製薬会社である「大塚製薬」が、実はスキンケア製品を作っていることをご存知だろうか。しかもその成分は「ターンオーバー(肌の生まれ変わり)のサイクルを促進することでシミのもとであるメラニンを追い出す」という独自の発想から生まれ、日本で初めて国に承認されたものだという。今回は、その成分「エナジーシグナルAMP」について、10年以上の月日をかけて開発に携わった大津スキンケア研究所の原野史樹所長に、開発時のストーリーや製薬会社ならではの「排出美白」の発想が生まれた経緯について話を聞いた。


「エナジーシグナルAMP」とは
大塚製薬の「エナジーシグナルAMP」は、日本で初めて、医薬部外品として「メラニンの蓄積をおさえ、しみ・そばかすを防ぐ」という美白効果が認められた成分である。しかもその成分は肌の角質層よりさらに深い”基底層”に働きかけるというから驚きだ。
――はじめに「エナジーシグナルAMP」とはどのような成分なのでしょうか。
「AMP(アデノシン一リン酸)というのはもともと生き物の身体の中に存在する成分です。特に多く含まれているのは球根や木の芽・タケノコなど成長がさかんな植物、そして母乳にも含まれており、AMPは生き物の成長に欠かせない成分なんですね。このAMPをスキンケアに応用し、研究開発を重ねて完成したのが大塚製薬のエナジーシグナルAMPです。基底層にある母細胞に働きかけてターンオーバーを促進することでメラニンの排出をうながし、日本で初めて「メラニンの蓄積をおさえ、しみ・そばかすを防ぐ」という効果が認められた成分です」
――他の美白成分との違いはあるのでしょうか?
「はい、そのメカニズムは大きく他とは異なります。現在、美白成分として承認されている成分には他にアルブチンやコウジ酸などがありますが、これらの成分の多くはメラニン色素の合成にかかわる酵素の活動を抑え、メラニンが作られにくくする”抑制美白”の働きを持っています。いっぽうエナジーシグナルAMPは、メラニンは必ずしも”悪者”ではなく、紫外線などから身体を守る大切な色素でもあるという考えから、生成をおさえるのではなく、作られたメラニンをスムーズに排出することで健康で美しい肌を維持するという”排出美白”の発想に基づいています」

――世にスキンケア成分は数多くありますが、その多くが「浸透は角質層まで」としており、それより深い「基底層まで」と明記している成分は非常に珍しいですね。
「はい。エナジーシグナルAMPは、基底層の母細胞に働きかけてターンオーバーを促進する日本で初めての美白有効成分です。2004年に承認されて以来、2023年の現在でも同じ仕組みを持った美白成分はきわめて数少ない状況です」
「AMPという成分は肌に浸透しにくいのでは?ともいわれますが、エナジーシグナルAMPは、独自の製剤技術を開発し、浸透しやすいベース成分や水分と油分のバランスなどのテストを繰り返し、徹底的に”届かせる”ことにこだわった設計で基底層へ浸透が認められています」
「エナジーシグナルAMP」開発の道のり
肌の基底層に働きかけ、排出美白の有効成分として日本で初めて承認されたエナジーシグナルAMP。だが、その開発には実に10年の月日がかかったという。
――ターンオーバーを促進する成分AMPを見いだした経緯はどんなものだったのですか?
「まず、加齢による肌悩みの原因はなんだろう?という問いから研究がスタートしました。若く健康な肌と年齢肌の違いは、肌の生まれ変わる力…つまりターンオーバーのサイクルが遅くなっているのが原因ではないかと仮説を立て、ならばターンオーバーの出発点である”母細胞”を活性化させれば、若い頃のようなサイクルが取り戻せるはずだと考えたんです」

