正教会の親プーチン派ウェブサイト「ツァーグラード」は、このシンプルなマークによって「味方からの誤射を防ぐ」ことができ、「他のものと混同されなくなる」と報じた。
元ロシア特殊部隊のセルゲイ・クヴィキン氏はロシア誌サイト「ライフ」に、様々なシンボルが様々な部隊の識別用に使われていると話した。
「四角に囲まれた『Z』や、丸に囲まれた『Z』、『Z』と星マーク、あるいは『Z』単体といった記号が使われている」
クヴィキン氏はこうした記号が、他部隊と連絡を取っていないかもしれない部隊が、正しい位置にいるか確認するのに役立つと説明した。
一方、米空軍のタイソン・ウェッツェル中佐は「タスク・アンド・パーパス」のウェブサイトで、ロシアの戦闘機はこれらの白いマークを視認できないほど速く飛んでいると指摘した。
米シンクタンク「大西洋協議会」の空軍上級研究員を務める中佐はそれでも、「Z」のシンボルが「同士討ち防止のための衝突回避策」であることは認めている。


ロシアにおける「Z」の広がりは、ソーシャルメディアでの自然発生的なものだけではなく、「政権によって推進されているものでもある」と、UCLのスネツォヴァ氏は警告する。
例えば、ロシアの政治家マリア・ブティナ氏は、スーツのジャケットに「Z」の記章を書く方法を説明したビデオを投稿した。「そうすれば、声高に主張しなくても、職場で皆に見せられる」と、スネツォヴァ氏は説明する。
一方でスネツォヴァ氏は、このシンボルをファシスト(全体主義)のものと見なすべきではないと言う。
「この『Z』をかぎ十字に変換するミームがたくさんあるが、それは政権に対抗したい人たちがやっていることだ」
「Z」以外の記号も出現している。
例えばロシア国防省はインスタグラムに、同じくキリル文字にはないアルファベットの「V」を、「Z」の画像と並べて投稿している。
この画像に付けられた説明には「Za PatsanoV」とあり、これは「若者たちのために」という意味だ。別の説明には「Sila V pravde」とあり、英語に訳すと「真実の強さ」となる。
一説には、この2つのローマ字は、東を意味する「vostok」と西を意味する「zapad」を表しているのではないかと言われている。ソーシャルメディア上では、ウクライナ軍は「Z」がロシアの「東部軍」、「V」が「海軍歩兵」を指すと考えているという憶測も出ている。

トップ写真:国際体操連盟提供











