
特撮番組のファンとして知られ「日本特撮党党首」を名乗る読売新聞編集委員の鈴木美潮さん(50)が、「昭和特撮文化概論 ヒーローたちの戦いは報われたか」(集英社クリエイティブ、1500円)を刊行した。小学生の時に出会った特撮番組への思いが現在も変わらないどころか、さらに深まったという鈴木さんの愛があふれた一冊。“卒業”してしまった大人たちにも、改めて良さを思い出してほしいと願っている。(高柳 哲人)
「仮面ライダー」「スーパー戦隊」「ウルトラマン」のシリーズなど、子供たちに夢と勇気を与え続けている特撮番組。鈴木さんが、“初恋”をしたヒーローは、1971年から放送が開始された「ミラーマン」だった。
それから40年余り。新聞記者として文章を書くのに慣れている鈴木さんにとって、人生をささげてきた作品を振り返る作業は、楽しくて仕方なかったのかと思いきや「途中で『どこかに逃げようか』と本気で思いました」という苦労の連続だったという。
「自分が当時、見ていなかった作品も取り上げたので、DVDを45万円分は買いました。ほぼ記憶が残っていても、セリフの細かい部分など確認しないといけないのもあったので、昨年の10月から今年の1月までは、休日は一日中DVDを見て過ごしましたね。文章を書く時も、新聞の記事とは全くスタイルが違うので、切り替えるのに1か月かかりました」
小学校から高校までを私立の女子校で過ごした。小学生低学年の時は、女の子同士でも「ライダーごっこ」が流行していたという。だが、周囲の友人はアイドルやおしゃれなど、別のことに徐々に興味を持つようになる。そんな中、鈴木さんだけは特撮の世界にのめり込んでいった。
「ただカッコイイとか強いとかでなくて、特撮作品には強いメッセージがあるということを発見したから、ハマったんだと思いますね。作品から世相や時代の空気はもちろん、教訓のようなものを受け取ったんです」
本書も、単に過去の作品を「懐かしさ」として振り返るだけでなく、その時々の時代背景との関連性を織り交ぜながら書かれている。そのため、参考とした書籍は特撮に直接関係のないものの方が多く、その数は約160冊にも及んだという。
「特撮番組は子供だけのもの」という見方を強く否定する。かつて、特撮番組の出演女優と居酒屋で盛り上がっていた時、2人の話が耳に入った中年男性から「あんなの、子供が見るものだろ?」と声をかけられ、「何言ってるの!」と説教したこともあるという。
「アニメは『文化』として認められているのに、特撮はそうでないのはおかしいと思いませんか? 特撮映画が日本の映画賞を受賞することはないし、大人が『ガンダム』が好きって言っても『面白いよね』と言われるのに、特撮が好きと言うと半笑いされる。でも、海外では同じように『文化』として見られているんです」
そして、特撮番組に流れる精神は、現在の日本にこそあてはまると考えている。
「ヒーローたちは皆、戦いたくて戦っているわけではないんです。いわば『非戦のための戦い』。そんなヒーローたちについて書いた本を、戦後70年の今年に出せたのは、私に課せられた使命だったのかな、と思っています。まあ、そんなカッコイイものじゃないかもしれませんが(笑い)」
◆鈴木 美潮(すずき・みしお)1964年12月21日、東京都生まれ。50歳。法政大学を経て米ボストン大学へ留学。在学中に米国連邦議会下院議員事務所でインターンを経験。89年、読売新聞社に入社。政治部、文化部などを経て、現在は東京本社メディア局編集委員。「日本特撮党党首」を名乗り、特撮ヒーロー番組の関係者を招いてのトークライブイベント「340 presents」を主催。豊島区国際アート・カルチャー都市プロデューサー。
◆プレゼント 「昭和特撮文化概論 ヒーローたちの戦いは報われたか」のサイン本を3人に。希望者は、はがきに〒住所、氏名、年齢、好きな作家、社会面の感想を書き、〒108―8485 報知新聞社文化社会部 BOOK「鈴木美潮」係まで。7月16日の消印まで有効。当選者の発表は発送をもってかえます。
【鈴木美潮さんが選ぶこの1冊】
◆「なぜ時代劇は滅びるのか」春日太一著
「ヒーロー―」の執筆前に読み、感銘を受けたのが「なぜ時代劇は滅びるのか」(新潮新書)。時代劇研究家を名乗る著者の春日太一さんは、まだお若いのですが、業界のしがらみを一切抜きにして、舌鋒(ぜっぽう)鋭くバッサバサと時代劇の悪いところを切り捨てています。「よくこんな内容の本を出すことができたな」と驚きました。
実は、特撮番組は時代劇とつながりがあるんです。スタッフの中には、京都(東映京都撮影所)からいらっしゃった方が多いですし、「水戸黄門」の印籠を見せるシーンは、ライダーや戦隊シリーズに通じるところがありますしね。スタッフの中でも、よく「これから時代劇ってどうなるんだろう?」という話は、時々出ていました。
もちろん、春日さんが批判をするのは「時代劇が好きで、もっと良くなってほしい」という一心からです。魂を削って書かれた内容には「そうだよね」と感じるところが多くありました。編集の方には「私の本も、こういうものにしたい」と伝え、ガツンと覚悟をもらったことを覚えています。
今回、本を書く時には「誰も傷つけないように気を付けるけど、気を回すのはやめよう」ということを頭の中に置いていました。この本もそうだと思いますが、時には厳しい言葉も投げていかないと、いい方向には変わっていきませんから。(談)
【新刊レビュー】
▼「京都綺談」(実業之日本社、1944円)京都を舞台にした作品のみを編んだ短編集。華やかな歴史と伝統の陰に、ひっそりとうごめく暗い情念の世界…。芥川龍之介「藪の中」、渋沢龍彦「女体消失」、水上勉「西陣の蝶」、森鴎外「高瀬舟」など8本の名作を収録。編者の推理小説研究家・山前譲による解説も。
▼「佐治敬三と開高健 最強のふたり」(北康利、講談社、1944円)戦後の高度成長期、まだ「寿屋」と呼ばれていたサントリーでは、社長とヒラ社員がコンビを組んでヒットを連発した。2代目社長の佐治は無謀なビール事業に挑み、コピーライターの開高は芥川賞作家へ上り詰める。伝記ノンフィクションの名手が活写する友情。
▼「ハーバード流 幸せになる技術」(悠木そのま、PHPビジネス新書、940円)世界最高峰の頭脳が集まるハーバード大では、超エリートたちが成功の陰で失った「本当の幸せ」も追究している。物心両面で幸せをどうつかむか。同大学研究者らの膨大な論文や講演から探り出した、幸せを見つけるためのとっておきの方法論。