実績より求めた変化 問われる手腕 青森県八戸市長選顧みて

横山蔵利 吉備彩日
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当選確実になったとして、花束を受け取る熊谷雄一氏=2021年10月31日、青森県八戸市、吉備彩日撮影
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 36年ぶりに自民勢力が分裂して戦った青森県八戸市長選は、前県議の熊谷雄一氏(59)が、5選をめざした現職の小林眞氏(71)らに大差をつけ、勝利した。市政の課題が山積するなか、結果を左右したのは、実績より変化を求める市民の思いだった。

 「立候補の決断に至るまでに、いろいろな方々に相談し、ここまで来た。だんだんとそのことが思い起こされ、感無量です」

 10月31日午後9時半すぎ、当選確実の報道を受けた熊谷氏は八戸市内の事務所で、3カ月に及んだ戦いを振り返った。

 自民県議だった熊谷氏が立候補を表明したのは7月30日。水面下ではそれまで、自民党が推薦してきた小林氏から熊谷氏に「禅譲」して、候補者を一本化する動きがあった。

 しかし、小林氏はその後、立候補を発表。党八戸市支部は自主投票を決め、分裂選挙に突入した。

 5選をめざす現職の立候補で、多選そのものや、任期中に大型公共施設を次々と建設したことの是非が争点とされた。ただ、熊谷氏はこれまで、小林氏を支えて市長選を戦ってきただけに、選挙戦では「4期16年の実績は評価している」と批判を極力控えた。そのうえで「そろそろ市政に新しい風を」と世代交代を訴えた。

 一方の小林氏は実績を強調。大型公共施設については、市の負担は少なく、管理・運営費も圧縮したと説明。「箱もの批判は全体を見ない批判だ」と反論した。また、多選についても「健康で体調に問題はないし、まだまだアイデアも十分にある」とアピール。ただ、選挙戦最終日には、熊谷氏優位が地元メディアで報じられるなか、「市民に対し丁寧に説明すべきだった」と反省してみせた。

 投票箱を開けると結果は、熊谷氏が小林氏の倍近い約6万7千票を獲得する完勝だった。

 八戸市に住む50代の党員の男性は「小林氏が訴えた『安心や安全』『活力ある街づくり』など耳に心地よい言葉は、逆に分かりにくい。しかし、箱ものと多選批判は感覚的に判断しやすかった」と語る。

 党八戸市支部長で、熊谷氏を支援した清水悦郎県議は「現職と違い、市民との対話を前面に押し出したことが、好印象を与えたのではないか」と分析する。

 16年ぶりに首長が代わる八戸市だが、市を中心とする衆院2区でも40年近く議席を守り、絶大な影響力を誇った大島理森・前衆院議長が引退。新顔の神田潤一氏が後を継ぎ、政治状況も変わった。

 市では人口減が進み、基幹産業の水産業はイカなどの漁獲量の激減で、大きな打撃を被っている。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が地域経済に追い打ちをかけ、社会環境は厳しさを増している。

 「共に創(つく)ろう! 新しい八戸!」をスローガンに掲げ、戦った熊谷氏。39歳で市議になり、県議会議長も務めた。自民党系市議も二分した選挙を終え、行政トップとして豊富な政治経験を生かした市政運営の手腕が問われる。

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この記事を書いた人
吉備彩日
くらし科学医療部|医療・社会保障担当
専門・関心分野
医療、社会保障、共生社会