Threadsが分散型SNSと連携すると、ユーザーにとっては何が変わるのか?

メタ・プラットフォームズのプロダクトマネージャーを務めるレイチェル・ランバートが主導する相互運用性に向けた同社の取り組みは、Instagramの責任者であるアダム・モッセリのThreadsのアカウントの不具合から始まった。
メタはユーザーがモッセリのThreadsのフィードを、オープンソースのソーシャルメディアプラットフォームであるMastodon(マストドン)でもフォローできるようにする機能を試験的に公開した。しかし、ユーザーがMastodonでモッセリの投稿を見ようとしても、何も表示されなかったのである。ランバートのチームは技術的な問題を解消するため、Mastodonの開発者に急いで連絡し、解消を図った。
細かな問題はあったものの、この機能の公開はメタにとって歴史的なものである。FacebookからInstagramまで、これまで同社は自社のアプリを外部のデータから隔離してきた。従って、Threadsの相互運用はメタの社員にとって新しい分野の試みとなる。「このような大きな一歩を踏み出すことはいつだってわくわくします。これまで自社のアプリを分散化したことはありませんでしたから」とランバートは話す。
Threads以外でもつながるSNS
SNS大手のメタは、相互運用を可能にするさらに多くのクロスネットワーク機能を今年提供する見通しでいる。フェディバースやActivityPubなど、SNSの相互運用に関連する専門用語に惑わされがちだが、目指しているところは至ってシンプルだ。今後数カ月内に、ThreadsのユーザーはほかのSNSのアカウントをフォローし、Threadsだけでなくソーシャルウェブのほかの場所にも表示される投稿を作成できようになる。
これを可能にするのはActivityPubという技術だ。このソフトウェアプロトコルが公開されたのは18年のことで、個々のオープンネットワークの集合体であるフェディバースの相互互換を可能にしている。
このような分散型SNSはしばらく前からある。しかし、イーロン・マスクの買収によってTwitterが混乱に陥るまで、そのユーザーの大部分は、オンラインにずっといるようなインターネットに詳しい人たちばかりだった。しかし、Xのさまざまな変更に不満をもつユーザーたちは、より歓迎され、ミームやくだらないコンテンツを投稿できる場所を探すようになった。そして、その多くがフェディバースにたどり着いたのである。
メタがThreadsを公開した昨夏、最終的にフィードを分散化させるとモッセリは強調していた。しかし、ActivityPubのような合意に基づく規格を使用するにしても、メタのような巨大企業が、Threadsと独立したネットワークの集合体とをつなぐ仕組みの構築には慎重さが求められる。
「わたしたちはこの分野に入っていく大きなクジラのようなものです」とランバートは話す。Threadsの相互運用の計画とメタの組織的な力が、分散型インターネットのより小さなサービスを圧倒してしまうことを、フェディバースの一部の管理者は懸念している。
メタは慎重にことを進めており、フェディバースのリーダーと話し合いを続けながら、機能を段階的に実装する見通しだ。こうすることで、統合にかかわる問題を解消する時間的な猶予を得られる。
「プロトコルに対応して、この機能を実装すべきか。それとも別の興味深い独自の実装を試すべきか」を考えているとランバートは話す。例えば、Threadsは、ActivityPubが現在対応していない音声の投稿にも対応している。そこでメタは投稿の“フェディバース化”、つまりフェディバースには音声の代わりに、投稿の音声を書き起こしたテキストを投稿する機能を試している。
今後のActivityPub対応における具体的な日程について言及することは控えたが、一般のユーザーは数カ月以内に新機能を利用できるようになると、ランバートは話す。まずは、公開されているThreadsのアカウントから利用できるようになり、フェディバースとの連携はオプトイン方式となる。「目指しているマイルストーンがいくつかあります」とランバートは言う。「とはいえ、最も注力している点は、ユーザーの利用体験が本当によいものであることと、サービスが問題なく機能するようにすることです」
コンテンツモデレーションをどうするか
技術的な障害以外では、フェディバース全体におけるコンテンツモデレーションについての疑問が残る。例えば、Mastodonは一部の芸術的なヌードの投稿を許可しているが、Threadsは基本的に卑猥な画像の投稿を一切認めていない。
では、誰かがMastodonに自分のお尻の写真を投稿し、Threadsでその人をフォローしている場合はどうなるのだろうか。Threadsのルールに反して、その投稿はフィードに表示されるのだろうか。また、ネットワーク間の接続が確立された場合、ユーザーのデータの取り扱いについて不明瞭な部分もある。例えば、Threadsの投稿をフェディバースにも共有したが、後から投稿を削除しようとした場合、ほかのネットワークのサーバーに一時的に保存された投稿はどうなるのか。
もうひとつの大きな疑問は、メタがそもそもなぜこの取り組みを進めるのかという点にある。メタはユーザーが自分の投稿とフォロワーをより適切に制御できるようにし、さまざまなプラットフォームの利用が便利になる手段の提供を目指している、とランバートは説明する。また、米連邦取引委員会(FTC)からメタに反独占禁止法に関する苦言があったことを考えると、メタは規制当局に対して、全体としてよりオープンで健全な競争を歓迎するイメージをもってもらおうとしている可能性もある。
分散化と相互運用性が次世代のオンライン体験の基盤となったときに備え、メタは自律と選択の自由に関する広範な議論において、少なくともそこに関われる会社であろうとしている。
「新しいソーシャルメディアの時代がまもなく幕を開けるような感覚があります」とランバートは言う。「それがどのようなものになるかについての考えはいくつかありますが、まだ学ぶべきこともたくさんあります」
(WIRED US/Translation by Nozomi Okuma)
※『WIRED』によるThreadsの関連記事はこちら。SNSの関連記事はこちら。


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