- ※1 顔の場合
- ※2 加齢によるターンオーバーの遅れが1.5倍(Grove GL. 皮膚角質細胞検査法 . In;高瀬吉雄他
加齢と皮膚(清至書院)1986. P63-9.)とし、正常なターンオーバーが30日の人の場合の推測値。
「ターンオーバーのスタート地点である”母細胞”を活性化させる成分には何があるのか、1000種類以上の植物や原料を分析した結果、生き物の成長にかかわる物質のAMPにたどりついたんです」
――日本初の排出美白成分・エナジーシグナルAMPが承認されるまでには苦労も多かったのではないでしょうか。
「そうですね。AMPは自然界に存在する成分とはいえ、本当にヒトに効果があるのかと最初は内心ドキドキしていたのも事実です。開発とは仮説を立てて実験し効果を検証するプロセスの繰り返しですが、なにもかもが初めての試みでしたので、実験結果の評価や安全性の確認、承認申請の書類作成など、各段階で非常に時間がかかりました」
――開発の過程で、手応えを感じたのはどんな時ですか。
「AMPを使用した試験で、ターンオーバーの速度が上がっていることや皮膚の色が明るくなっているという結果が多数得られてきた時や、使用モニターをお願いした方から、ファンデーション変えた?と聞かれたとの声を複数いただいた時は、手ごたえを感じました。最終的には本社スタッフからも、これはぜひ医薬部外品の認可取得に向けてチャレンジしよう!とGOサインが出て、承認申請へと動き出しました」

製薬会社だからこそ生まれた“排出美白”の発想
当時、前例のなかった発想とメカニズムに基づいたエナジーシグナルAMPの開発に成功し、日本ではじめて厚生労働省から承認を受けたのには、大塚製薬が人々の健康に真摯に向き合う姿勢と深い関係があるのではないだろうか。
原野所長は開発期間を振り返ってこう語る。

「コストの面ではもっと効率的な開発は可能だったかもしれません。単に美白効果があればよいというのであれば、既存の成分を組み合わせれば効果もある程度予測でき、評価や申請にも時間がかかりませんよね。しかし、それでは意味がない。大塚製薬のポリシーである”モノマネをしない”という研究開発姿勢に反してしまう…常にそう考えて開発を進めていました」
「一番に目指したのは、”どうすれば肌を健康な状態に保てるのか?”という点でした。それを念頭に置いて開発を進める中で、加齢に伴い遅くなるターンオーバーを促進・正常化させれば肌が健康になり、結果的にメラニンの排出もスムーズになって色素沈着(シミ)対策に成功した…というのがエナジーシグナルAMP開発の流れなんです。その点では一般的なスキンケア成分の開発とはかなりアプローチが違うと思われるのではないでしょうか」
これからも、健康にもとづいた“健粧品”を届けたい
大塚製薬ではスキンケア製品のことを「化粧品」ではなく、化粧品(Cosmetic)と医薬品(Medicine)を組み合わせた独自の名称である「健粧品(Cosmedics)」と呼んでいるという。
――「健粧品」に込められた意味とは。
「私たちは製薬会社として、体の中だけでなく表面を覆う肌も大切な臓器の1つとして健康を考えることが“人々の健康に貢献する”ことだと考えています。肌の悩みが解決することで、心が明るくなり日々の健康につなげていきたい…というのが、企業理念の”Otsuka-people creating new products for better health worldwide”を示す健粧品のコンセプトです。」

――エナジーシグナルAMPが日本で初めて承認されてから来年には20周年を迎えますが、今後スキンケア分野で目指す方向やミッションを聞かせて下さい。
「大塚製薬と大津スキンケア研究所は、これまでもこれからも一貫して、人々の肌の健康に貢献していきたいと考えています。また研究所では製薬会社ならではの精度が高く豊富なデータに基づく成分・製品開発を進めていきます。モノマネでなくオリジナルなもの、新しいものを創るという開発姿勢も継続していきます」
「健康的な肌が一番美しいという考え方をこれからも広めていきたい」という言葉からは、大塚製薬のすべての事業や製品に通じる健康への思いが伝わってくる。



- 原野 史樹(はらの ふみき)
- 1992年大塚製薬入社
- 健粧品の基礎試験、有効性評価を担当し、2011年から大津スキンケア研究所所長。
